十三話 平穏ライフが夢のまた夢へと消え去っていく……なんてこったい!
「……落ち着いたか?」
「…………うん」
予想よりも自身のテンションが上がっていたことに気づいたメアリーは恥ずかしさを感じ、少しだけ声を小さくしながらも返答した。
フォルカーはその言葉で納得したのか、一度うなずく。そして、何故か何もない空間を向き、手を叩く――
「お待たせしました」
言葉と共にマーシャが現れた。
(……もう驚かない、驚かないよ……!)
マーシャが現れたことで予想はしていたメアリーだったが、視線をマーシャからテーブルに移すと既に朝食が並べられていた。
(……あれ?)
メアリーの前には昨日の夕食とは異なり、全体的に軽めのものが並べられている。
しかし、それらの量はメアリーが予想していたよりも少なかった。
「……マーシャ。これはどういうことだ?」
メアリーが疑問を口にする前にフォルカーがマーシャに問いかけた。
「なんのことでしょうか」
しかし、マーシャは何もおかしなことはない、とでも言わんばかりに返すだけ。
そんなマーシャにフォルカーが再び口を開いた。
「メアリーの食事を用意してくれたのはいい。もともとメアリーの朝食を用意するように伝えていたのだからな。だが――この場に俺の食事がないのはどういうことだ?」
(ああ、そういうことか! 通りで並べられている量が少ないわけだよ)
フォルカーの言葉でメアリーが感じていた疑問は解消した。
しかし、フォルカー自身の言葉は解決していない。
「はて。私はメアリー様の御付きのメイドです。決してフォルカー様のメイドではありません。一応は雇用主の息子ということもありますので、ある程度の指示には従います。しかし、ある程度以上のことには従うことが出来ません」
「……俺の食事を用意することがある程度以上というのか」
「はい」
フォルカーの言葉にマーシャがすげなく返す。
返答を聞いたフォルカーは額を指で押さえ、ため息をついた。
「どうしても、食事を用意してほしいということであれば他のメイドに頼まれてはいかがでしょうか」
「……他のメイドに頼んだとしても、お前がこの部屋に入れさせないだろうが」
「ええ。当たり前の処置です。私以外のメイドをメアリー様のお部屋に入れるなど許しがたい行為です。フォルカー様がメアリー様のお部屋に入ることを許容したのです。ですから、このぐらいの対応は飲んでもらわなければ」
マーシャの言葉にますます頭が痛くなってきたと言わんばかりのフォルカー。
(……これは泥沼というやつなのでは……?)
二人の延々と続きそうな会話を聞いていたメアリーはそう感じた。
(……どうなるか分からないけど、言ってみるかな)
そして、試しに二人の会話に割り込んでみることにしたメアリー。
「マーシャ、悪いんだけどフォルカーの食事を――」
「用意しました」
「…………ありがとう」
言い終わる前にテーブルにはフォルカーの分も用意された。
それを見たメアリーもまた、フォルカー同様頭が痛くなってくるのだった。
◇
「そういえば、フォルカーって最初私と会った時の最後に変なこと言っていたよね? 一体、あれって何だったの?」
食事を終え、空の食器が置いてある中――マーシャはいったん下がってもらうようメアリーが言ったため、食器も放置になっていた――メアリーはフォルカーに尋ねた。
「……? 何のことだ?」
どうやら、フォルカーは覚えていないらしい。
(ほほう。フォルカー君は覚えていないと申しますか)
メアリーのフォルカーを見る目に何か気づいたのか、フォルカーの表情が少し引きつった。
「……また女性を悲しませるようなことを言うの?」
「……っ! ああ、思い出した、思い出したよ! ……ユダの奴、余計なことを――」
「――ユダさんってマーシャみたく、呼んだら来るのかな?」
「やめろっ!」
メアリーの言葉を必死になって止めようとするフォルカー。
その様子を見たメアリーはふと考えた。
(今更だけど、ユダさんってどうしてフォルカーのそばにいないんだろう? ユダさんもマーシャみたいな御付きの人なんだよね?)
