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五話 エレナさんや、その叫びは女子としてどうなんでしょう?

「そ、そろそろ皆さんに魔法の使い方についての説明を行うとしましょう。こちらへ来てください」


 ようやく興奮が収まった神官が子供たちに向かって言った。

 この場には既にメアリーとフォルカーはいない。

 フォルカーはメアリーに魔法の説明――どうやらメアリーの魔法は通常の魔法とは異なるらしい――を後ほど行うため、明日王城へ来てほしいと伝えた後、王城へ戻ってしまってしまい、メアリーも明日に備え、孤児院に戻ったからだ。

 神官の言葉を聞いた子供たちが移動し始めてからしばらく。


「くそっ」


 大聖堂から出たザンニーニは感情のあまり、自身の口から悪態が出てくるのを止められなかった。いや、むしろ止める気すらなかったというべきかもしれない。


(あの女が現れたせいで、せっかくフォルカー様の側近となることが出来るせっかくの機会を逃してしまった……!)


 もともと魔法の儀を行う前からザンニーニがフォルカーの側近となる話は持ち上がっていた。

 しかし、なぜかその話は一か月前に立ち消えてしまったのだ。

 それでも、ザンニーニは諦めきれず、学院でフォルカーに会った際に直接側近にしてほしいと伝えた。

 その場ではフォルカーは何も答えずに立ち去ってしまったが、従者が後ほど現れ、ザンニーニに伝えた。


――『フォルカー様は先ほど明言しませんでしたが、魔法の儀で優秀な成果を収め、側近となるにふさわしいと認めた時には側近にするとのことです』


 その言葉を聞いたザンニーニは喜び、今日の魔法の儀を楽しみにしていたのだ。

 自身は既に魔法の儀で優秀な成果を出せることは決まっていた。

 何しろ、既に魔法は発現しており、二重属性を持つことは分かっていたのだから。

 しかし、その感情はメアリーによって真逆のものへと変化させられた。


(何が神だ! あんなものありえないに決まっているだろうが……!)


 伝承で伝えられる話。そこには確かに魔力がない――穢れがない者が神であると伝えられている。

 しかし、そんな伝承はありえない話だ。

 何しろ、生物には大なり小なり魔力を必ず持っている。あの逆位置リバースですら性質が異なるとはいえ、魔力を持っているのだ。


 メアリーが魔力を持たないはずがない。魔力水晶は少なすぎる魔力を測ることが出来ないという話を聞いたことがある。

おそらくメアリーもまた、単に魔力が少なすぎて水晶が反応しなかっただけだろう。

 ザンニーニはそう結論付けた。


「――つまり、俺は魔力が低すぎる無能に機会を潰されたというわけか」


 自身の考えから導き出された結論に再び憤りを覚えるザンニーニ。

 あまりの憤りにザンニーニの周囲に放電現象が起こり始め――


「――このような場所にいらしたのですか」


 唐突に声をかけられた。


「お前は――フォルカー様の従者か」


 突然、話しかけられたことに驚きはしたが、その笑みを見て思い出した。


「――……」


「なに……?」


 そして、話しかけられた言葉を訝しく思いながらもザンニーニは話を聞くのだった。



         ◇



「それにしても、一体どうしよう……」


 孤児院に戻ったメアリーの口から不安が言葉となって漏れてきた。


(シスターが人は必ず魔力を持つってそういう意味だったんだ……)


 ようやく以前言っていたことが分かったメアリー。

 しかし、その理由は予想していた以上に大きかった。


(もし、何かあるとしても珍しがられるだけだと思ったのに……。あの神様が何も教えてくれなかったから……!)


 転生する際に会った神様に怒りを覚えるメアリー。


「――メアリー。魔法の儀は問題なく終わった?」


 神様の理不尽さに覚えていた怒りは、突然話しかけられたエレナによってどこかに行ってしまった。


「え、あ……、えーっと……」


「ずいぶんと歯切れが悪いわね。何かあったの?」


 どう言おうか迷っていたメアリーを心配そうに見つめるエレナ。


(い、言えないって……。私の魔力がゼロだったから、神様と同一視された、なんて……)


 なおも言い出せないメアリーを見ていたエレナは分かったわ、と言わんばかりに頷いた後、メアリーを優しく抱きしめた。


「大丈夫よ……。ここには貴方の魔力が少なかったことを責めるような人は誰もいないわ……」


(ぬぁあああああああああああ! 違う、違うんだってば!)


 見た目よりも大きかったその胸の中に優しく抱きしめられ、余計に混乱するメアリー。

 そんな時――

 孤児院の玄関から音が聞こえてきた。

 どうやらシスターが買い物から帰ってきたらしい。

 音につられたのか、エレナの腕の力が弱まったのを感じ取ったメアリーはエレナの腕の中から抜け出した。


「だ、大丈夫だから! 別に魔力が少なくて周りからいじめられたとか、そんなこと一切ないからっ!」


(むしろ、魔力がなくて周りから崇められたぐらいだからっ!)


