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phase.1-4

.1-4


「『リベラアニマ』の設計図……」

「うむ、この第一界には幾つもの『アイザックメモ』が隠されている。そしてその場所を知る手がかりは余たち『リベラアニマ』のみ」

再び階段を上り始めるヴィクトリア。

「全部で『アイザックメモ』は幾つあるんだ?」

「『リベラアニマ』の数分である。そして余らの姉妹は全員で365人。一人一つずつその在処の座標を知って居るのだ」

365人の姉妹、その数字に晴一朗は言葉がでなかった。

「途方も無い数ではあるが余らはそれを悪人の手に渡すわけには行かぬと考えて居るのだ」

「でも全部で365工程ってことだろ? 一つ位大丈夫じゃないか?」

楽観的とも取れる発言だが間違っているとも言いがたい。

「であろうな。だがそれを一つでも手にしたものが他を集めるのを諦めるとでも思うのか?」

それもまた正論。晴一朗は言い返せずに口を閉ざした。

「人の欲とは際限なきものだ。一つあればもう一つ、二つ手に入るならまだもう少し。求める要求は尽き果てぬ、だからこそ余らはそれを食い止めたいと思って居るのだ」

ヴィクトリアのなんでもない当たり前の言葉に晴一朗は頷いた。

「言うのは簡単だ。だけどやろう。俺も手伝うよ」

単純明快な善意。

それは晴一朗とて持ちえる当たり前の感覚。故に善良な思想に同調することは不思議なことではなかった。

「うむ! 今日は良き日だ! 余と志を共にできる仲間が一人増えたのだからな!」

ヴィクトリアご機嫌に軽快なリズムで階段を上る足を止めた。

「うむ、今日はこの階からだな。お主はどうする?」

そういう言われて一歩踏み出して左右を見回す。

「じゃあ左に行くから、右を頼むよ」

「良かろう、任されよう」

上機嫌なヴィクトリアは右に曲がり一番最初の部屋に足を踏み入れた。

それを見送って晴一朗も左に曲がり一番手前の部屋へと進む。

「あら、ヴィクトリアと一緒じゃないのね」

部屋の中ではクロッカスが探索を始めていた。

「ああ、ここは君に任せたほうが良いか」

そういって部屋を出ようとする晴一朗を呼び止める。

「待ちなさい。貴方一人で探索するつもりだったの?」

呆れた風にクロッカスは言葉にした。

「駄目?」

「当然でしょ。だからヴィクトリアには任せられないのよ。貴方は私を手伝いなさい。もしもの時に貴方一人で何が出来るのか考えたかしら?」

厳しい口調は晴一朗を慮ってのこと。

たとえ自らに責任があるといえど怪我をされては寝覚めが悪いし、特にあの女皇帝様は酷く落ち込むだろうと内心ごちるクロッカス。

「確かに君の言うとおりだ。分かった手伝うよ」

そうして、同じ部屋の中を探索して数十分。

同じような机と椅子をずらして調べたり引き出しの中を漁るが空、空、空の連続。

ふぅーと息を吐き晴一朗は元の位置に椅子と机を戻し、沈黙を破る。

「ちょっと良いかな」

晴一朗はクロッカスに声をかける。

「何かしら」

気に留めることもなく流すように答えた。

「知りたいことがあるんだ」

瓦礫を退かし辺りを調べながらクロッカスは答える。

「私が教えてあげられることなら構わないけど」

「君達、『リベラアニマ』について」

その質問にピタリと手が止まり、視線を晴一朗に向ける。

「いいわ。何が知りたいのかしら」

瞳を逸らさずに晴一朗は口にした。

「君達に関する資料にある【デザインモデル】について知りたいんだ」

ずいぶんと変なところに興味を持つのねとクロッカスは思うが質問に答える。

「私達リベラアニマの人格の元になった人間の事、ただし、全員が全員そうじゃないけれど」

難しそうな表情を浮かべ視線を逸らす。

「どういう意味?」

「私達は外見を形成するデザインモデルとなった人間の人格と私達リベラアニマとしての人格」

つまり、姿かたちの元になる人間の魂を再現し、それと一緒に別の新たな人格を共存させようとしたということかと晴一朗は考える。

「二つの人格は一つの体に宿ることはできない。だからどちらかが優位を取り最終的な人格が形成されるの。私はほぼ99パーセントがリベラアニマとしての人格」

クロッカスは視線を逸らして話続ける。

「ヴィクトリアは大体60パーセントくらいがリベラアニマかしら。彼女はずいぶん可笑しな喋り方に思えるでしょうけどアレが素なの。引き裂けなかったデザインモデルの名残」