この城に来る際は確かにいたのだが、城についてからは見かけていない。
マーシャみたいに四六時中傍にいるのもどうかとは思うが、気になったメアリーだった。
「ユダならおそらく近くに控えているだろうさ。ただ、この部屋に入る時には護衛としてすぐ傍にいる必要はない、と伝えているだけだ」
「へ? どうして? 護衛ってすぐ近くにいないと意味ないんじゃない?」
「……い、妹みたいな存在のお前と会うのに他の奴らがいてほしくなかったんだ」
小さく、消えそうな声で呟かれた声はメアリーの耳に入ることはなかった。
「……? まあ、よく分からないけど、フォルカーがいいのならいいや」
「あ、ああ。気にするな」
メアリーの言葉に乗っかるようにフォルカーが少し慌てながらも言う。
「それより、さっきの話を教えてよ。一体なんであんなこと言ったの?」
分かったと答えた後、フォルカーは動揺を抑えるためか、一度息を大きく吐き出してから改めて口を開いた。
「メアリーには俺たち王族の始祖が現人神だってことは伝えたよな?」
「うん。言っていたね」
「その現人神の血を俺たち王族は引いていてな。残念なことに原始の力を使うことは出来ないが、代わりに特殊属性である『夢』を発現する者が時々現れるんだ」
「『夢』?」
メアリーが知っている創作の世界でもそれほど聞かない属性に思わずメアリーは聞き返した。
「ああ、特殊属性については王宮魔術師――ジジイが教えるだろうから、いったん今は置いておくぞ」
(ちょっ! 今さらっと王子の口からすごい言葉が出てきたんですけどっ! いや、フォルカーの口が元から悪いのは知ってはいるけど!)
「それで、『夢』の属性魔法についてなんだがな。この属性魔法は普通の魔法と違って、夜にしか発動しないんだ。しかも、俺の意思で発動することが出来ない」
「自分の意思で発動できないの? 随分と不便な魔法だね」
メアリーの言葉に薄々同じことを感じていたのだろう。フォルカーは苦笑いを浮かべた。
「まあな。だが、代わりにその力は強力だ。何せ――未来が分かるんだからな」
「へー。……うん?」
(ちょっと待って。フォルカーの言う『夢』の属性魔法は未来が分かる他の魔法とは違う魔法ってことだよね。うん、それは分かった。ところで、私がもともとフォルカーに聞きたかったのは『お前も気を付けておけよ』という言葉が気になったから。二つを結び合わせると私の未来が……またか!)
メアリーの想像を気づくはずもないフォルカーは言葉を続けた。
「メアリーに注意するように言ったのは、メアリーが強大な敵と戦う姿が見えたからだ」
(……やっぱりか!)
「あの時はさすがに驚いたぞ。何せ、黒髪のお前が姿はぼやけて見えなかったとはいえ、強大な敵に向かっていたからな」
まあ、メアリーが現人神だとわかってからはそのことに納得できたが、と続けるフォルカー。
(納得するな! ……もしかして、もしかしなくても、強大な敵って逆位置の関係ってことなのかな……?)
強大な敵に相当するであろう逆位置のことを思い出すメアリー。
ギルドのSランクや魔法騎士団が十人単位で必要とフォルカーが言っていたことからも、そう外れてはいないとメアリーは考えた。
「ち、ちなみに的中率ってどのぐらいなの……?」
「……そうだな。前から見たところまでは大体そのまま起こっていたな」
(なんてこったい! ほぼ百パーセントってことじゃないですか!)
「だが、安心しろ。結果までは見ていないが、メアリーが負けるような相手ではないさ。夢を見た時こそメアリーがただの魔力が少ない子供だと考えたために、早く目が覚めるよう祈ったものだが……まあ、見えたとしても現人神であるメアリーが敵に打ち勝つところだったんだろうな」
フォルカーが少し笑いながら言う言葉をメアリーは聞きながら、あることを考えていた。
(……よしっ! フォルカーは結果が見えていないって言っている! つまりは私が戦っていない可能性もあるということ! ……私が補助して他の人が勝つ可能性もあるんだ!)
メアリーは自身の掌をぐっと握りしめる。
「そうそうメアリー。お前が聞きたがっているだろう魔法についてなんだが、今日なら王宮魔術師に聞けるらしいぞ。そこで色々と聞くといいさ」
「あ、うん」
フォルカーの言葉に生返事をしてしまうメアリー。
「さて、俺はそろそろ部屋を出るとするか。……マーシャもうるさいことだしな」
そう言うとフォルカーは部屋を出ていった。
その姿を見送った後、改めてメアリーは心の中で自分を奮い立たせた。
(大丈夫! 絶対私ならやれる! 私なら目立たないで逆位置に勝つことだってきっと出来る! 目指せ、縁の下の力持ち的存在!)
――あはは。そんなの無理だと思うよ。
どこかの神様的な何かの声が聞こえた気がしたが、全力でメアリーは聞かないことにするのだった。




