第五話 新たな依頼主
第五話 新たな依頼主
猪を狩ってから三日。その間、シェイたちはお婆さんからの頼み事も無く普段の生活に戻っていた。彼らは頼まれなければ何もする事は無い。
彼らは森の中を歩き回ったり、海へ行って後先を考えずに飛び込んでみたりした。
「暇だな。」
レンは海を見つめたまま呟いた。
海の見える海岸に座るシェイたちは、何かが抜けおちたようだ。
「そろそろ、戻るか。」
レンは一人立ち上がり村へと歩き出した。二人はその姿を見るも、すぐにまた海を見た。
そこには波と風の音がきこえるばかり。
「お婆ちゃん。もう頼み事が無いのかな。」
サラの声に、シェイはサラを見る。サラはシェイを見る事無くじっと海を見ていた。
「これからは自分たちで誰かから依頼を受けたほうが良いんじゃないかな。」
シェイは視線を海に戻すと、サラへ言った。
「自分たちでって。そう簡単に頼んでくれる人が居るの。」
サラがシェイを見て言う。
「どうだろう。居ないかもな。」
シェイは砂の上に仰向けに寝転がり、空を見た。空には鳥が何羽か飛んでいる。
「僕らは本当にマテリアルハンターなのかな。」
隣に居るサラも寝転がった。
「私たちがマテリアルハンターなのは確かよ。それが本物かどうかは別としてね。」
「本物か。」
二人はそれからしばらく波の音を聴きながら空を見た。
二人が村に戻ると、お婆さんの家の前にお婆さんと何人かの村人が居た。お婆さんがこちらに気が付くと、お婆さんと一緒に居た人達はどこかへ行ってしまった。
「お婆ちゃん。どうしたの。」
サラがお婆ちゃんに近づく。
「お前たちの次の頼み事が決まったよ。サラ、レンを呼んできてくれないかい。」
お婆さんは実に嬉しそうに見える。サラは頷くとシェイを見た。
「ちょっと行ってくるね。お婆ちゃんと一緒に居て。」
サラはそれだけ言うと、走ってレンの住んでいる家に向かって走っていった。
「外に突っ立っているのもなんだろう。家に入りな。」
お婆さんは自分の家に入っていった。シェイもお婆さんの後を追ってお婆さん家に入る。
しばらくするとレンを連れてサラが家の中に入ってきた。
「次の頼み事が決まったって。次はどんなのだい。」
レンは腰をおろすとお婆さんに尋ねた。サラもお婆さんの傍に座る。
「新しい頼み事はね。森の奥の方に居る白大鷲の卵を採ってくるんだ。採ってきたら、そのまま卵をテマのとこへ持って行くと報酬が貰えるよ。」
お婆さんの言う白大鷲とは森に棲む真っ白い大きな鷲のことだ。また、テマとは村で薬草やその他変わった薬を扱うお店の店長である。
「あれ、卵が欲しいのはお婆さんじゃなくてテマなの。」
レンがお婆さんを見て尋ねる。シェイとサラもお婆さんを見た。
「そうさ、この間お前達が猪を狩ってきただろう。それを見たテマがお前たちに頼みたいと私の所に来たのさ。何時までも私の頼みだけを聞いてちゃ良く無いよ。」
お婆さんの表情は嬉しそうにも寂しそうにも見えた。
「よし、まだ昼前だから。今から行ってこようぜ。」
立ち上がって他の二人に言ったのはレンだった。シェイとサラはレンを見上げる。レンの表情から何か足りなかったものが見つかったように見えた。
「そうだね。行こうよ。」
シェイはレンに頷くと立ち上がった。
「二人だけじゃ心配だもの。」
サラも立ち上がる。お婆さんはシェイたちの顔を順に見ていった。
「じゃあ、気を付けて行ってきな。」
シェイたちは力強く頷いた。
シェイたちはそれから軽い食事をとると森へと向かった。
シェイたちが森の中に入ると急に肌寒くなった。森の外では太陽が容赦なくシェイたちを照らしていたためかもしれない。
お婆さんの「森の奥の方」という発言から森の入り口近くでは無い事は分かった。
シェイたちは森の奥へ進んでいく。お婆さんの話では、白大鷲は木の上に巣を作って卵を育てているらしい。木に登る必要があるようだ。
さらに奥へ進む間に大蜂や猪を見るが、こちらに向かってきた場合だけ対処した。
「見つからないな。どこに居るんだ。」
シェイたちは木々に隠された空を見渡す。しかし、それらしい巣が見つからない。
「居ないね。」
サラも辺りの木々を見ているが見つけてはいないらしい。
その時、シェイの視界の端に白い大きな物体が見えた。
「あれ、まさか。」
その物体に近づくにつれて、真っ白い羽を持つ白大鷲とその巣を発見した。すぐに、他の二人にも知らせる。シェイたちはその巣の下に近づいた。
「これか。しかし、巣には一羽がくっ付いているぞ。どうするよ。」
レンがシェイに意見を求めてくる。
