旅の途中 ~蛇~
翌日から、一行の道無き道の旅は始まった。険しい獣道に苦戦しながらも、川を見つけることができたのは開口だ。
飲める水かを確かめた後、水筒いっぱいに水を足してから方角が許す限りは下流に沿って歩いた。
途中、蛇や鰐に出会したが、イリスの剣戟とリュウグの暗器で事なきを得る。ついでとばかりに、イリスは蛇を焼き、リュウグは鰐の皮を剥いで洗った。
「あの、鰐の皮を洗ってどうするんですか?」
「ん~? 売るんだよ。鰐は獰猛な生き物だが、その皮は防具に加工することができる貴重品だ。旅人はこうやって、獣の毛皮やら珍しい野草を採集したり、町先の依頼所――仕事斡旋所で依頼をこなして金を得るんだ」
そう言えば、イリスに出逢ったのも依頼所の仕事がきっかけだ。つい三日前のことなのに、随分と昔に感じる。
リュウグは鰐の皮を水から出して、手頃な木の枝に吊して乾かした。
「これで、よしっと」
「リュウグ、パンナ、こっちもできたぞ」
イリスは薪で焼く魚のような感覚で、木の枝に刺してある蛇を手の平で示した。リュウグもパンナは「ゲッ」と声を揃える。
「……ってか、蛇を食うって斬新な考えだよな。カルストでは一般的なのか?」
「一般的……。いや、私の場合は剣の師から色々と教わっただけだから、一般的なのかは分からない」
「ふぅん、あんたの剣って自己流じゃないんだな」
「師の独流だ。敵は枯れ葉のように切り捨てるべし、そう教わった」
「あんたの大雑把のルーツを垣間見た気がする」
弟子は師に似るとは本当のようだ。呆れて息を吐くリュウグの前に、蛇の串刺しが差し出される。
(……男は度胸)
白目になっている顔の部分を見ないように腸を噛み千切る。
「……へえ、美味いな」
「! 本当だ、美味しいです」
背中のローブがバサバサと揺れているのを見ると、尻部に生えている尻尾を振っているようだ。
二人の言葉にイリスは破顔し、自身も蛇に食らいつく。
「なら、良かった。旅の行商人には不評だったが、味は確かなんだ」
ふわふわの肉身に香辛料が絶妙な加減で加えられ、蛇独特の臭みがない。見た目さえ気にしなければ普通に美味しい分類に入る代物だ。
リュウグは頭を千切り、それ以外の部分を喰らった。流石に頭部は無理だ。それは調理をしたイリス自身も同じなようで、頭以外の部分を完食している。
「いっそのこと、頭を最初から切り落として開きにして焼けばいいんじゃないのか? 確か、海の幸でも似たような蒲焼きっていう料理があったはずだ」
海方面はあまり馴染みがなく記憶があやふやだが、確か一度だけそんな料理を食べた気がする。
「なるほど、嫌悪すべき部分は最初から排除すればいいのか」
「まあ、そうだが、言い方……」
イリスは「ふむ」と得心がいった風に頷くと、茂みの方へと姿を消した。恐らく、実践するつもりなのだろう。
「大丈夫でしょうか、イリスさん」
「……あいつの腕っぷしは疑う余地はねえよ。それよりも、あいつが拾ってくる蛇に気を付けないとな」
「イリスさんが拾ってくる蛇に気を付けるんですか?」
先ほど、イリスが調理した蛇は全て絶命済みだ。今回も同様な状態だろうが警戒は怠らない方が良いだろう。何せ、イリスはーーーー。
「毒蛇か、毒無し蛇か、気にせず取ってくるからな」
冷や汗を流すリュウグに、パンナは蒼白した。
結局、イリスが採取してきた蛇の中で、調理できた数は十数匹中のたったの四匹だけだった。




