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第四話  依頼と自らと

   第四話  依頼と自らと


シェイ、レン、サラの三人は村を出て森へと向かっていた。空を見れば太陽は低く、肌に触れる空気は温まっていない。逆に寒いくらいである。

「なんでこんな時間から行くんだよ。」

レンは隣を歩くシェイに力なく言った。サラは二人の少し後ろを歩いている。三人ともそれぞれの武器を持っている。

「しょうがないだろ。サラが叩き起こしたんだから。僕だって……。」

その時、眠そうなシェイとレンの間にサラが入り込んだ。サラは二人を交互に見る。

「あんたたち二人は二度目でも、私は初めてなの。その点少しは考えてよ。」

「まさか、緊張して朝早く起きたのか。」

レンは語尾を上げてサラをからかう。サラはレンをじっと見ると、視線を前に戻した。

「仕方ないじゃないの。」

サラは小さく呟いた。

三人は森に入り、大蜂を探して森の中を歩いた。

「さてと、どこに居るのかな。」

 レンは危機感の無い声を出して辺りを見ている。今日の彼は昨日の毒針への反応とは違う。あえてふざけた口調をすることで、今ここにいるのかもしれない。

シェイとサラもレンを見失わない程度に離れて歩いた。あまり、べったりとくっついているのもよろしくない。

しばらく歩いても、蜂らしい生物は発見出来なかった。

「見つからないな。何処に居るんだろ。」

シェイがため息交じりに言う。その背後から、何か嫌な音が聞こえてきた。

「え。」

シェイはゆっくりと後ろを振り返る。そこには名の通り大きな蜂が飛んでいて、尻尾の辺りをシェイから見て奥に引き上げていた。 尻尾を下げると同時に針を突き刺そうというのだろう。

「うおっ。居たぞ。」

 シェイはすぐに大蜂から離れるとともに、残り二人に報告する。それとほぼ同時に、大蜂は尻尾を勢い良く下げて針を刺そうとした。シェイは十分離れていたために針には触れなかった。

「大丈夫か。」

シェイの声に集まるレンとサラ。しかし、三人を囲むように数匹の大蜂が近づいてきた。

「さてと、頂きますか。」

シェイは剣を抜き、目の前の大蜂に対して水平に剣を振った。大蜂の体は簡単に真っ二つになり、地面に落ちる。

シェイはすぐに、他の大蜂に狙いを変える。視界の隅で、レンとサラがそれぞれ自分の剣で切り始めていることが確認出来た。

二匹の大蜂が、シェイの前に現れる。交互に二匹を見ながら斬るタイミングを待つ。

「きゃあ。」

その時、サラの悲鳴が聞こえ、倒れる音がした。シェイはすぐに目の前の二匹を真っ二つにすると倒れたサラの傍へ寄った。

「どうした。」

すぐにシェイの近くから嫌な音が聞こえ始める。

「邪魔なんだよ。」

シェイは振り向きざまに、剣を振る。大蜂の体を二つにすると嫌な音は消えた。

「大丈夫か。」

シェイはすぐにサラを抱え起こす。

「うん。大丈夫みたい。」

サラはゆっくりと立ち上がると大蜂に向かっていった。

シェイも近くに居た大蜂を斬っていく。

「これで終わりか。」

しばらくすると三人の周りには動かなくなった大蜂が散乱していた。

「サラ、大丈夫なのか。」

レンが心配そうにサラへ聞く。

「大丈夫よ。さっさと針を集めてお婆ちゃんの所へ持って行きましょう。」

サラは早速持ってきた袋に針を入れていく。ほとんどが剣で半分に切っただけなので、大蜂の下半身がそのまま残っている。その見た目はあまり良いものではない。その状態から針と毒の入った袋を上手に取って自前の袋に入れていく。

