警邏隊
別の人たちsideになります。
馬を走らせ、脇道も注意深く見るが見当たらない。
「完全に巻かれたみたいだな」
「ええ、御者の理解度が低かったせいで妙な足止めを喰らいましたからねぇ。それに勘の良いヤツがいたんでしょう」
先に馬を止めた男が警邏仲間を促すと、彼は腰に吊していた巻物型の依頼書を取って紐解く。
そこにはワドマン豪商からの依頼内容が記されていた。
『 曰く、使い出した獣族の子供が誘拐されたこと。
相手は二十代前後の瑠璃色の長い髪をした若い男性であること。
背中に武器を背負っていた為、冒険者であること。
依頼成功時には銅貨十枚を支払うこと。』
読み上げを行っていた男は巻物を元に戻しながら眉を寄せた。
「たかが奴隷風情によくやりますねぇ」
「……奴隷は非合法だ。依頼書がなかったら、この証拠を上層部に突き付けてワドマン豪商狩りになっていたのにな」
「運がないッスね」
ケタケタと笑う仲間を一睨みすると、男は「ぴゃっ!」と小さい悲鳴を上げて、わざとらしく巻物を胸に抱き寄せた。
「民間人を守るのが警邏の役目。俺は一刻も早く誘拐犯を見つけて、町に平穏を取り戻してやる」
「ヒュ~~、かっくぃ~~。流石は警邏隊一の出世頭レヴィアン隊長!」
「そういう貴様は、その態度のせいで出世道から外れているのだぞ? ギルダ」
「あ~~。俺って元々、警邏に入る気なかったんですけど、家でぷー太郎してた俺を見かねて親父が無理矢理、警邏の試験受けさせられたら見事に合格しちゃって、今この場にいるんスよね~。隊長のような忠誠心っつーか志みたいなものは一切ないんです」
もしも、この場に厳格な古参な警邏隊がいれば、ギルダは物理的な打ち首になっていただろう。
(だから、俺のところに回されたとも言うな)
他の出世欲のある同僚にハメられたとも言えるが、レヴィアンとしてはどうでも良いことだった。ギルダは一見、オチャラけているようにしか見えないが、実際に一緒にパトロールをしている時、彼が見つけた犯罪や証拠の数は数知れず。
今回の誘拐犯の特徴も、全て彼が調べてくれたお陰だ。
(町を守る為には必要不可欠な能力だ)
レヴィアンは、ギルダの希望で辞めたり別の町に異動しない限りは、ずっと彼とバディを組んでいくつもりだ。それ位は彼のことを気に入っている。
「一旦、町に戻るぞ。情報をまとめたい」
レヴィアンが馬の方向を町に戻る道にすると、ギルダは一瞬だけ、視線を左にズラした後、「ラジャ!」と短く返事をして、レヴィアンの後に従った。
ギルダには天性の勘があった。その事にレヴィアンかギルダが気付いていれば、彼らはその日中に誘拐犯を捕まえることができたかもしれなかった。




