夢の始まり(4)
蜥蜴人のハルカと別れてから十数分後。先ほどの会話を思い出して気になる単語をスノーに聞くため、周りに魔族の影がないか厳密に見渡す。気になる事をそのままにしておくのは気持ちが悪いし、何事も余裕のある時に終わらせないと、いざって時に後悔してからだと遅いからね。
一通り辺りを見渡して誰もいないのを確認し、腕の中で丸くなっているスノーに視線を移す。どうも小休憩の時にした水浴びが大満足だったのか、スノーのご機嫌は目に見えるほど上々である。
仮にも魔王様に機嫌の有無を悟られるのは、【魔王の側近】としていかがな物かと思うが、そこに水を差すほど俺も自惚れてはいない。機嫌が良いのならそれでいいではないか。
「なぁスノー? さっきのハルカさんとの会話だけど、魔力不適合者って魔力値が無い魔族の事を言うのか?」
「魔力値……ですか? それは何ですか?」
「ほら、頭の上に二つのゲージが表示されているだろ? そのゲージって体力値と魔力値の残力じゃないのか?」
「頭の上に、ですか? ……おっしゃる意味が私には分かりかねますが、魔王様には頭に何かが見えているのですか?」
なるほど。俺のスキル【常時詳細確認】は体力値と魔力値も中に含まれているようだ。そうなるとこの世界には【常時詳細確認】のスキル認識は浸透していないのだろうか?
どうでもいいが、こちらを見上げるスノーの姿は中々に愛らしい。ついつい親指で腹部を撫でては、うっとりする表情を求めてしまう。そうなると考えたくもないが、お決まりのヒロインのポジションはスノーが獲得しているのか? それは非常に複雑な気持ちなので、目的地についたらヒロインの捜索を行うとしよう。
「……それなら質問を変えるね。【常時詳細確認】ってスキルは知っている?」
「あっ、それならお答えできます! 聖者様になるために必要なスキルと言われています。詳しい事は書物に記されているので、また後日にでも――って、もしかして魔王様は【詳細確認】のスキルを所持しているのですか?」
「一応は持っているけど、珍しいスキルなのか?」
「確かに珍しいのですが、そこまで珍しくはありません。神様の導きなのでしょうか、それとも偶然なのでしょうか。理由は定かではありませんが、どれだけ小さな集落でも必ずスキルを所持している者がおります」
それほど珍しいスキルでないのは残念だが、それよりスノーは【詳細確認】と言った。それはただの言い間違えなのだろうか? それとも【詳細確認】と呼ぶことが広まっているのだろうか? もしくは【常時詳細確認】の劣化版が広がっているだけ――深く考えても想像でしかないので仕方がない。ここはスノーの書物を頼りにした方が速そうだ。
「……後日でいいからスキルの書物を探してもらってもいいかな?」
「はい! ……ですが、目的地に書物が無い場合は取り寄せる必要があります。かなりのお時間を頂戴いたしますが、よろしいでしょうか?」
「あっ、うん。大丈夫だよ。今すぐに見たい訳じゃないからね。……話を戻すけど、結局のところ魔力不適合者って何かな?」
「そうでしたね。簡単に説明しますと、魔力を持たない者の事を差します。そもそも魔力とは魔族特融のエネルギーです。そのため生活でも魔力を活用しております。そのため我ら魔族には必要不可欠なエネルギーなのですが、極々稀に魔力を所持しない者が生まれます。そのような者を魔力不適合者と呼ぶのですが、戦争が始まる前はそれだけの存在でした。ですが今は魔力を持たないだけで人間族と同じで、同族の恥晒しだと非難されます」
「……時代が生んだ被害者って訳か。魔力不適合者については理解したけど、それと『新しい魔王様の情報』を知らないのは関係があるのか?」
