正夢令嬢による猟奇的ざまぁ
とある自然豊かな小帝国の貴族である、カンテフィード伯爵家の別荘。空気の澄んだ丘陵地に存在するそれの一室の前で、メイド長が扉を数度叩いている。
「お嬢様、朝食のお時間です。お目覚めですか」
彼女が声をかけている相手は、伯爵夫妻の一人娘であるシャンテル。
いささか病弱なため、こうして多忙な両親の下を離れて別荘にて療養することも多い。だが、心優しく驕りの欠片もない、勉学にも優れた好人物と評判である。それもこれも、両親による厳しいしつけの賜物。
普段ならすぐに眠そうな声で返事があって、それからそっと寝室の扉が開くのだが、今日に限ってなかなか反応が返ってこない。
「お嬢様、起きておられますか? お嬢様」
ノックと声かけを複数回繰り返しても、扉の向こうは依然静まったまま。四回目のそれを終えたところでとうとうしびれを切らしたメイド長は、感情を押し殺して音を立てないよう扉を開けた。
「失礼します」
その先でメイド長が視界にとらえたのは、床にへたり込んでくぐもった嗚咽を漏らす主人の姿だった。着ている薄桃色のネグリジェが涙に濡れて大きなシミを作っている。つややかな赤毛の間から覗く透き通ったような肌は、普段にもまして青白い。
「いったいどうしたというのですか」
「うぐっ……夢を、あ、悪夢を見てしまったの。植物の姿をした巨大な怪物がこの小さな帝国を蹂躙するという悪夢を。もう何もかも、終わりなのですわ……」
「たかが夢じゃないです……か……」
シャンテルの態度は、どこから見ても真剣そのものである。「たかが」で片づけてしまえるようなものでは到底ない。
そう感じたメイド長は、周知しようとしてもはなから信じてもらえないであろう絶望的未来に泣き崩れるシャンテルの背中を、つとめて優しくさすり続けた。事情が掴めないなりに、いたわっていた。
*
シャンテルが自身に宿る能力に気付いたのは、もう六年も前のこと。当時十一歳だった彼女は、ある日実家近くの洞穴で大勢のコウモリとじゃれる夢を見た。
それだけなら何の変哲もない話だが、シャンテルはその日から毎日同じ夢を見続けた。そしてそれが二週間になったある日の朝、目覚めて視界に広がったのは確かにその洞穴だったのだ。そして、次第に近づいてくる羽音も耳にした。
その後、夢の中で見た通りにコウモリたちとたわむれながら、シャンテルは幸せに浸っていた。
「見た夢が現実になるなんて、どんなにわくわくすることでしょう! ああ神様、素敵な贈り物をありがとうございます」
シャンテルはあまり夢を見ない質であったため、己の力の恩恵にあずかることはさほど多くなかった。せいぜい二月に一回と言った程度。
だが、彼女にはそんな頻度で充分だった。むしろたまのご褒美と受け止めていたくらいだ。
普段の生活で溜め込みに溜め込んだ鬱憤や辛い気分を、具現化した幸せな夢で晴らせるということの爽快さ。それを感じさせてくれる素敵なご褒美。
以前からシャンテルが夢を見る際は、ストレスを晴らす数少ない機会であるからだろうか、ほぼ幸せな内容のものばかりであった。それでも充分に満足だったが、そのいい夢が現実のものとなるのだ。気分が高揚しないわけがあろうか。
彼女は自分だけの小さな楽しみとしてこれを満喫するため、誰にも自らの能力を打ち明けずに過ごしていた。
そうして能力の発現から四年ほど過ぎたある日のこと。
黄金の巨大鳥に乗って、雲海の中にある高級宿へ行き充実したもてなしを受けるという夢を数日前から見ていたシャンテルは、その日の夢の中でもまばゆき鳥の背中で風に吹かれていた。
――そこまでならば最近見ている夢をただ丁寧になぞるだけだったのだが、その日はここからが違った。