 もちろんのこと、心の中の言葉は口にしない。


「じゃあ、どうしてそんなに元気がないのよ?」


「そ、それは……」


「それは……?」


 エレナのメアリーを見つめる瞳には心配そうな色しか見えない。メアリー自身の記憶からもエレナが相当メアリーを大事にしていたことが読み取れた。


(……これはもう誤魔化すのは無理、かな……)


 だんだんとエレナの瞳に悲しみの色が見えてきたためにメアリーはそう考えた。

 一つ深呼吸をした後、メアリーは口を開いた。


「じ、実は王城へ行かないといけなくなっちゃいまして……」


「どうしてそんなことになっているのよ……?」


 わけが分からないといった表情になったエレナに、説明を続けるのだった。



         ◇



「あらあら大変ねえ」


 説明の途中からいつの間にか話を聞いていたシスターが穏やかにそう言った。


「…………うそぉ」


 対するエレナはあまりに信じられないことを聞いたためか、未だに信じられない様子だ。


(やっぱり、そうなるよね)


 魔力がない存在など基本的にありえない。そういった考えがこの世界には強く根付いている。その事実を転生してからひと月でメアリーは感じ取っていた。


「でも、そういうことならメアリーは王城で暮らしていくことになるのかしらね」


「……え? どういうこと?」


 メアリーはシスターの言葉に思わず聞き返した。


(王城に行くのはあくまで魔法の説明を受ける為なんじゃ……?)


 メアリーの疑問に答えるようにシスターが続けた。


「だって、そうでしょう? 魔力がないということは神様と同じ存在であるということよ。つまり、多くの人々から崇められる存在ということなの。それは王族にとっても違いないわ」


 シスターの言葉でフォルカーの態度が随分と恭しいものに変わっていたことを思い出した。……似合っていなさ過ぎて笑いがこみあげてくるのをメアリーは何とか押さえつけた。


「で、でも魔法の儀による結果は女神アイリスの加護によって守られているから、そもそも私が伝えようとしない限り分からないはずなんじゃ……?」


 神官が言っていたことが正しければ、そもそもメアリーの魔力についての話すら広がらないはず。そういった考えからメアリーは言うが、シスターは首を振った。


「メアリーの魔法の儀による結果はおそらく女神アイリス様に守られることはないわ。むしろ広がる可能性が高いはずよ」


(……え? 何それ話が違う)


 驚きで口を開いてしまったメアリーをよそにシスターが話を続ける。


「そもそも魔法の儀の結果が女神アイリス様によって守られるという考えが正確ではないのよ。女神アイリス様は魔法の儀、というよりも私たちが使う魔法自体あまり好きではないらしいの。だから、魔法の儀の結果を広めようとすると祟りがあると言われて皆伝えようとしないのよ」


(えー……。祟りって……。女神様というよりも祟り神みたいなんだけど……)


 メアリーの脳裏に描かれていた煌びやかな格好をした女神さまの姿がおどろおどろしい姿へと変わった気がした。


「魔力がないということは女神アイリス様が嫌いな魔法を使うことが出来ない――いえ、出来ないというのは少し意味が違うかもしれないわね」


「魔力がないのなら魔法って使えないんじゃないの?」


(ゲームみたいに魔法を使うために魔力を使うみたいな感じなんじゃないのかな?)


 メアリーはそう考えて口にしたが、シスターは違うと言うかのように首を振った。


「私も詳しくは知らないのだけれど、魔力がないと女神アイリス様が好む魔法が使えるようになるらしいのよ」


「……?」


 意味が分からないといった様子のメアリー。

 その表情を見たシスターは困ったように笑った。


「まあ、詳しいことは王族の方に聞きなさいな。私よりも多くのことを知っているでしょうし」


「……よくわからないけど、そうする」


 いまいちどういうことか分からなかったが、少なくとも王城で話を聞けば分かるらしいことまでは理解できた。メアリーはそう考え、言葉を返した。


「さあ、そろそろ夕飯の支度をしないといけないわ。メアリー、手伝ってくれる?」


「うん、分かった」


 今は考えても仕方がない。ひとまず、明日色々聞いてみることにしよう。メアリーはシスターの後ろについて台所へ移動し始めた。


「……本当に一体どういうことなのよぉおおおお!」


 後ろから未だに話を理解できていなかったエレナの叫び声が聞こえてきた。

 思わず、そのあまりにも硬いエレナの思考にメアリーの口から笑い声が漏れてしまうのだった。

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