車窓から見えた出来事。(アリス王女視点)
わたくし、アムネリア王国第一王女、アリス・アムネリアは困惑しています。
つい先ほど、盗賊達に囲まれて、馬車から決して顔を出さないようにと、騎士ハリファが固い声で申し出た時、侍女達は、酷く怯えていましたが、わたくしには現実感が有りませんでした。
しかし、いよいよと、私共の緊張が最高潮に高まった時、丘の上より雷鳴と共にやってきた奇妙な物体、沢山の車輪が回ってガラガラと音を立てる、中に乗っている薄緑掛かったグレーの服の人は、絶体絶命の私共に助けを申し述べてきたのだけど、悪漢たる盗賊達は、口上もなく、いきなり矢を放ち始めました。
口上の中で、奇妙な物体は、巨大なチャリオットと分かったのですが、馬などの引手の無いチャリオット、高価な魔導具なのでしょうか?
矢は、巨大なチャリオットに当たるも、カン、カンと、金属に当たる音を立てて、弾かれています。
あのような巨大な車体なのに、金属で出来ているのでしょうか?
不思議です。
そんな重そうなものを引手もなく、どうやって動かすのでしょう?
その巨大なチャリオットの中の人は、矢を避けるように、車体の上に取り付けられた櫓の中に引きこもると、上の六角形の櫓が、カタカタと動きだし、90度ほど旋回したかと思うと、突然、大きな音を発しました。
それまでも、あの大きなチャリオットは、ゴロゴロと雷鳴を発し、車体の後からは、モクモクと黒煙を噴き出していましたが、今まで聞いたこともない轟音、いえ、轟雷を響かせました。
そして、次の瞬間、あの大きな巨体で、信じられない素早い動きを見せました。
こう、すうっと前に出て、くるんっと回るような?
言うのは簡単なのですが、何故?あのような大きなものが、それに多分、すごく重いものが、くるんっとなるのでしょう?
目で見ていたわたくしも、未だに理解できません。
そして、回り切りピタッと車体が止まった瞬間、櫓がカタカタと左から右へ身じろぎし、櫓から突き出た一本の棒が火を噴き出しました。
その棒が発した音が、先ほどの轟雷と言うのは良く判るんですけど、そのあまりの大きな音の直後、耳が良く聞こえなくなりました。
火の吹く先に居た盗賊達を確認しようとしたのですが、耳が聞こえないという現実感の乏しい状態で、馬車はいきなり走り出し、窓からは、騎士たちの馬が、棒立ちになり、激しく暴れるのが良く見えましたが、盗賊達は見えませんでした。
その後、さすがに貴人に仕える精鋭だけはあり、騎士が一人落馬しましたが、しばらくして、馬も落ち着きを取り戻し、停止した馬車のところへ、騎士も、先ほどの巨大なチャリオットも戻ってきました。
そして、チャリオットから、先ほど助けを申し出た方が降りてきました。
騎士ハリファが応対し、その方の指示で、新たにチャリオットから降りてきた見るからに兵士という感じのものが、落馬した騎士を治療しています。
助けられたのだから、こちらの最上位であるわたくしが礼を申し述べるのは、当たり前ですが、100人も居る盗賊を数瞬で、蹴散らしてしまうような巨大な力を持った方に、どのような礼をすれば良いのでしょうか?
わたくしは今、本当に戸惑っています。