おつかい
約一年ぶりの更新!お待たせしました。
お楽しみください
リュウグが部屋から出ていくと、途端にシンと静まり返った。何だかんだ言って、イリスとパンナの会話にはリュウグが必要不可欠だ。
知識の足りない者同士の会話は、どうしても長くは続かず潰えてしまう。
(ボクがもっとお話し上手だったらなぁ)
そうしたら、イリスはもっと楽しそうにしてくれただろうか。
町の中で虐められていたパンナを救ってくれた大恩人。その人に喜んで貰うのが今のパンナの目標だ。
イリスは自分の荷物から手紙のような物を出しては、難しい顔で見つめている。
(読まないのかな?)
それともパンナがいるから読めないのだろうか。
パンナはハッと気が付き、干してあった半乾きの服を手早く着てローブを被り、扉の前に立った。
「イリスさん。ボク、夕飯買ってきますね。手軽に食べられる物でいいですか?」
イリスは顔を上げると、パンナの姿を上から下まで見回した。
「一人で行けるのか?」
「買い物は、身売り時代にもやらされていましたから、金勘定や屋台の位置なども何となく分かります」
「そうか……」
パンナが胸を拳で軽く小突いて自信を誇示すると、イリスは納得した風に瞼を伏せ、立ち上がった。
財布から半銅貨十枚取りだし、手拭いと紐で即席の財布を作ると、パンナの首から下げた。
「肉が入っていたら嬉しい。乾物系ではなく焼いたもの、タレが好きだ」
イリスの好みを知り、頼られているのだと分かると嬉しくて尻尾をブンブン振ってしまった。こんなに嬉しいことはない。
「分かりました! 一番、美味しいヤツを買ってきます」
「頼む。……2つな」
「2つですね」
久しぶりの町の料理だからだろうか。肉料理を二人前食べたいなど、よほど好きなんだなあと思っていると、人差し指を向けられた。
「おまえと、」
人差し指はゆっくりとイリス自身を指差す。
「私の分だ」
イリスのさり気ない気遣いに涙が零れそうになる。パンナは受け取った財布をギュッと握りしめ、首を縦に何度も振った。
「はい! 分かりまじだ、ありがどうございまず!」
鼻をズビズビさせていると、頭に新しいローブが掛けられた。洗って半渇きになったものではなく、イリスの荷物から新しく出したものだと分かる。
「夏用のマントだ。少し大きいが問題ないだろう」
パンナは窓に映る自分の姿を見ると、確かに大きいがちゃんと顔や耳、尻尾が隠れているし裾を引きずることもない。
「汚ざないどうにぎまず。じゃんと洗濯じでがえじまずがら!」
パンナは自分の涙や鼻水でマントが汚れないよう気を付けようと思った。……少し遅かったようだが。
そんなパンナをイリスは無表情のまま、パンナの頭を優しく撫でて「いってらっしゃい」と呟いた。
パンナは耳を立てて「いっでぎます!」と大きな声を出して、扉を開き外に出て走り出した。
マントのフードが取れないように気を付けながら、口端が上がるのが止まらない。
嬉しくて嬉しくてどうにかなってしまいそうだ。どうしてイリスはあんなにも優しくて完璧なのだろう。
(ボクも、あんな風になりたい……)
守られる側ではなく、守る側に。
強くなりたいと心から思った。