「一羽を追い払った隙に誰かが巣の中の卵を採ってくるのがいいかもな。」
シェイはレンに意見を述べた。レンはシェイの発言に頷いた。
「そうだな。三人居るんだからそれぞれ地面、木の中腹に待機と実際に鳥を追っ払って卵を採る役割に分けたほうがいいな。じゃあ、俺は中腹で。」
役割分担を提案したレンがそのまま自分の役割を決めてしまった。レンはシェイを見て続けた。
「まさか、サラに木の上に登らせはしないよな。」
レンの言葉にシェイはため息をつく。
「分かったよ。僕が卵を採ってレンに渡す。レンはサラに渡してよ。」
「わかったわ。」
サラもこの作戦に納得したようだ。
シェイは木の上に見える巣を見た。
「じゃあ、行くよ。」
シェイは巣がある木へ静かに登り始める。レンはその後を追って登り始めた。
シェイの体はゆっくりと地面から遠ざかり、少しずつ巣へと近づいていく。
すると、突然白大鷲が鳴きだした。シェイたちに気が付いたようだ。
「なんでだよ。」
シェイは一気に登り、巣に居る一羽の邪魔をする。剣でひと突きも考えたが、この状態では剣も出せない。
「ほら、早くどいてくれ。」
頑なに拒む白大鷲を巣から離すとすぐに卵を一つレンに渡した。卵自体はそれほど大きくは無いが重量がある。
「ほら、早くしろ。」
シェイは一つ渡すと、すぐにもう一度巣を見て卵を採った。巣には四個の卵があったので、その内の二つを頂くことにした。
「痛い、痛いっての。」
シェイがレンに二つめを渡そうとしたとき後ろから白大鷲のくちばしで攻撃された。危うく二つめを地面に落としそうになったが、レンが受け取ってくれた。
シェイはすぐに木を下り始めた。少し木を下りると木の途中から一気に地面へ向かって飛び降りた。
「逃げるぞ。」
レンは先ほどシェイが渡した卵を持ったまま走り出した。サラも卵が入った袋を両手に持って走り出す。
シェイが木を見ると、白大鷲がこちらに向かって急降下してきた。
「本当かよ。」
白大鷲をかわすと、レンやサラに追いつこうと必死に走った。その背後を白大鷲が追ってくる。シェイが二人に追いつくと、白大鷲はシェイたちを追い始めた。
「ごめんなさい。」
サラは走りながら叫んだ。追いかける白大鷲の気持ちも分かるのだろう。
「きりが無いぞ。なんか方法は無いのか。」
シェイは他の二人に言った。
「早く森の外に出ましょう。外までは追いかけてこないと思うわ。」
「猪はそれで失敗したんだよ。外まで追いかけてくるかもしれないぞ。」
サラの言葉にレンは過去の失敗を上げた。
「他にどんな方法があるのよ。」
サラの声にレンはシェイを見る。サラはレンの言いたい事を理解した。
「斬らないでよね。」
サラはシェイに叫んだ。シェイはサラの迫力に頷く事しか出来なかった。
目の前に光が見えてくる。もうすぐ森の外だ。
シェイたちは冷たい森の中から太陽に照らされた外に出た。
「追いかけてきたか。」
レンは体を反転させて森の入り口を見た。他の二人も同様に森の入り口を見る。
しかし、待っても白大鷲は森を抜けて出てこなかった。
シェイたちは何度も振り返りながら村へと入った。
そのまま、テマの居る店へと向かう。
「おお、ごくろうさん。」
店先にはテマと共にお婆さんが居た。二人とも椅子に座っている。シェイたちを待っていたようだ。
サラとレンは採ってきた卵をテマに渡した。
「うまくいったみたいだね。」
お婆さんはシェイたちを見て言った。
シェイたちは走り疲れて居たがなんとか笑顔で頷いた。
「ほら、これが報酬だよ。よかったら、またお願いしたいね。」
シェイたちはそれぞれテマから報酬であるお金を受け取った。
「そうだね。その時は私に言っておくれ。じゃあ、私は帰るよ。」
お婆さんはテマにそう言うと、シェイたちを見た。
「三人とも今日はお疲れ様。帰って休みむといいよ。また何かあったら呼ぶからね。」
お婆さんはシェイたちにそれだけ言うと自分の家へ向かって歩き出した。
テマはお婆さんが家へ向かうことを確認すると、シェイたちを見た。
「お疲れさん。お婆ちゃんは三人が心配だったんだよ。うまく行くかどうかね。」
シェイたちはテマの言葉からお婆さんが心配していた事を知った。
三人はテマにお礼を言うとその場を離れてそれぞれの家へと戻った。
次の日から、村に居る他の人たちがお婆さんを介してシェイたちに頼み事を言いだした。森の中に生えている何とかと言うきのこを採ってこいとか、猪を三頭同時に狩ってきて欲しいなどである。
シェイたちはその都度森や海に行って依頼された素材を採ってきた。
だって、彼らはマテリアルハンターなのだから。