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君に届け、僕の声  作者: 高崎菜優多
10/14

特別な日の放送

月哉は家に帰ると、さくさくと夕飯を食べ、お風呂に入り、それからパソコンの電源をいれて、マイクとイヤホンをセットした。


森村からの手紙は、きっと「イノリ」のことに違いない。

イノリはいつも10時から放送を開始する。


いてもたってもいられない。

どうしようもなくそわそわして仕方がなかった。

靴箱に手紙が入っているなんてわりとしょっちゅうだが、これだけそわそわしているのは初めてだった。


森村からの手紙を見返す。

綺麗な字。それから柔らかな雰囲気のパステルイエローの封筒と便箋。なんとなく甘い香りがするまるでお菓子のような。

それから便箋の文字を見た。

綺麗に書かれた名前。


森村祈里モリムラキサト

もしも名前を知らなかったら『キサト』とは読まなかったような気がする。

自分だったらきっと森村祈里モリムライノリと読む気がする。初見なら絶対に。


月哉は目を見開いた。


「ちょっと待てよ・・・・これってまさか・・・・!」


時計を見た。

10時まで、あと3分。


イノリ、それはそれはキサトじゃないのか!?

確かめたい。

けれどどうすればいい?

あたふたとしてる間に時は過ぎて行く。


イノリの放送が始まる時間になった。

しかし、チャンネルは閉じたままで始まらない。


その時、パソコンから呼び出し音が鳴り出した。イノリだ。


月哉は通話ボタンを押した。

それから静かに息を吸い込む。


「もしもし」


月哉が喋ると、声の主は「もしもし、月さん?」と紛れもなくイノリの声だった。

しかし、それと同時に感じてしまった。この声の、もう一人の主を。


「・・・・・イノリ?」

『うん。そう。』

「今日はしないの?放送。」

『しないの。実はあたしの大事な放送用のメモ、燃やされたんだ。』

「・・・・え?」

『だからあたし、今日は特別な放送をしようと思うの。』

「うん。」


間違い無いと思った。

なぜ、気づかなかったのだろう。

このしゃべり方、彼女と初めて会った時から変わらないのに。

一つマイクを通すだけで、こんなにも違ってしまうなんて。

顔が見えないだけで、こんなにも変わるなんて。


『あたしの話を聞いてくれる?』

「もちろん。」


イノリの声は落ち着いていた。

月哉も、少しどきどきはしていたけれど、さっきよりはずっと落ち着いた。


『ある女の子がいたの。仮にAちゃんとする。その子には本当に大切な恋人がいて、いつも一緒で、すごく幸せだったの。

その女の子はね、たまに我が儘で、ちょっと強気な時もあって元気な子だったんだよ。

恋人はね、年上で、背が高くてね、顔もかっこいい。

この人はどうしよう。Aくんにしようか。

二人は仲良しで、これからもずっと一緒だと思ってた。

でも、違った。Aくんは、別の女の子を好きになっちゃったの。名前はBちゃん。

女の子はすごくすごく悲しくて、たぶん一生分くらい泣いたよ。

部屋から出れなくて、学校にも行けないくらい。

でも、なんだろう。このままじゃ駄目だって思って部屋からでた。

学校にも行った。そしたらこんな噂が立ってた。「Aちゃんって、Bちゃんの彼氏と浮気してたんだって」って。

それからAちゃんは在られもない噂に翻弄された。』


月哉は自分の拳を握りしめた。

誰の話をしたのか、月哉にはわかったからだ。

そして、やっぱり噂は噂はだったのだ。

大切な人をとったんじゃない。とられたのだ。


「ねえ、もしかしてその子の名前、キサトちゃんって言うんじゃない?」

『そう。もう気づいてたんだ。もう、じゃないや。やっと、かな。』


イノリの声はいつも通り。

優しくて中性的な声色だった。

あんなに近くにいたのに、なんで気づかなかったのだろう。


「ね、俺の話もしていい?」

『うん。』


月哉は目を閉じた。それから、これまでの話を思い出した。




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