過去にヴィクトリアはクロッカスに話していた。自らがまるで『デザインモデル』の少女の人生を体験したような奇妙な感覚が目覚めたときから在ると。

そして、もう一人の少女。奥守心、彼女は365体の中でも数体だけの特別な存在。

「で、もう一人。貴方のことをマスターと呼んでいる彼女。奥守心は特別よ。100パーセント、デザインモデルで人格形成されているわ」

「100パーセントってそれって」

肉体が変わっただけでデザインモデルの本人そのもの。

「彼女だけは私達と完全に違う。殺された次の瞬間に目が覚めた。そう言っていたわ」

その時、何一つ悔しがることも怯えることなく淡々と言ってのけた心にクロッカスは恐怖に似た畏怖を感じていた。

「じゃあ、君の場合は?」

「そうね。私の場合はモデルになった娘が私に全部くれたわ。だから彼女のことは本で読んだ程度のものよ」

さらっとクロッカスはそういって話を切り上げる

触れてはいけなかったのかと思い晴一朗は小さな声で謝った。

「誤解しないでほしいのだけれど、私は私であることを卑下するつもりはないわ」

ただ……と言いかけて首を振り何でもないわと続けた。

「にしても何も見当たらないっ……なっ!」

崩れた瓦礫を押しのけて潰れてひしゃげた机の引き出しを無理やり引っ張る。

鍵が掛けられているのか妙に硬く、足で机を抑えて力いっぱい引くとガキンと壊れる音がして引き出しがすっぽ抜けた。

当然晴一朗は勢いあまって後ろに倒れこむ。

「大丈夫かしら?」

クロッカスが手を差し伸べその手を晴一朗が取り立ち上がる。

「あぁ、ありがとう」

反対の手に握ったままの引き出しに視線を向ける。

「苦労の割に報われないな」

空っぽの中身を見て苦笑する晴一朗。

「大抵そういうものだと思うけれど。今回はそうでもないわよ?」

しゃがんで何かを拾い上げ、それを手のひらに載せて晴一朗に見せる。

「これは?」

「電子デバイスの一つ。たいしたことは記録されていないでしょうし、中を見れる保障も無いわ。けど、小さな成果でも成果は成果よ」

まじまじと晴一朗はその電子デバイスを見つめる。 小さく白い正方形のブロックの様なもの。

これが電子デバイスといわれてもピンと来なかった。

「なんにせよこれは持ち帰らないといけないわね。預かっておいても良いかしら?」

「勿論。こっちから頼むよ」

クロッカスは晴一朗の言葉を聞いてそれをポケットにしまう。

「さて、他にも何か無いか探しましょうか」

「そうだな」

先ほど引き出しを引き抜いた机が途中だったので晴一朗は同じ机の引き出しを調べていく。

その後、当然ながら追加で何か出てくるわけも無くあっと言う間に数時間が経過し九階と八階の探索を終えた所でその日の探索は終了となった。

「じゃあ、先に戻っているわ」

共に探索をしていたクロッカスは晴一朗そう言って階段を上がっていった。

「うむうむ。今日は久方ぶりに成果もあったゆえ、よき日であるな」

上機嫌のヴィクトリアは戻ろうとしていた晴一朗の手を握る。

「そして、ここからが本番だぞ」

「本番って?」

「せっかくここまで来たのだ。少しくらい散歩しても罰は当たるまい。行くぞ!」

その姿を見て否定する気の起きなかった晴一朗は手を引かれるがまま後を付いて行く。

階段を下りて入り口のまで戻り、海が見えるほうへと歩き出す。

「何処行くつもり?」

「自由気ままな散歩なのだ。目的などありはせぬ!」

鼻歌交じりに迷い無く歩いていくヴィクトリア。

「……質問しても良いかな」

どうしてもクロッカスに話を聞いて気になっていたことがある。

「良い。余が答えられる問いであれば答えよう」

「気を悪くしてほしくないんだけど」

予防線を晴一朗が張るとピタリと足を止める。

「余は寛大である。故にお主が余にへりくだる必要は無い」

その瞳はただ真直ぐに晴一朗を見つめていた。

「ヴィクトリアのデザインモデルってどんな人だったのかと思ってさ」

なんだそんなことかと口にする事無く表情で伝えると再び歩みを進める。

「余のデザインモデルは人類最後の皇帝であった少女である。だが、余は余であり、その少女ではない」

同一視することはやめてくれと言いたげな口調で続ける。

「そうであるな。分かりやすく言うのであれば余はその少女の生涯を隣で一緒に歩んできたというところか」

垣間見える横顔は少しばかり微笑んでいるようにも見えた。

「じゃあその口調はその子に影響されて?」

「そうではないぞ? あくまで余は余だ。逆説的ではあるが余が余であるから、その少女が余のデザインモデルに選ばれたというべきか」

自らは何一つ違う事無く自らである。

人が足を止めて悩むような問題を何一つ迷う事無くヴィクトリアは答えを出す。

「すごいなヴィクトリアは」

思わず口から零れ落ちた言葉にヴィクトリアは振り返る事無く答えた。

「うむ。褒め称えよ! 余はシャーロット・ヴィクトリア! この世界最後の皇帝でもあるのだからな!」

満足げに笑うヴィクトリア、そして不意に足を止めた。

潮風に髪を靡かせ振り向き両手を広げる。二人の視線の先には青い空と海が広がっていた。

「どうだ晴一朗。美しいであろう?」

息を飲むほどではないにしても心が落ち着くような美しさはそこにある。

「何処にでもある普通の美しい景色だ。だが晴一朗この景色は今は余とお主。二人だけのものなのだ。余はそれが実に心地よい。故に」

ヴィクトリアはそこで区切り晴一朗の隣に立つ。

「余は誰も見たことの無い景色をお主と共有したいのだ。分かってくれるか?」

顔を覗き込まれ晴一朗はドキッとして一歩下がる。

「分かるかって聞かれたら分かるけど」

「であるか! うむうむ! クロッカスも心も理解してくれなくて余はつまらなかったのだ! 良い良い! 同じ感性の持ち主に余は出会いたかったのだ」

それに満足したのかヴィクトリアは手を伸ばし深呼吸する。

「ところで晴一朗」

「なにかな」

「余もお主に聞きたいことがあるのだ」

思っても見なかった言葉に晴一朗は瞬きを繰り返してから頷く。

「お主はパーティーは好きか?」


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