いくら楽しい内容で、のちにこの夢が実体をともなって体感できると頭で理解していても、シャンテルは何度も繰り返し代わりばえのしない夢を見るのがそろそろ退屈になってきたのだ。
今までに見た別の夢だってそう。お預けをしばらく食らった後のご馳走は大層おいしく感じるものだが、あまりにそれが長ければご馳走自体に興味を失ってしまう。
シャンテルはそんな風に感じ、誰にも罪がないのはわかっていながらも、何かを口いっぱい頬張ったかのようにぷくっとむくれる。そして、溜め込んだ空気を豪快に音を立てて吐き出しながら、思いのたけを全方位にぶちまけた。
「うあーーー!! 面白くなーい! 私はね、何か変化がほしいの!」
本質は自由奔放で好奇心旺盛な乙女が普段の丁寧な口調を忘れて叫び散らしたとき、シャンテルの身体から金色の光が薄く放たれた。ささやかな、しかし確かな存在感のあるきらめき。
そして彼女の意識から一切の雑念が消えて澄みきった気分になり、自身の力が新しい段階に一歩踏み進んだことを感覚だけで理解した。
シャンテルが目覚めた、能力の次なる段階。それは、見ている夢の内容をリアルタイムで自由に改変できる力である。
彼女の見る夢は、自分が夢を見ていることを自覚できる明晰夢と呼ばれるものであるのだが、それはつまり自分の意識の制御下で夢を見られるということとほぼ同義。ゆえに、夢の主人公であることに加えてその紡ぎ手にもなれるのだ。
書き換えられるのは過程だけで、結末は一切変えられない。それでもシャンテルは大層喜んでいた。理由は二つ。
一つ目は、これで何日も全く同じ夢を見ないで済むということ。
二つ目は、最初に夢を見てから二週間経ってそれが実際のものとなったとき、最後に書き換えた夢の内容が反映されるから。
――自らが望んだ通りに書き換えた、夢物語の筋書きが。
そこまでをぼんやりと回想したところで、シャンテルはふと我に返った。そして、客間のソファに腰を下ろして来客を待っているということを思い出す。
数日前に、彼女の婚約者であるモンターク侯爵令息のフェリックスが面会の約束を取りつけてきたのだ。
お会いしたいなどめったに言ってこないフェリックスがどうしてと、面会の件を知らされた際の彼女は少しいぶかしんでいた。
ただ、あくまでほんのわずか疑問に思っただけである。どうせあと四日もすればあの悪夢が現実となって全てが終わるのだから、シャンテルにとって理由などどうだっていいのだ。
彼女も最初は終末が襲い来ることを嘆き悲しんでいたが、忍耐とうわべの取り繕いでやり過ごす生活を続けるくらいなら、この機会にさっくり死んでしまったほうがいいと滅びを受け入れるようになった。
シャンテルはまたとりとめのない回想に戻ろうとしたが、メイドの一人が彼女のそばまでとたとたと駆け寄ってきたため、そちらに視線を向ける。
「お嬢様、フェリックス・モンターク侯爵令息はまもなくいらっしゃるようです。お出迎えの態勢を」
ぞんざいな歓迎の仕方で相手を怒らせるようなことがあってはならない。貴族の着る物としてはやや簡素なオリーブ色のローブを軽く引きずりながら、シャンテルは急ぎ足で玄関先へと出ていった。
ほどなくして、フェリックスが二人の従者を引き連れて別荘に現れた。
整えられた茶髪に湖のような済んだ青い釣り目、シャンテルより頭一つ分近く高い背丈……と、ここまでは魅力的にも思える外見要素ばかりだが、いかんせん彼は少しばかり肉が過剰に付いているのだ。
齢二十の侯爵三男は、その貫禄と鋭い目付きから想像できる通りの威圧感たっぷりな態度で挨拶した。
「ご機嫌よう。久しく姿を見ていなかったね、シャンテル。元気だったかい? 私はね、鷹狩りに精を出していたよ。おとといなどは、めったに見かけないほど大きな鹿を捕らえて……」