「私たち魔族には人間族の様に技術力はありません。あるのは魔力をコントロールする力と、それらを放出する術――つまり魔法とスキルの二つがあります。そもそも魔力とは大気中に、それこそ世界中に流れています。その中でも魔界の魔力は密度が非常に濃く、人間族の大陸では密度がやや落ちます。それを取り入れる質量は個人によって変化があり、それを【詳細確認】で数値化したものが魔法力となります。そして本題に入りますが、我ら魔族の伝達方法は主に『大気中の魔力』を使用して行います。大気中の魔力を取り入れる事の逆、つまり内なる魔力に言葉を込めて大気中に放出します。それが大気中の魔力と融和し、そのまま世界中に伝達が拡散します。それを体内に取り込むことで伝達が個人に伝わります。ですが魔力不適合者には魔力を所持せず、そして魔力を取り込む事ができません。そのため魔力不適合者や魔力を持たない人間族には伝達が伝わる事がありません。魔族特融の通信手段だと思って下さい」
つまり魔力不適合者であるかどうかは、俺の予想通り魔力値によって判断がつく訳だ。もしくは魔法力の値でも把握できるだろう。
ただ一つだけ引っかかる部分がある。『人間族の様に技術力』の部分である。王都での戦闘で見かけたミサイル一つでも、その技術力は最低でも現実世界と変わらない。だがそれはあくまで最低であり、実際は現実世界では足元にも及ばない文明力を持っている可能性も否定できない。そこから派生して『大気中の魔力を具現化』する技術も持ち得ている可能性もある訳だ。それが可能であれば魔族の情報は筒抜けとなり、情報戦は魔族の惨敗、つまりは戦争自体が出来レースとして完成している事になる。
全ては人間族の技術力に左右されるのだが、果たして魔族――もとい魔王軍と人間族との間にどれほどの戦力差があれば惨敗を繰り返すのだろうか? そこに召喚された俺は魔王軍を率いた所で負け戦に変わりないと思う。一介のサラリーマンが魔界を救えるほど優秀ではないし、そもそも魔王としての能力値も底辺の俺に戦況を変える力もない。ますます難易度が高いような様な気がしてきた。
「なるほど……。後はレベルに関してだけど、レベルアップにはどうすればいいのかな?」
「日常で生活する中で上がりますし、軍事訓練をすれば格段に速く上がっていきます。ただ個人差にもよりますが、それらだけでは二十レベル前後が限界だとも言われています。それで満足いかないのでしたら実践、つまり人間族を狩るのが一番でしょう」
「いやいや、流石に人殺しはちょっと……。他には?」
「ありません」
「ほら、モンスターとかいないの?」
「いますけど、魔王様は同志を狩るのですか? それはつまり身内を殺めるのと同義となりますが……。そもそも人間族を狩るのに何を躊躇しているのですか? 奴らは我らの敵であり、殺戮された同志の仇ですよ? 人間族風情など魔王様の敵ではありませんよ!」
なにそれ手詰まりですけど。確かにこの世界では俺は魔王だが、それ以前に俺は人間だ。流石に普段見慣れた人間を無感情で殺める事はできない。甘い考えなのは重々承知だが、それでも厳しいものは厳しい。まぁ魔王となって魔王軍を指揮し、人間族を撃退すれば間接的には同じ意味合いになるけども。
それはそうと、今のスノーの言い方だと現実世界の俺が人間族だと知らないのか? 魔王を召喚したと言っていたが、それがランダムで選ばれた結果、たまたま偶然にも人間族の俺がヒットした可能性もなしにはあらず。
つまり俺が『あっ、現実世界では人間族でサラリーマンやっています』とかカミングアウトしたら凶変したりしないよな? スノーの見た目からそれは有り得ないかも。きっと快く『ですが今は魔王様であり、我らの希望の星です』とか言ってくれるに違いない。と、言う訳で後々公表して問題になるより、安パイであるスノーに実験の意味を込めてカミングアウトしてみよう。
「……あのな、今まで言ってなかったけど、実は現実世界の俺って人間族で――」
その後の言葉は続かなかった。
なぜかって? だってスノーが俺の腕から飛び出し、羽毛を逆立てて威嚇しているからだ。その姿は先ほどまでの愛らしいスノーではなく、今は仇敵を目の前に勇敢に立ち向かう戦士の様な姿である。
この誤算を打破するためにも「――って冗談に決まっているだろ? 魔王様が人間族とかあり得ないだろ?」と、嘘を並べて苦笑いする。
それが正解だったのかスノーは威嚇を解き、再びストンと腕の中に居場所を確保し、愛らしいつぶらな瞳で俺を見上げてくる。
「もう、ご冗談が過ぎますよ! 魔王様が人間族風情な訳がありません! 魔王様こそが我らの希望の星なのですから!」
