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六話 もしかしなくても孤児院の経営って……

(それにしても、明日王城に行った後、本当にこの孤児院を出ないといけなくなっちゃうのかなあ……)


 メアリーは食事を終えた後、自身のベッドに入りつつも、なかなか寝付くことが出来ないでいた。

 一か月。メアリーが真理としての記憶を取り戻してから孤児院で過ごしてきた時間だ。

 記憶を遡れば更に数年伸びる。その生活は決して裕福なものではなかったが、苦しいものではなかった。むしろ、平穏で楽しい日々だった。

 王城に行けば生活の質は上がるだろうが、メアリーの望む生活が送れるとは思えなかった。


(そもそも私って目立つのはもう嫌なんだよね……)


 絶対に王城へ行けば目立つことになる。それがさらには面倒な不幸なことにつながる。

 そう考えるとますます王城へ行く気がなくなってしまうメアリーだった。


――……。


(……? 何だろう、こんな時間に誰か帰ってきたのかな?)


 メアリーが今いる場所は二階の寝室。下から何か物音が聞こえた。


(どうせ眠れないし、ちょっと確認してみようっと)


 幸いにも周りにいる子供たちは皆熟睡しているようだった。

 メアリーは他の子供を起こさないようにそっとベッドから抜け出すと、階段をゆっくりと降りていく。

 周りが静かだったためか、階段をあと少しで降り切るというところで声が聞こえてきた。


『随分と遅かったわね。仕事は見つかったの?』


『……駄目だったよ。どこも魔力の少ない子供なんて雇えるか、だとさ』


 どうやら、帰ってきたのはエドガーだったらしい。


(そういえば、最近エドガーが働くために仕事を探しているって言っていたっけ)


『本当にごめんなさいね。私が不甲斐ないばかりに……。本当は貴方たちに迷惑をかけたくはないのだけれど……』


『シスターは悪くなんてないじゃない! 悪いのは――』


『やめなさいな』


 何か言いかけたエレナをシスターが遮ったようだ。

 小さく謝るエレナの声が扉の向こうから漏れ聞こえてきた。


『すまねえ。俺がもっと魔力を持っていれば、きっと仕事だって見つかったはずなのに……』


『いいのよ。それに私も近場で働ける場所がないか探してみるわ』


『すまねえ……』


 エレナの言葉にエドガーが申し訳なさそうに返す。


(どこかで働こうとして仕事が見つからなかったっていう感じなのかな)


 三人の会話からメアリーは予想した。


(でも、どうしてそんなにお金が必要なんだろう……?)


 孤児院が貧しいということはメアリーも十分に理解していた。

 しかし、それは子供たちが食べていけないほどに苦しいというわけではなく、ただ生活に余裕がないといったレベルであるとメアリーは感じていた。

 もちろんのこと、その生活に余裕がないという事実こそがエドガーが働きに出ようとしている理由かもしれないが、三人の会話からはもっと深刻な理由があるように思えた。


『二人とも、そろそろ寝なさいな。今日も一日動き回っていたのだもの。疲れているでしょう?』


『そ、そんなのシスターの方が……』


『あら? 私は大丈夫よ。私が元気なのは二人も知っているでしょう?』


 心配そうなエレナの言葉にシスターが冗談のように小さく笑いながら返した。


『……シスターが一度言ったら聞かないのはエレナも知っているだろう。早く寝て明日朝から仕事を探しに行こうぜ。もしかしたら、朝早くに動ける奴を探している人がいるかもしれないしさ』


『そ、そうね……。シスター、身体に気を付けてね』


『……二人は心配しすぎなのよ。でも、ありがとうね』


 シスターの言葉を最後に二人が部屋から移動し始める音が聞こえた。


(ま、まずい……!)


 メアリーがいる場所は階段だ。

 その階段は三人が話していた部屋のすぐ横につながっており、その階段を上がった先に二人の部屋はある。

 つまり――


(このままここにいたら見つかっちゃう!)


 メアリーは咄嗟に音を立てないように階段を降りると階段下にある空洞へ潜り込んだ。

 何とか逃げ込んだメアリーだったが、すぐに嫌なことを思い出した。


(……そういえば、ここって……)


 エドガーとエレナの話し声がすぐそばから聞こえる。どうやら部屋から出てきたようだ。


「シスターは優しすぎるのよっ! 他の子供に勉強を教えた時とか、親が払えないと言えば全くお金をもらおうとしないで……。それに他の仕事をしても、お金をもらわないことが多いじゃないっ」


「……その代わりに食べ物をもらっているじゃないか」


「……でも、その食べ物だって小さな子が満足に食べられないぐらいしかないじゃないの」


「ああ、そうだな……」


 二人の会話が聞こえてくる。ゆっくりと階段を上っていく音もよく聞こえてくる。

 そして――二人の姿さえもよく見えた。


(気づかないで気づかないで気づかないでぇえええええええ)


 階段下の空洞は段差の間に板が張られていなかったためにそこから二人の様子が見えていたのだ。必然とメアリーの姿も筒抜けとなっていた。


「このままじゃ、みんな餓死しちゃうわよ……」


「……そうならないためにも、早く俺が仕事を見つけないといけない、よな」


(そういう理由でエドガーが働こうとしていたんだ……)


 いつの間にか、二人の会話に聞き入っているメアリーがいた。

 見つからないように少しでも壁に張り付きながらも、二人の会話に耳を向ける。


「エドガー……。ああ、もうっ! これもみんな孤児院の援助がなくなったのが悪いのよ!」


(……え?)


「急に今まで援助してきた孤児院の寄付金を止めるなんて……。それも、その理由が孤児院の子供たちが育っても価値がないから、なんてひどすぎるにも程があるでしょう!」


「……そもそも、俺たち孤児院の子供は大抵魔力が少なくて捨てられたからな。貴族連中が言うような価値、つまりは魔力を多く持っている者がほとんどいないのは仕方がないのにな」


「そうよ! それなのに連中ときたら……!」


 二人の声が遠ざかっていく。

 幸いなことに二人はメアリーのことに気づくことなく、階段を上っていったらしい。

 どうやら暗闇がメアリーの姿を隠しきってくれたらしい。

 メアリーの頭からは二人に見つからなくてよかったなどといった考えは消えていた。


(孤児院に援助が、ない……?)


 メアリーは二人が話していた言葉を心の中で繰り返した。

 孤児院に余裕がないことは分かっていた。

 しかし、それでも以前と大きく変わったようには感じなかった。

 それが一体どういうことなのか。

自身の思考がまとまらないままにメアリーが階段下から出ると――


「あら?」


「……あ」


 ちょうど部屋から出てきたシスターと鉢合わせてしまったのだった。

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