「ええ、おかげさまで。ところで、何かご用件があるのでしょう?」
愚にもつかない自慢話を、柔らかい表情と言い方ではあるが冷たくさえぎるシャンテルの態度に、作り笑顔を素早く引っ込めるフェリックス。
「そうでなければここには来ないな。ではお望み通り、単刀直入に。フェリックス・モンタークは今日この時間をもって、シャンテル・アミラ・カンテフィードとの婚約を破棄させてもらう!突然のことで動揺させてしまうだろうが、私にはより良い相手が見つかったんだ」
思う存分泣きやがれ、とでも言わんばかりの憎らしげな表情。
だがシャンテルは顔色一つ変えず、極めて無感情に返事してのける。
「ええ、承知いたしますわ。素敵な方が見つかったようで喜ばしく思います。ではご機嫌麗しゅう」
「あ、ああ……では失礼。それと言い忘れていたが、ご両親には報告済みだ。せいぜい新しいお相手が見つかるよう、家族で尽力するんだな」
あまりにも淡白な対応にややたじろぎながら、三男坊はそそくさと別荘を後にした。
※
フェリックスの訪問を難なくやり過ごしたように見えるシャンテルだが、来客が去っていった後の扉を見つめる彼女の手は震えていた。その感情は、悲しみではなく怒りに染まっている。
婚約者がいるのに堂々と他の女にうつつを抜かし、あまつさえ高圧的な態度で婚約破棄を宣言する。フェリックスの傲慢さと色恋好きは周知のことであるのだが、よもやここまでだということはシャンテルの想像の埒外だった。
その埒外が、まだ年若い乙女の鬱屈に火を灯す。
「ああ、もう! 厳しいどころか虐待の域な父さん母さんもあの色狂い豚も、それに意地汚い貴族連中も! みーーーんなまとめて、ぶっ潰してやるっ!」
その夜の就寝中、彼女は悪夢の中身を書き換えた。
※
シャンテルが初めて植物型の怪物の悪夢を見てから、二週間が経った。彼女は自室の化粧椅子に腰かけて、静かにその時を待っている。
彼女の見た嫌な夢の中では、太陽はちょうど天頂に登っていた。もう間もなく、日輪が夢で見たそれの位置に重なる。
煌々と照りつける日差しが目に入るのもいとわず、シャンテルは太陽がじりじりと動くのを別荘の窓越しに見つめていた。
やがて、太陽が頂点に到達する。
それと時を同じくして、カンテフィード家の別荘から数十kmは離れた高原の地中より、二足歩行の化物は現れた。無数の土塊や家々を爆発的に吹き散らして。
何十何百もの種類の植物を融合させて茎や蔓を触手へと変え、その上からどどめ色の液体をぶっかけたと形容するのがふさわしい見た目。ぬめる表面からは、鼻が妙な方向へひん曲がるのではないかと思えるほどの腐臭を撒き散らしていた。
天を衝くほどに馬鹿でかいそれを見て、シャンテルは少しいとおしく思った。汚らしい自分の本性を、そのまま投影したような外見をしていたから。
「この濁りきった『わたし』色の絶望で、いまわの際を彩ってあげる」
歪んだ笑顔でそうこぼしたのを最後に、シャンテルの身体はバランスを失ってベッドに崩れ落ちた。
命を落としたというわけではない。つい今しがた出現した化物へと、魂が移動したのだ。
シャンテルは悪夢の内容を『巨大な植物型の化物が現れて、帝国を蹂躙する』から、『現れた巨大な植物型の化物に意識を乗り移らせて、自分が帝国を蹂躙する』へと改変した。どちらにしても、怪物が帝国を蹂躙しておしまいとなるのだから結末は変わらない。
自らの意思で全てを破壊することを選んだ彼女は今、この化物が自分の本当の姿だったかのような安心感を得ていた。愉悦が、全能感が、憤怒が、ぼこぼこと音を立てて無尽蔵に涌き出てくる。