「……」
本日の教訓『想像以上に魔族は人間族を憎んでいる』。実績を残して厚い信頼を獲得してから、笑い話程度でカミングアウトしよう。そうじゃなきゃ魔王なのに路頭に迷うからね。
「な、なら仮に人間族だったとしたらどうする?」
「決まっています。情報を得るために拷問を繰り返し、それが済みますと処刑に移ります。生首は人間族に見せしめとして前線に移動されるでしょう。これが戦争前なら手厚い保護のもと、丁重に人間族の大陸までお送りするのですが、そのような時代は戦争と共に終わりました」
「それが召喚した魔王でも?」
「当たり前です。魔王様とはいえ中身が人間族であるなら、欲の前には下劣に走り、我らを裏切るかもしれません。それほど我らを踏みにじったのが人間族です。その溝は魔王様でも埋める事はできません」
人間族に対する悪意は俺が思うほど生易しいものではなかった。実績やら厚い信頼があろうとも、今後はカミングアウトこそ死に直結すると肝に銘じよう。
ただ、それほど憎まれる人間族は果たして何をしでかしたのだろうか? よっぽど人の外れた行為をしなければ、スノーがこれほど悪態をつくとは思えない。
そうなると俺のスキルである【擬人化】は安易に魔族の前では使えそうにない。スキル使用中に魔族と出会う度に説明などできないし、説明の前に背後から刺される可能性もある。目的地についたら性能の実験――もといスキルに対する興味から使ってみたかったが、それをする時間はなさそうだ。やるなら今しかない。
「……なるほど、な。ところで話は変わるけど、スキルに【擬人化】ってものがあって、他の魔族に一々説明するのも面倒だし今から試してみてもいいかな?」
「【擬人化】ですか? 初めて聞くスキルですね。名前の通り人間族に化けると思いますが、果たしてそれの使い道はあるのですか?」
「そうだな……。例えば、人間族の諜報活動とかに役立てる」
「それは無理です。魔王軍の長を危険に晒すような行為を認めるとでも? そもそもスキルと言いましても、魔王様が思うほど万能ではありません。スキルは色々な種類があり、【擬人化】スキルは擬態系統に入ると思います。その手のスキルは魔力の流れに長けた魔族すらも欺くほど優秀です。ですが一つだけ覚えといて下さい。便利や優秀であるスキルほど、それに比例して魔力の消費も激しくなります。十レベルでも数分程度。先の王都戦で故人となりましたが、エルフの彼らでさえ一時間が限界と言われています。更に付け加えますと、スキルの使用時は魔法を一切使う事はできませんので気を付けて下さい」
「そうそう、さっきから疑問に思っていたけど、スキルと魔法って別物なのか?」
「はい、全く違います。スキルとは『生まれつきの才能』に対して、魔法は『誰にでも習得できるかも! しれない技術』です。スキルも魔法も同じ魔力を使う点では似たような物ですが」
「そうなるとスキルは増えないってことなのか? 後、どうして魔法は『かも!』なの?」
「いえ、スキルとは己の向上と共に開花していくものです。今は少ないかもしれませんが、人間族を狩ることによって格段に増えていきます。魔法に関しては個人との相性がありますので、長年にわたり修練を積み重ねて習得する場合もあれば、短時間で易々と習得する場合もあります。とは言いましても、魔法の習得には膨大な時間と知識、更にはその間を生活するだけの財力が必要不可欠となります。魔法を極めようとする魔族は過去に幾らかいましたが、決まって『時間、知識、財力』のどれかに限界を迎え、今では軽率な行為だったと過去を悔やんでいるでしょう。そのため魔界では『魔法よりスキル』、『魔法を学ぶより、己の向上に精を出す』そのような考えが一般的とも言えます」
「なるほどね。自分の安全のためにもレベルアップは必要不可欠って事か……」
それはつまり人を残虐しなければいけなくて、考えただけでも気が滅入りそうだ。それどころか一人を殺めれば確実に病む。多少とはいえ社会の荒波に揉まれて鍛えられたメンタルだが、内面は根っからの平和ぼけした日本人である。何も気にしないで普段の暮らしを送れる自信はまるでない。
