序章
完全ファンタジーです。最後までお付き合い下さってくれたら幸いです。
小さな頃は、きっと立ち寄る村々にいる子供のように純粋で無邪気な子供だったのだろう。何も知らず、純粋で、汚れがなく、明るい未来が約束されているような、どこでにもいる普通の子供だったのだと思う。
目を閉じて過去を振り返ると、真っ先に思い出すのは古い山小屋。斜面の厳しい山の中にひっそりと建つソレは、雨漏りが酷く、夏は暑く、冬は寒くを徹底した文字通りのボロ屋だった。そこで小さな2人の子供と母親が3人で暮らしていた。
父親は放浪癖があり、子を身籠もった母をそのボロ屋に放っておいて1人旅を続けているのだという。何て薄情な父親だ! と兄と一緒に文句を言っていたが、その度に母は困った笑みを浮かべて「あの人はそう言う人だから、私の都合で動かしちゃいけないのよ」と、子供達を諭していた。
けれど、子供達には母親の気持ちが分からなかった。父親の居ない生活、しかも人里も遠く、誰に頼ることでもできないボロ屋での生活を強いるなど、正常な精神の持ち主とは思えない。
だから、物心が付いた頃から子供達は母を支えるようにした。少しでも母の負担にならないように、兄と協力して生活していた。
それなのにーーーー。
あの日、森へ山菜の採集に行っていた時、たまたま見つけたお花畑に目を奪われ、母親のお土産にしようと立ち寄った。もしも、お花畑に寄らなければ、採集に行かなければ、あんな事にはならなかったのだろうか。
両手いっぱいに花を持って、走ってボロ屋に帰った時、小屋の前に見慣れぬ青年が佇んでいた。
瑠璃色の髪に茶掛かった橙色のマントを掛けた青年は、母の三倍近くはありそうなほどの筋肉質だった。草を踏む音に気が付いて振り返った青年は金色の猫のような瞳を向ける。
青年の手には銀の大剣があり、剣先に赤い物が付いていた。
恐怖で声が出なかった。
「お前は・・・」
青年が手を伸ばしてくる。まるで人食い熊に襲われそうな錯覚に陥り、踵を返して走り出した。
「待てっ!」
青年の制止の声を振り切り、持っていたもの全てを放り投げて走り続ける。
怖くて怖くて堪らない。
慣れた山道を走り続けたが、そこは子供の足。すぐに追いつかれ背中を切られた。
「!?」
あまりの激痛に目の前が真っ白になる。
地面に顔を擦り、呼吸をする度に背中に激痛が走り、涙が溢れる。
横腹を蹴られ、身体が宙に浮いた。
崖から落とされたことは分かったが、どうすることもできない。
涙で視界がぼやける先に見えたのは金色の光りだった。