「あちゃ。」

レンを見れば、毒の入った袋を破ってしまっていた。

「針だけでも良いって言ってたから大丈夫よ。」

サラがレンに優しく言う。

一匹ずつ針と毒の袋を取り除いていくと、後には大蜂の上半身だけが地面に転がっていた。

「これで全部かな。」

シェイは立ち上がると、背伸びをする。針を採るためにしゃがんで作業をしていたために体を伸ばしたくなっていた。

「さあ、帰りましょ。」

三人は針を入れた袋を持って森を出る。そして、村へと戻った。

「婆さん。持って来たぜ。」

 レンはお婆さんの家に入る。シェイとサラも順に入った。

三人はお婆さんの前に袋を並べる。

「ありがとうね。こんなに早く採ってくるとは、やはりあんた達には素質が有りそうだね。はい、これが今回のお礼だよ。」

 お婆さんは三人にそれぞれ今回の報酬を渡した。そして、お婆さんは三人の持って来た袋の中身を順に調べ始めた。

「あったあった。」

お婆さんは袋から毒の袋が付いた針を取り出す。また、傍に置いておいた水筒に使えそうな小さな竹筒を取った。毒の袋を割って、中の液体を竹筒の中に流し込んでいく。

「お婆ちゃん。何してるの。」

お婆さんはサラの声に一度手を止める。

「毒を集めているのさ。これを使えば、大きな動物だって倒せるよ。」

お婆さんは竹筒に蓋をすると、持ち上げて眺めた。そして、サラに手渡す。

「サラにあげるよ。無いよりは良いだろう。ただし、食用の動物には使っちゃいけないよ。その毒が人間の体に入っちゃうからね。」

サラは受け取った竹筒を一度見ると、自分の横に置いた。

「婆さん。次の頼み事は何だい。」

レンが聞く。お婆さんは何も反応せず、黙って何かを考えているように見えた。

「私からのお礼が無くて良いならあるよ。」

お婆さんは三人を見た。

「森へ行って、猪一頭を狩って村まで持ってくるんだ。猪は自分達で食べるのもいいし、誰かが買ってくれるかもしれないよ。買って貰えれば、そのお金はそのままお前達のものだよ。」

シェイは猪という単語に反応する。薬草を採りに行った時、執拗に追いかけられたからだ。

「猪か。一頭ならなんとかなるだろう。」

レンがシェイを見る。シェイはレンに頷いた。今回は三人で武器もある。前回とは違う。

「大丈夫よ。三人で一頭なんだから。早速行って来ましょうよ。」

 サラは立ち上がり、レンとシェイを見る。

サラからは恐怖というものが全く見られない。

「サラ、落ち着きなさい。」

 お婆さんの声がサラの動きを止める。

「お前達まだ何も食べて無いだろ。ちょっと待ってな。」

お婆さんは台所へ向かい、すぐに戻ってきた。手には大きめの魚がのった皿を持っている。

「これを食べてきな。」

三人の前に出されたその魚は、既に焼かれており一部が食べられていた。

「魚を貰ったんだけどね。こんな大きな魚は私一人じゃ食べきれないよ。良かったら三人で食べなよ。」

 目の前に出された魚から漂う焼けた良い匂い。匂いはすぐに広がり、嗅覚を刺激する。

三人は素直に魚を頂いた。



お婆さんから貰った焼き魚でお腹を膨らませると、お婆さんの家を出た。

お婆さんの話では、出来るだけ村近くまで猪をおびき寄せてから殺す方が良いと言われた。三人で運ぶには重いという理由かららしい。三人は運搬用の紐を調達すると村を出た。

「どうする。三人居るんだ。それぞれ役割を決めたほうがいいだろ。」

森へ向かう途中、レンは横を歩く二人を見た。

「そうだな。三人揃って森の中で猪を殺すよりは、誰かが外までおびき寄せたほうが良い。だとすると……。」

 その時、サラがレンとシェイの前に出る。

「私が猪をおびき寄せるわ。二人は森の外で待っててよ。」

二人はサラの自信たっぷりな言動に言い返す言葉も無く。サラが猪をおびき寄せることになった。

三人が森の前に到着すると、サラはレンとシェイを見た。

「じゃあ、行って来るからね。」

 シェイは心配そうにサラを見た。

「大丈夫よ。心配しないで。大きいの連れてくるからね。」

サラはシェイの気持ちを掻き消すかのように言った。サラは体を反転させると森の中へ入っていた。

「行ったな。」

レンの言葉にシェイは頷く。二人は、少しずつ森から距離を取る。

「それにしても、恐れを知らないって恐いな。」

レンは呟く。シェイは無事に戻ってくる事を願った。



サラは森の中を歩いていた。彼女の周りには鳥の鳴き声ばかりが聞こえる。それでも、サラの手は剣に触れている。何時何が出てくるか分からないからだ。

サラは同じような光景をしばらく歩くと、前方に猪を発見した。草木に見え隠れする猪の姿は大きい。

「居たわね。」

サラはわざと猪に見える所に立ち、弓を引く。先制攻撃をする事で、優位に立とうとした。

狙いを定めた時、耳元に煩わしい音が聞こえてくる。その場を跳び跳ねて離れると、大蜂が一匹居た。

「なんでこんな時に出てくるのよ。」

サラは剣を抜き、大蜂を真っ二つに斬る。

すぐに猪が居た方向を見ると、音に気が付いてゆっくりとこちらに近づいていた。剣に付いた液体を拭うと剣に収める。すぐに弓を持つと、猪に狙いを定める。そして、矢を放った。

