第一話 突然の依頼
第一話 突然の依頼
シェイとレンは二人揃って小高い丘を必死に登っていた。丘を降りた先にある村まで競争しているのだ。
二人は息を荒くしながら丘を登りきると、眼前に大きな海が見えた。その手前にシェイたちの村が見える。
シェイは、海の広さに見とれて立ち止まりそうになる。しかし、すぐに現状を思い出して体を動かした。その隙に、レンがシェイの前に出る。
丘を下り始めるとレンとシェイとの差はさらに広がった。レンは振り返りると、後方に居るシェイを見て笑っている。レンは、もう自分は勝ったと思っているらしい。
シェイはレンの笑いに、悔しさが生まれてきた。
「負けるか。」
シェイは小さく自分だけに聞こえるように言う。歯を食いしばって、今以上に腕を振り地面を蹴った。
シェイは少しずつレンに近づいていく。シェイを見るために振り向いたレンは、あまりの速さにそれ以上こちらを見ずに前を向いて走った。
丘を下りると、村までは長く平坦な道が続いている。
シェイはここで勝負をかけなくちゃいけないと思った。彼は目を瞑る。そして、思いっきり腕を振る事で今以上に早く走ろうとした。
レンの足音や声が少しずつ近づき、そして遠ざかっていく事が感じられた。自分はレンを抜いたのだ。そう思ったシェイは、直後柔らかいものに激突した。そのまま仰向けの状態で地面に倒れる。
「い、痛い。なんだよ。」
目を開けると、目の前にはわらの束を載せた馬車があった。シェイはそのわらにぶつかって倒れたらしい。
「大丈夫かい。」
馬車を引いていた中年のおじさんが心配そうにこちらを見る。シェイはゆっくり起き上がった。
「だ、大丈夫で……。」
シェイはそこで競争の事を思い出して村の出入り口を見た。案の定、レンがそこからシェイを見ている。その顔は勝者の勝ち誇った顔をしている。シェイは悔しい気持ちを体の中に押し込むと、おじさんを見た。
「大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
シェイはおじさんに謝るとすぐに村の出入り口へ向かって走った。少しずつレンの姿が大きくなる。
シェイは立ち止まると、両手を両膝において何度か大きく息を吸って吐いた。
「どうやったらあれにぶつかるんだよ。」
レンはため息交じりに言った。その視線の先には、先ほどシェイが激突した馬車がある。
「目瞑って踏ん張ったらぶつかった。」
シェイはレンを見上げる。しかし、その時点でレンは村の方へ体を反転させていた。
「じゃあ、俺は家に帰るから。」
村の中へ入っていくレンを追いかけて、シェイも村の中に入った。
シェイは村の中に入ると、自分の家へと向かった。途中近所の小さな子供たちが彼の周りに集まるも、シェイの一言でみんな何処かへ行ってしまった。シェイから離れていく子供たちは、触らぬ神に祟りなしといった顔をしている。
シェイは自分の家に入ると、靴を脱がずに仰向けに寝転がった。床が木で出来ているために、触れる腕や足から冷たい感触が伝わってくる。
「ああ……。」
シェイは、しばらく居心地の良い床の上に寝転がっていた。
しかし、その時間は突然終わりを告げる。
「シェイは居ますか。」
家の外から女の子の声が聞こえてくる。
「ん。はい。」
シェイは左手で目を軽く擦りながら顔だけ家の出入り口を見る。しかし、誰かが居ることは分かるが、逆光でよく見えない。
「誰。」
ゆっくりと床から起き上がると、家の出入り口へ向かって歩いた。家の出入り口に近づくと、そこにはシェイの良く知る女の子が居た。
「サラか、僕に何か用なの。」
シェイは寝起きのためか、あまり口が回っていない。
サラと呼ばれる女の子は左腕を腰に当てた。
「まさか昼間から寝てたの。まあいいわ。ちょっとこっち来て。」
サラはそれだけ言うと、体を反転させて歩き出した。
「おい、ちょっと待てよ。」
シェイはサラのあとを追いかけて家を出た。外に出ると、太陽の光がシェイの体を照らしている。太陽の光も外の空気も本当に暑くて何時か自分の体が沸騰するんじゃないかとシェイは思った。立ち止まって居ても良いことは無いので、サラに付いて行った。
シェイが着いた先は良くお世話になっているお婆さんがいるところだった。そこにレンも居た。
「シェイ。お前も婆さんに呼ばれたらしいな。」
レンはシェイを見ると、お婆さんを見た。
「ちょいと頼みごとがあってね。二人を呼んだのさ。悪いけど二人で森へ行って薬草を取ってきて貰いたいんだよ。お礼はするよ。」
お婆さんはシェイとレンを交互に見る。
「薬草か。ものは見たことあるから、早速森に行って採ってくるよ。なあ、シェイ。」
レンはシェイを見る。シェイは、レンに頷く。
シェイは、薬草自体は村でよく実物を見るので森に行って採ってくることは難しくは無いだろうと思った。そして、レンも同じように考えているだろうと思った。
「そういう理由だったのね。だったら、私も二人と一緒に行くわ。」
お婆さんはにサラを見る。
「やめときなさい。」
お婆さんの声がその場に冷たく響く。そしてお婆さんはシェイとレンのほうに視線を戻した。
「じゃあ気をつけて行って来るんだよ。」
お婆さんはシェイとレンに笑顔で言った。
「じゃあ行ってきます。」
二人はそのまま村を出て、森の方向へ歩いていった。
その姿を見たお婆さんは、大きく深呼吸をした。
「お婆ちゃん。なんで私は駄目なの。」
遠ざかるシェイとレンを見ながら、サラはお婆さんに言った。サラはどうしても納得出来ないようだ。
「サラ。行きたいのなら次回以降にしたほうが良いよ。」
「次回以降って……。」
サラはお婆さんを見る。しかし、お婆さんはシェイとレンを見ているだけ。サラはその後に続く言葉を飲み込んだ。
「あの二人は何も持たずに森へ行った。そんな男達と一緒に行かせられないね。」
お婆さんはそう言い放つとサラを見た。
「サラ。私はね。何時までも走り回っているあいつらをマテリアルハンターにしようと思っているのさ。あいつらの有り余る力を有効活用するためにね。」
お婆さんは再び村の外を見た。シェイとレンの姿はもう米粒ほどの小ささになっていた。どちらかは分からないが、一人が地面を蹴って飛び跳ねている。
「二人が薬草を持って戻ってきたら、次の仕事を与える予定だよ。」
お婆さんはサラを見た。
「その時はサラ。今度はお前も一緒に行くといいさ。好きにすればいい。」
サラは静かに頷く。二人が再び村の外を見ると、既にシェイとレンの姿は見えなくなっていた。
「三人で、マテリアルハンターズだね。」
お婆さんは小さく呟いた。その姿は、何か楽しい事を思いついた少女のように見えた。
〜マテリアルハンター〜
素材を集め、それらを売却して生活する人たちのこと。元は希少価値の高い素材を集めて売却する人たちを指した。