これは本格的に夢であって欲しいと思ってきた。魔王としてではなく、勇者として歓迎された方が……いや、それは違うな。見た目が人間族か魔族かの違いで、やる事は全く同じだ。その考えは魔族を冒涜するのと同じ意味な訳だし。
ならばここで逃げ出して――それこそムリゲーだよな。この世界に対して無知な以前に、戦時中のいま逃げ出した所で俺自身の身が危うい。そもそもこの世界で俺が死んだらどうなる? 現実世界で目が覚めるのか? それとも現実世界でも同じように……。
泥沼化する思考に頭を振り、後々の事も大切だが取り敢えずは今を考える事にした。まずはファンタジー世界を堪能しなければ勿体ない。確実な現実逃避な訳だが。
「と、取り敢えず! まずはスキルを使ってみたい! どうやって使うのかな?」
「簡単です。頭の中でスキルの名前を唱えればいいだけですよ」
「了解!」
それでは早速、頭の中で【擬人化】と唱える。
が、何の変哲もない。体に何かしらの変化も、魔力が減った実感も、全く何もない。試しに詳細ステータスを確認したところ、一応は発動しているのかスキル欄には【擬人化】の文字は輝き、それ以外のスキルは文字が暗くなっている。
ちなみに魔力値は全て消化し、すっからかんの状態である。俺の魔力値の強要範囲、それがレベルアップと共にスキルが増える発生条件なのだろうか?
「どうかな? 人間族になっ――」
答えを聞くまでもなかった。
だってスノーが俺の腕から飛び出し、再び羽毛を逆立てて威嚇しているからだ。スキルの前振りをしたにも関わらず、それほど敵意を剥き出しにするのは、半ば条件反射に似ているかもしれない。
「おのれぇ、この薄汚い人間族! 我らの魔王様をどこにやった!」
「いや、目の前に……」
「嘘をつくな! 気高き魔王様が人間族な訳がない!」
「ちょっと落ち着いてよ、スノー。ほら【擬人化】のスキルだって」
「人間風情が私の名を易々と口にするな! 汚らわしい! まぁいい、その言葉が本当なら数分、いや一分もしない内にスキルが解ける。それで真偽を確かめたのち、嘘なら貴様を拘束し拷問にかける!」
「わ、分かった。分かったから落ち着いてくれ」
――一分後。
「やはり人間族は嘘つきで卑劣な種族だ! この場で処分してくれる!」
「待ってくれ! 本当に俺は魔王だって! 頼むから信じて、あと五分だけ待ってくれ!」
「ふん。命乞いも過度を過ぎれば惨めだと知らないようだな。……まぁいい。慈悲深い私は五分だけ待ってみる」
「ありがとう、スノー」
「気安く私の名前を口にするな! ……あぁ魔王様。私をこれほど心配させて、いったい何処に? あぁ魔王様、罪なお、か、た……」
――五分後。
俺は来た道を全力で引き返していた。どういう訳かスキルが解けず、当初の『拘束』もどこにいったのやら、今はスノーが口から火を噴きながら俺を追いかける。
果たしてスノーの攻撃はスキルなのか魔法なのか分からないが、何はともあれ一レベルで非武装の俺には耐えられそうにない。逃げている間にスキルが解ける事を願うだけだった。
「しねぇい! この薄汚い人間族!」
「頼むから信じてくれよ!」
「命乞いとはいえ、魔王様を語るとは万死に値する! 今すぐ立ち止まってこんがり焼かれなさい!」
「もう、この世界ヤダー!」
全力で走り続けて三十分ほど。現実世界とは格段に上がったスタミナも流石に切れ、肩で息をしながら木によしかかる。
スノーはというと、だいぶ前に「待ちなさい! 逃げても無駄ですよ!」と威勢は良いのだが、疲れ果てたようで姿は見えなくなった。
流石にもうスキルは解けたはずと詳細ステータスを確認するが、どういう訳かスキル欄を見る限り【擬人化】状態は続いているようだ。
先ほどの説明通りなら『十レベルでも数分程度』のはずだが、理由は分からないが四十分は継続して使用している。それと同時に不可解な点が一つ。スノーは他にも『魔力の消費も激しくなります』と言っていた。消費が激しいとはつまり、俺がスキルを発動した時は『全体の魔力値から必要分が消失』したが、スノーの常識では『残りの魔力値から徐々に減る』のではないだろうか? それだど『十レベルでも数分程度』の説明に納得がいく。つまるところ、俺の【擬人化】スキルは時間制ではない事になる。その証拠に魔力値も四十分程度で五割ほど回復している。