悲鳴と共に、猪に当たった事が確認できた。

何歩か下がりながら、猪が追いかけて来るか確認する。直後、猪は勢い良く飛び出してきた。サラも弾かれたように走り始める。

猪は意外に早く、サラは後ろを見る余裕も無い。

少しずつ明るくなる森の中。もうすぐ森の外。レンとシェイが居る森の外である。

「来たよ。」

 サラは力いっぱい叫んだ。二人に届くように。



レンとシェイはただ森を見ながら立っていた。しかし、手は剣に触れている。猪が何時くるから分からないからだ。

「遅いな。大丈夫だろうか。」

シェイは心配になった。そして、あれこれと最悪の事態を考えた。

その時、サラの叫ぶ声がする。

「来たってよ。」

レンが剣を抜く。シェイも考えていた事を何処かに追いやった。

サラは森から飛び出し、こちらに向かって走ってきた。その後ろからは猪が追いかけくる。猪の体には一本の矢が刺さっている。サラが猪に向けて矢を放ったのだろうとシェイは思った。

「レン。もっと下がれ。」

シェイはレンをもっと下がらせる。シェイは出来るだけ村に近づいたほうがいいと考えた。

シェイは剣を抜く。猪とサラはシェイに向かってきている。

「サラ。どけ。」

シェイの言葉にサラはシェイに到達する寸前で道をそれた。サラの背後から来た猪は対応出来ずにそのままシェイの方へ向かって来る。

シェイは、猪に向けて水平に長い剣を振った。

「おらっ。」

空に響くほどの声とともに、剣は猪の顔面に激突する。シェイはその衝撃に耐えて剣を振り切った。猪の悲鳴が聞こえたが、シェイは聞き流した。

勢いを失った猪に向かってレン斬り付ける。サラもすぐに猪に向かって斬り付けた。それでもなお猪は向かってきた。シェイは向かってくる猪の頭に剣を振り下ろした。

猪は少しふらふらと歩くと地面に倒れこんで動かなくなった。

「殺したのか。」

 シェイが猪の目を覗きこむ。

三人とも猪の血で体は汚れていた。体に付いた生暖かい血はすぐに冷めて乾き始める。

「持ち帰ろう。レン、紐をくれ。」

シェイはレンから紐を一本貰うと、猪の前足を縛った。レンは後ろ足を縛っている。

「さてと、縛ったな。村まで持ち帰ろう。」

レンとシェイは猪を持ち上げて、村まで担いで運んだ。

「頑張って。」

サラの軽い応援が背後から聞こえて来る。シェイは何か言おうと思ったが、サラのおかげなので何も言わない事にした。

三人が猪を持って村に入ると、村人の何人かが彼らを見る。

「おろすぞ。」

レンの声で、村の中心に猪は置かれた。すぐに小さな子供たちが猪の周りに集まる。

「さてと、これどうする。」

シェイは猪を見た。二、三日前はただ逃げるだけだったが、今では自ら狩りに行くほどになった。少しは、変わったのかも知れない。

「すごいなこりゃ。」

シェイが声のする方向を見ると、大男がしゃがんで猪を見ている。あの日、シェイとレンの二人と入れ替わりに猪へ向かって行った男。肉を分けてくれた男だ。

「三人で狩ってきたのかい。」

 男の言葉に三人は頷く。男は何度か頷き、立ち上がると三人を見た。

「なぜ猪を狩って来たんだい。誰かに頼まれたとか。」

 その時、お婆さんが家から出てきた。

「お婆ちゃん。」

 サラは大男の質問を他の二人に丸投げしてお婆さんの所へ行った。大男、レンとシェイもお婆さんを見た。

「あの婆さんに狩ってきたらどうかって言われたんだ。だから狩ってきた。」

レンはお婆さんを見ながら大男に言う。そして、猪を見た。

「この猪。自分達で食べても良いけど、良かったら買ってくれないかな。」

大男はお婆さん、サラ、レン、シェイと彼らが狩った猪を順に見るとしばらく黙った。

そして、大男は大きく頷いた。

「俺が買ってやる。幾らだ。」

大男はお金が入った袋を取り出し、袋の中に手を入れた。

「買う本人が値段を付けてください。買い手が存在しないんですから。」

お婆さんはいつの間にか大男の傍に来ていた。サラはお婆さんの隣に居る。

「値段は自由か。」

大男は袋の中からお金をひと掴み取り出す。

その手を三人の前に出した。

サラが手を出して、お金を受け取る。

「おおっ。」

渡されたお金の量に三人は驚いた。三人が驚く間に、大男は仲間らしき人を何人か呼んで猪を持っていった。

「お金は三人で均等に分けるんだよ。じゃあ、今日はゆっくり休みな。」

お婆さんはそれだけ言うと、自分の家に戻っていった。

三人はお金を数え、均等に分けた。分け切れなかったお金で小さな争いが勃発したが、残りのお金は今回頑張ったサラにあげる事で決着はついた。

「まだ明るいね。」

サラの言葉で三人は空を見る。

見上げた空は明るくて、まだ何か出来そうな気がした。

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