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君に届け、僕の声  作者: 高崎菜優多
2/14

ずぶ濡れの女子

学校生活に支障はなかった。

月哉は学年でも有名なサッカー部員で、サッカー部の中でも才能はずば抜けていた。

過去にはジュニアユースの選抜にも選ばれていて、高校入ってからはワールドカップにもメンバーとして呼ばれた過去がある。

友達やチームメイトから好かれていて、勉強もまあまあできる。

みんな、月哉が好きだった。


今日は部活はオフだ。

早く帰ろう。

そう思って月哉は階段を降りて昇降口へと続く廊下を歩いた。

その時だった。

ドンッ、と鈍い音がした。

思わずのけ反りそうになる。

しかし、ぶつかった人は驚いて顔を上げると目を大きくして驚いていた。

さらにその人は何故か制服がずぶ濡れで、髪も水滴が着いている。髪が長い、女子生徒。

見覚えはない。他クラスか学年違い。

しかしネクタイの色で学年はすぐわかった。一年生だ。


「ごめんなさい」


ただそう言って走り去ろうとする。

月哉はついその手を掴んだ。


「待って!」


止めるのに理由がいるならただ一つ。

この人が目を大きくして驚いていた時に、瞳にたまる涙も一緒に流れていると気づいたからだった。

その人はまたビックリしている。


「なんですか」

「どうしたの?それ」


月哉は慌てて鞄からタオルをだした。

そして、自分が持っていた上着をかけた。

・・・・・濡れたワイシャツから下着が透けていたからである。


「来て」


手を引くと大人しく着いてくる。

移動しながら、とにかく質問をした。


「着替えは?ジャージとか」

「ない。持ってきてない。」

「部活着は?」

「あたし帰宅部なんだけど。」

「名前は?」

「森村」

「森村さんか。」


サッカー部の部室の前に来ると、近くに誰かいないか確認した。

それから、扉を開けると案の定誰もいない。


「入って。その辺の椅子にかけて待ってて」


月哉はロッカーを開けてバスタオルをだした。

いつも部活で多量の汗をかく。

タオルはストックしていた。

月哉は森村にタオルを渡す。

びしょ濡れだが、頭から水を被ったからからか、上半身がかなり濡れているだけで、スカートは大丈夫そうだ。

森村は大人しく座ってタオルで髪や顔を拭いている。

涙の跡は、すっかり消えていた。


「ありがとう。えっと、青柳先輩。」


そう言われて今度は月哉が驚いた。


「なんで俺の名前知ってるの?」

「この学校で知らない人いないんじゃないですかね?」

「ああ、そう。」


森村はタオルを月哉に返した。

すると、森村にジャージを一式渡した。

月哉は今後ろ向いてるからさっさと着替えてと言うと、森村はさくさくと上だけ着替えて月哉の向いている方にまわった。


「助かった。あたし、ジャージ類授業ある日じゃないとどうしても持ってこれなかったから。」

「なんで?」

「だって捨てられるんだもん。クラスメイトに。

落書きだってされるし、持ち物をうかうか教室には置いておけないの。」


それから、森村は自分のことを話し出した。

いじめられていること。

それはクラス単位で誰も味方がいないこと。

ロッカーにものをいれておくと、鍵が壊されてなくなること。

暴力から靴隠しまで多彩な嫌がらせを受けている。

そして、今日はいきなりバケツで水をかけられたらしい。


「まさか学校の有名人か助けてくれるなんて思ってなかった。

あたしってばラッキーだね!」


明るく振る舞う森村に、辛いことがあっただろうに、と月哉は同情した。

ドラマや漫画で聞いたことのあるようないじめを目の当たりにするなんて思ってもみなかった。


首をかしげて森村は月哉を見た。

月哉は不思議な感じがした。

なんだか憎めないタメ語。

ふんわり笑う顔。

これが、二人の出会いだった。





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