「……だとしたら解除方法は?」
試しに思いつく方法をいくつか試してみた。心の中で【擬人化】解除と唱えてみたり、再び【擬人化】のスキルを使ってみたり、だがどれも効果はなかった。まぁ後者に関しては魔力値が不足しているため、こればかりは魔力値が満タンにならない限り確かな確証は得られないのだが。
取り敢えずは確かな確証を得るため、魔力値が満タンになるまで待つしかないのだが、それと同時進行している問題の方が実は大きい。
それはスノーの事だ。逃げるにしても説得するにしてもスキルを解除するにしても、どうするにしても俺が魔王の姿に戻るまで、この付近にスノーが居てくれないと本格的に詰んでしまう。
スノーが目指していた目的地にしても、次の魔法陣の場所にしても、俺は何一つとして知らないからだ。つまりスノーが居なくなるイコール、見つけ出してくれるまで俺は路頭に迷う事になる。しかも常識も何も知らない状態で、だ。
それで生き残れるほど全ての日本人にサバイバル術が備わっていない。
「まっ、いざとなれば現実世界に戻ってネットで知識を得る方法も――」
と、簡単に言ったが、果たしてどのタイミングで現実世界に戻れるのだろうか? 前回は気を失って夢から覚めたが、その方法でしか覚めないのなら問題は大きい。戻るためにわざわざ自分を痛めるのは気が引ける。それどころか二十歳を過ぎて黒歴史を作るとなれば、心理的ダメージは計り知れない。下手をすれば仕事を辞めて引きこもる可能性もなしにはあらず。
「これは本格的に不味いような……」
考えれば考えるほど背中に冷や汗が流れる。
それにしても俺が【擬人化】スキルを使用すると知っておりながら、あれほど怒り狂うスノーはいかがなものだろうか? スノーが人間族に何をされ、どのような傷を心に負ったのかは聞くつもりもないが、スキルを使う度にスノーが暴走するようだと【擬人化】スキルの持ち腐れである。
その問題はおいおい解決するとして、今をどう切り抜けるか考え込む。
「そうだなぁ~……。まっ、何とかなると信じて、取り敢えずはスノーを見つけ出すか」
「その必要はない! やっと見つけた人間族! さっさとくたばりなさい!」
俺が考え込んでいる間に距離を詰めてきたスノーは、息を荒げながらも威嚇の姿勢は崩さず俺を睨みつける。
都合よく俺の方でも案がまとまったため、これは逆に好都合ともいえる。
案といっても実に簡単な事で、まずはスノーを発見して降参を表す。そのまま捕虜として目的地に向かい、魔力値が満タンになり次第【擬人化】スキルを発動。それでスキルが解除されれば御の字、解除されなくても目的地に【詳細確認】のスキルを持っている魔族に鑑定してもらう。それで危機は脱するかもしれない。
「参りました! もう逃げないから捕虜にして下さい!」
と、いう訳で俺は地面に膝をつき、両手を上げて降参する。
さすがのスノーでも降参相手に『しねぇい』とか言って問答無用に攻撃してこないだろう。現に「降参……ですか。ん~、そうですねぇ~」と声音も落ち着き、攻撃をしかけてくる気配はなさそうだ。
咄嗟に考えた案だが、案外上手くいきそうで俺の口元は自然ににやつく。
「……人間族は嘘つき! 捕虜にしても害しかない!」
果たして口元のにやけが原因なのかは分からないが、次の瞬間には顎に衝撃を受け、勢いよく持ち上がった頭部は後方の木に激突し、そのまま俺の意識は閉ざされた。
意識を失う前に見たスノーの表情は、どこか誇らしげだった。
ここまで見ていただきありがとうございました。
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以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。
予約間違いがなければ21時に更新となります。
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