興奮に身を委ねながら、人でなしになった彼女は動き始めた。
一歩足を進めるごとに地表が弾け飛び、それを耳にした者の聴覚をしばらく奪うほどの轟音が駆け抜ける。災害を巻き起こしながら一直線に怪物が向かうのは、帝都マッツバーネン。そこは、シャンテルの両親やフェリックスなどの住む場所。つまりは主な破壊の目標。
遥か前方の地面に触手を伸ばして突き刺し、縮めることで移動するということを何度も繰り返して、化物はひたすらに行く。進行方向にある建物や森林などを触手でなぎ倒しながら、ただひたすらに。
移動に巻き込まれる民衆の悲鳴が響き渡ろうが、駆けつけた帝国騎士団の者たちが魔法や剛弓などを見舞おうが、一瞬たりとも足を止めない。心と身体がほんのわずかに痛むだけ。
そのようにして愚直に行進を続けた化物は、さほど時間をかけずに帝都へたどり着いた。馴染みはあるが愛着はないこの街を一周ぐるりと見渡す。どこを見ても混乱が広がっている。
『さようなら』
そう心でつぶやいて、醜き異形は持てる全ての触手を振り抜いた。
そこかしこで血飛沫と脳漿が舞う。歴史ある建築物が木っ端のように吹き飛ぶ。着の身着のままで逃げ惑う人々も、次の瞬間には巨大な蔓や崩壊する建物の餌食となる。
その中には、妬みや理不尽な私怨からシャンテルに関する悪評をでっち上げて貴族社会に広めていた、彼女と同い年の子爵令嬢の姿もあった。
『フフ……フハハハハハ……! これが私の鬱屈よ』
勝ち誇ったように、帝都のあちこちに狂乱を巻き起こす。
それを続けているうちに、怪物は両親とモンターク一家の姿を視界にとらえた。つい最近まで子ども同士が婚約関係にあったからか、一緒になって避難しているようだ。
絶好の機会を逃さまいと怪物は動く。
身体を構成している植物の一つであるフリュペールという花から、濃い紫色の花粉をばらまいた。この花の花粉には強力な神経毒が含まれており、微量を吸い込むだけで死に至る。
ふわふわ舞い散るそれを鼻からまともに吸い込んでしまった両親やフェリックスたちは、地面に突っ伏してのたうち回る。
「うっ……わ、私はまだ死にたくないんだ!今の、豊かな生活を奪わないでく……うぐっ!」
シャンテルの父が情けなくわめくが、すぐに毒に侵されてぴくりとも動かなくなった。
『その豊かな生活を維持する上で生まれるストレスを、私に暴力という形で散々ぶつけたのは誰なの?その苦しみを味わってちょうだい。触手じゃ苦しむ前に死んでしまうから』
実の父親を自ら手にかけたにも関わらず、シャンテルの思考はどこまでも酷薄そのもの。
「俺も、新しい女ができたばかりだと、ごふっ、いうのに……! うっ……ただおとなしいだけのシャンテルとは違う、明るく楽しげでっ、からだ、体つきもたまらん女が……がふっ」
『ちょっとでも逆らったらすぐカッカと怒り出すから、おとなしくしているしか選択肢がなかったのよ……!これは今までの仕打ちと婚約破棄の罰なの』
フェリックスもまた、苦痛に溺れて醜く死体に変わる。鮮烈な血の海に、先ほどまで人だったはずの何かがいくつも浮かぶ。
次々と復讐を果たした醜悪極まりない怪物は、満足そうに触手を目いっぱい伸ばす。
ひとしきりそうしてから、積年の恨みがまだ晴れきっていないのだと言わんばかりに、かつて両親や婚約者だった亡骸たちを粉々になるまで踏み潰し始める。一踏みごとに発せられる震動音は、暴虐の限りを尽くす野獣のような荒々しい響きだった。
シャンテルがこうして怪物に意識を移し暴れることを決意した直接の要因である、憎きフェリックスの遺骸。それに渾身の踏み潰しを見舞ったところで、彼女はこれ以上の追撃を止めることにした。充分満足した上に、もう砕けるほどの死骸の破片が残っていない。だが、何よりの理由は空しさであった。復讐を果たした先に、何も見つけることができなかったのだ。
