騎士隊長殿は、火を初めて見たのでしょうか?
王女一行に同行して、一路、王都を目指すのだが、判った事が一つある。
この時代の移動とは途轍もなく遅いのである。
オストヴィントは最高速が時速42キロ、不整地ならガクンっとスピードが落ちるとは言え、地肌丸出しの街道上なら、時速40キロ近くは出る。
しかし、しかし、しか~し。
聞いた所によると、彼ら一行は、一日掛けて40キロを移動するのである。
朝だいたい5~6時頃(夜明け)から朝食を食べ始め、荷物をまとめて、足りないものを買い集め、7時頃には、野営地又は宿場町を出発する。
馬が疲れないよう、比較的ゆっくりと、時速4~5キロくらい、早くても6キロくらいで進む。
スピードが違うのは、休憩する場所が大体決まっているからだ。
特に、その日の終わりに到着すべき野営地や宿場町は、等間隔にある訳ではないし、目指す先に傾斜がある事も少なくない。
だから、4時間移動して、1時間ほど馬を休ませ、昼食を軽く摘まんで、又、4時間ほど移動する。
野営地なら日が沈む前に、水場のある場所に辿り着き、天幕や自炊道具の準備をしなければならい。
日が暮れてからだと、手間は倍増どころか、10倍増、100倍増って感じで、更に、無駄に魔獣や獣の危険も増える事から、帳尻合わせに、スピードを上げる。
それが、時速6キロメートルらしい。
普通は、夜の間しっかり休んだ馬は、元気よく、それでいて疲れない速度、時速5キロ超で走り出し、時間が経つにつれ徐々に鈍くなり、馬速を回復させる為に休憩させる。
ここ重要。
我々が昼食を食べる為に休憩する訳ではない。
だから、元々昼食をとる習慣が曖昧な彼らは、食べない時もある。
で、、、、
何が言いたいかと言うと、
現代社会で過ごしてきた僕としては、気が狂うほどストレスが溜まるのです。
うん、ホントに。
悪夢です。
感覚を戦車に向ければ、戦車自身が僕です。
で、永遠、ノロノロ、ノロノロ。
時速5キロって、上り坂でも結構勾配きつくなければ、そこまで落ちません。
実際の戦車の機動力は知らないけどね、ゲームの感覚をそのままで移動してるから、そうなるんです。
最初は、同行と言う事で、馬車の横を並走しようと努力しました。
1時間で退屈になり、2時間目で、イライラが募り、3時間目で、空吹かし急発進、急ブレーキを繰り返し、4時間目に、隊長さんが野営地への到着を告げた時は、銃口が馬車と騎馬隊に向いていました。
真っ青な隊長さんに、いや、その先に真っ白なウサギが見えたので、つい、砲塔に付いている遠くを見る魔導具で、ウサギを見ていたら、そちらを見ていましたと誤魔化したけど、、、ちゃんと誤魔化せたよね?
次からは、戦車から意識を外し、戦車の操縦は、運転手に任せようかな?
このままでは、ストレスで、とんでもない事が起きる気がする。
その後、野営と言う事で、車体後部に乗せているテントや何やらを準備し、アイントプフの缶詰や塩パン、ビールを取り出す。
うちの兵士共は手慣れた様子で、缶詰の上蓋を、野戦用食器のケースを兼ねている缶切りで開けている。
で、軍用オイルライターで、紙に火をつけ、燃えやすそうな枯草から小枝へと順に火を大きくしていく。
と、気が付いたら、目を見開いて、じっと火を見つめている騎士隊長殿が居た。




