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十一話 魔法のこと。孤児院のこと。

「……話が逸れてしまったが、説明をしても大丈夫か?」


「あ、うん。大丈夫」


(そういえば、全然話進んでなかったよね。……マーシャ、恐るべし……!)


 メアリーが内心で恐れおののいていると、フォルカーは口を開いた。


「さて、では説明をするとしよう。……まず聞きたいのだが、メアリーは魔力についてどのぐらい知っているんだ?」


「魔力……?」


(それって魔法を使うために必要なもののことだよね。……でも、シスターが言うには魔力がないからこそ魔法が使えるんだっけ。フォルカーの話も合わせれば現人神ってのが使える魔法には魔力がいらないってことかな。……あれ? 魔力って一体何なんだろ……?)


 改めて考えた結果、魔力が一体何なのか分からなくなり、いくつもの疑問が浮かんでくるメアリー。

 そんなメアリーを見て、フォルカーはメアリーの考えを察したらしい。


「どうやら俺が説明しなくても魔力について少しは知っているようだな」


「え? いや、分からないって……。魔力がそもそも何に使うものなのかさえ分からないよ……。現人神は魔力を使わないらしいから、魔法を使うのにも必ず必要って訳じゃなさそうだし……」


 思わず、フォルカーの言葉に返すメアリー。

 しかし、その返答を聞いたフォルカーは満足そうに頷いた。


「それだけ分かっていれば大丈夫だ」


「……え?」


 メアリーの疑問を気にすることなく、フォルカーは続ける。


「まあ、言ってしまえば魔力ってものは、魔法を使うための力の代わりに出来るものなんだよ」


「代わりに? ということは本来魔法を使うために必要な力は違うっていうの?」


「ああ。俺たち王族に伝わっているその力は『原始の力』というらしい」


「『原始の力』?」


「そうだ。その力は俺たちが魔力と呼んでいる力の源となっていて、人を含めた生物は原始の力を直接扱うことが出来ないが故に魔力へ変換してから魔法を使っているらしいんだ」


「ふむふむ」


「変換する際に効果が落ちるらしく、原始の力を使った魔法よりも大分威力は落ちるらしいがな」


(つまり、変換しない力はじゃじゃ馬だけど力が強くて、変換した後の力は大人しくなっちゃうから力が弱いって感じなのかな)


 メアリーの頭の中に暴れまわる原始の力と大人しい魔力の姿が描かれた。


「原始の力って一体どうやって使うの?」


「……現人神であった始祖の残した手記によると、原始の力は決まった使い方がないらしい」


「決まった使い方がない?」


「ああ。魔力を使った魔法ならば、自身の心の中で魔法陣を描くか、詠唱をすることによって魔法を使うための型とするのだが、原始の力はそういったものがないらしいんだ」


「ふーん」


(……というか、魔力を使った魔法ってそうやって使うんだ。……詠唱するのって意味があったんだね。無詠唱って自分の中に魔法陣をセーブして、それを使うことで魔法を使うって感じなのか。原始の力にはそういった型がいらないってことはつまり……)


 フォルカーの話を自身のゲームや漫画で培ってきた知識とすり合わせて理解していくメアリー。


「それじゃあ、原始の力を使う魔法は準備とかいらなくて、こういった魔法を使うって想像すれば使えるってことなの?」


「ほう。よく分かったな」


 メアリーの返答を聞いたフォルカーは感心するような眼差しでメアリーを見た。


「確かに原始の力を使う魔法は言ってしまえば想像するだけで使える。しかし、同時に想像するだけでは使えない、とも言えるんだ」


「……何それ?」


 矛盾するような物言いに首を傾げるメアリー。

 フォルカーはその疑問も最もだと言わんばかりに一度うなずいてから、話を続けた。


「原始の力は魔力を使った魔法のように決まった型がない。そのために魔法という現象を引き起こすためにはどのような魔法かということを具体的に想像し、望むことが必要なんだ」


「……だからこそ、原始の力を使うためには想像するだけでは使えないってこと……?」


「そういうことだ」


(そうなんだ……。……ってことはあの時水晶にほんのちょっとだけ光ってほしいって望んでいればそうなっていたってことか!? あの時、光りさえすればどのぐらいでもいいみたいなこと考えちゃったことが裏目になっていたとは……! ……ああ、というか、あの時フォルカーたちの姿が見えたのは具体的にフォルカーたちを見たいと思ったからなのか。……あの時、もうちょっとうまく望んでいれば違った結果になったのに……!)


 今更ながらに魔法の儀のことを思い出すメアリー。

 しかし、既に起こったことはもう戻せないと小さくため息をついた。


「何か心当たりがあったようだな?」


「……うん。まあ、ね」


「……? なぜ、そんなに落ち込んでいるんだ?」


「色々あるの。色々とね」


 メアリーの言葉にわけが分からないといった様子のフォルカー。

 しかし、それほど強く聞く気がなかったのか、すぐに聞くのを止めた。

 そして、フォルカーはマーシャが用意していた紅茶――きっと名前はまた違う名前なのだろうとメアリーは考えた――を優雅に飲み始めた。


(……まあ、もう起こってしまったことだし、気分入れ替えていこう! ……うん、入れ替えるんだ、私!)


 そうやってメアリーは自分を奮起させるために心に言い聞かせる。


(色々予想外なことがあったけれど、私が王城ですることを思い出すんだ。それをしないとこんな目立つ王城から出られないもんね! えっと、私がここでやらなくちゃならないことはっと……)


 まずメアリーが考えたのは魔法だった。


(でも、これはさっきフォルカーが説明してくれたし、後は王宮魔術師の人が細かいことをしてくれるって言っていたよね。……これ以上って何を説明するんだろう?)


 気にはなったが、ま、いいか、とメアリーは魔法のことを一旦頭の隅に追いやるともう一つのことを考え始めた。


(やっぱり、今一番重要なことは孤児院のことだよね。……フォルカーは正直に教えてくれるかな……?)


 メアリーはフォルカーを見た。

 フォルカーは口が悪い。初対面でいきなり罵倒されたぐらいだ。そのことで第一印象は正直、悪いとしか言えなかった。

 しかし、その後のユダとの対応や今までの対応を考えると根がどうしようもないなどといったことはなく、むしろ根は優しいのかもしれないとさえ、考えてしまった。


(そういえば、あの時だって最後私に声をかけてくれていた――あれ? どうして、あの時、気を付けて、なんて……?)


 最初にフォルカーと会った時のことを思い出し、同時にあの時の不思議な言葉も思い出したメアリー。


(いや、それも気になるけど、せっかくフォルカーと二人きりになっているんだ。それなら、簡単に聞けないだろうことを聞いた方がいいよね。……うん、きっと教えてくれるはず……!)


 メアリーはそう考えるとフォルカーの方を改めて向いた。


「フォ、フォルカーに聞きたいんだけど孤児院の支援がなくなっているのって本当なの……?」


(さあ、どう答える……! 正直に支援がないと言うのか、それとも何故そんなことを気にするという感じで私に聞き返してくるのか、はたまた今まで出していたのがおかしかった、みたいなことを言うのか。……さあ、どう言う?)


 メアリーの思考がぐるぐると回りに回っている目の前でフォルカーは不思議そうに首を少しだけ傾げた後に口を開いた。


「……何を言っているんだ、メアリー。孤児院には大きく予算が割かれていたはずだぞ?」


「…………え?」


(ど、どういうこと……?)


 メアリーはフォルカーの言葉に二の句が継げずにいるのだった。

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