改変した悪夢の中では、帝国のほぼ全域を蹂躙したところで力尽き消滅するというのがシャンテルの思い描いた結末であった。
だが、今の彼女にはどうにもそこまでする気が起きない。それどころか、自分が起こしたこの事態を悔やみ、罪のない人々を嫌というほど巻き込んだことに溢れんばかりの罪悪感を覚えている。
元帝国がこの怪物によって襲撃されるのは元から規定事実であり、シャンテルが行ったのは怪物に自分の意識を乗り移らせるよう書き換えたこと、その一点だけ。
規定事実に関してもシャンテルがそういう悪夢を見たからであるが、それに対して彼女には微塵も責任はない。自分の意思で植物型怪物の夢を見ようとしたのではないのだから。
それでも、衝動と憤怒に任せて、自分の手で多くの民衆をいたぶり殺したことは事実である。
罪の意識でぺしゃんこになったシャンテルは、自分の別荘まで帰って自害することを決意した。
これ以上の被害を出さないよう、来た道を通ってひたすら戻る。化物が出現した地から別荘までは、行きで通っていない分、より慎重に戻る。人間にも自然にも、できるだけ破壊を刻み込まないように。
次第に疲労が蓄積していっており、軽くふらつくことが幾度もあったが構わず歩を進めていく。
歩き続けた末に、どろどろの黒紅で塗りたくられた異形は自らが出現した場所へとたどり着いた。
もういい加減限界が近い。冷たい地面に這いつくばって、最期のときをじっと待つ。
魂をこの怪物に移動させられたのは夢の内容を改竄して運命を書き換えたからであって、本来は動かせないものである。ゆえに、怪物が力尽きればシャンテルの命もこれまで。
その暁には、別荘に残した肉体は完全に抜け殻と化すことになるが、シャンテルは事前にメイドたちへと処理を頼んでいる。火魔法で消し炭にして、別荘の敷地内に埋めろと。
自宅に軟禁するなどの度を越した厳しいしつけを行ってきたシャンテルの両親や傲慢極まりない元婚約者などに比べて、カンテフィード家のメイドたちは皆素晴らしい人物ばかりであった。
世の中には目を覆いたくなるほどの悪人がいるが、その反対に天使の化身かと思えるような善人もいる。
『ああ神様。そのような、何の罪もない優しき人たちを虐殺してしまったことを心底お詫びいたします。大罪人の私めに、地獄よりもなお恐ろしい誅罰を、どうか』
そう念じ終えた直後、シャンテルの意識はぷつりと途切れた。そして、数え切れないほどの破滅を呼んだ妖魔が、枯草色の光と化して溶け消えていく。
悪夢と抑圧に振り回され、己の手で残酷な災禍を生んでしまった少女の夢物語が、ここに幕を閉じた。
閉じたように、思われた。
*
ところで『夢』とは、自分が見たと認識したものがすべてではない。確かに見ていながら、目を覚ましたときには忘却のかなたに消え去ってしまったものも多くあるのだ。
これから語られるのは、シャンテルが忘れてしまった本当の結末。冷たい悪夢のエピローグ。
*
かつて禍々しくうごめく幽鬼であった、枯草色の閃光。それが完全に消えた後に、小さな七色の種が残された。
ぼんやりと明滅を繰り返すそれは、自ら土の中へと埋まっていく。
それから少しずつ成長を遂げ、百年ほど経過した頃には立派な成木へと変貌。実った果実の中からは、人間の赤ちゃんや新種の植物などの多種多様な生命が収穫できたという。ここで産まれた者たちは、百年も前に破壊された帝都を当時よりも遥かに繁栄させる礎になった。
人はその大木を、『産声の樹』と呼ぶ。
破壊と殺戮の限りを尽くしてしまった少女の純粋な後悔は、新たな命と繁栄の息吹を招き入れたのだ。




