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序章

 ――夢。

 まず初めに夢の中の自分とはどのような存在だろうか?

 知らない土地や知らない友人、そんな知らない人達と他愛もない日常を繰り広げる世界?

 それとも現実では到底起こり得ない現象が再現される世界?

 はたまた周囲の老若男女からちやほやされる世界?

 もしくは自分が魔王となって世界を統一する世界?

 とは言っても、仮に全てが正解だったとしてもそれは夢で、いつかは夢から覚めるから対して問題ではないだろう。

 それはそうと、夢を見る中で『あぁ、これは夢だな』と自覚する事はないだろうか? あまりにも現実から離れ、だけども現実の様にリアリティーな世界。


 例えるなら――まさに今の状況なのだが、奥行五十メートル、横行三十メートルの長方形の部屋の上座、いかにも王様が座る様な椅子に俺が座っている。背もたれが長く金や宝石で飾られ、それでいて繊細な作りをした椅子。その椅子から奥の扉まで赤い絨毯が続き、椅子から数メートル先には五体の生物が伏せたり片膝をついたり、それぞれやり方は違うが一堂に頭は下げている。それだけでもファンタジーな夢の空間なのだが、その五体の生物がより一層に現実離れさせ、そして夢だと自覚させてくれた。

 五体ともその場に伏せる者や片膝をついているため、それぞれの表情は見えないのだが、姿形(すがたかたち)だけでも説明しよう。それはそうと夢の世界だけあって中々に親切設計となっている。それぞれの頭の上には二つのバーが表示されている。テレビゲームのロールプレイングなどではお馴染みの、体力値(ヒットポイント)魔力値(マジックポイント)だと思われる。更には個人を意識すれば詳細ステータス――種族や現在の状態、スキルや称号、名前や性別、後はレベルや各種パラメーターが事細かに表示される。これがゲームの世界なら中々にベリーイージーモードだろう。


 まずは向かって右から説明しよう。名前はショウグンで性別はオス、種族は昆虫族のレベルは七十五。スキルと称号は省略し、各種パラメーターでは攻撃力と防御力が優れ、それ以外はやや低めの設定となっている。見た目はカマキリみたいだが全体的に線は太く、それでいて中世ヨーロッパを沸騰とさせる鎧を着こんでいる。ちなみにカマキリ同様で前脚は鎌状になっている。


 隣に移り名前はドルガで性別はオス、種族は鳥獣族のレベル八十。各種パラメーターでは全体的に均等で、尖った部分の無い無難な設定となっている。見た目はまんま空想上の生き物であるグリフォン。上半身は鷹で下半身はライオンとなっている。


 その隣は兄妹なのだろうか? 種族は共に妖精族で名前はナナとラクス。性別はナナがメスでラクスがオスとなり、共にレベルは七十で各種パラメーターも魔法力が特化している。見た目は金髪のロングヘア―と、普通の人間なのだが耳が異常に尖り、これは俗にいうエルフなのだろう。


 最後の五体目の名前はスルトで性別はオス、種族は爬虫類族のレベルは七十二。各種パラメーターでは防御力と俊敏性に特化し、その代わりに攻撃力がやや低めとなっている。さすがは爬虫類といったところだろう。見た目は火トカゲ、サラマンダーを沸騰させる。全身は鱗に覆われ、背中は火がゆらゆらと燃え広がっている。ただ火が絨毯に燃え移ったりしていない。ただ静かに燃えているだけで、特に害がある訳ではないみたいだ。後は見た目がサンショウウオなだけに、二足歩行で片膝をついている姿は少しシュールだ。


「我らが主、魔王様。この度は我らを導くため、そして魔王軍の勝利のため、異界の地よりお越しいただき誠にありがとうございます」


 突然耳元で喋りかけられ、俺は驚きのあまりにビクッと体を震わせる。

 声のする方を振り向けば、そこには体長二十センチほどの大きさで、全体的に丸く茶色い羽毛に包まれた鳥がいた。黄色い口ばし、くりっとしたつぶらな瞳、小さい翼、黄色い蹼足(ぼくそく)の足、気持ち程度の尻尾。それだけなら小型の鳥なのだが、小さい翼とは別に背中には小さな()が生えている。

 取り敢えず、このヘンテコな生物のステータスの確認をしてみる。名前はスノーで性別はメス、種族は妖精族のレベルは八。全体的に各種パラメーターは低く、それでいてスキルも数えるほどしかない。ただ称号の欄には【魔王の側近】と表示され、見かけによらず中々の優待者だった。鳥が側近なのは仕事に差し支えないか心配ではあるが。


「魔王様?」


 スノーの詳細をチェックして何も喋らない俺を不思議に思ったのか、小さい羽を懸命にパタパタ羽ばたかせて目の前に移動する。

 俺が右を向けばスノーも目の前に移動し、俺が左を向けばスノーもまた目の前に移動する。何気ない確認で『魔王様イコール俺』が確定した瞬間であった。

 流石は夢である。最初から魔王なのは夢だけに与えられた特権だろう。できれば夢の世界ぐらいハーレムを演出したかったが、目の前の生物を見る限りでは期待が持てそうにない。夢なのに夢がない部分は実に残念である。


「……夢で魔王様ねぇ~。魔王の願望でもあったかと思うと、自分の事だけに何だか嫌な気分だな」


 そんな事をボヤキながら、目の前でパタパタ飛んでいるスノーを捕まえる。

 意外にもプニプニして触り心地と毛並みは良好。飾りの小さい翼を広げてみたり、持ち上げて下から覗いてみたり、頭をコリコリと撫でてみたりしてみる。見た目は摩訶不思議なヘンテコ生物だが、アクションを起こすごとに「あわわわわ」やら「い、いけません!」やら「とても気持ちいですぅ~」などと見かけによらず可愛い反応をする。うん、いい感じに可愛くて癖になりそう。

 そんな反応だけでも満足だが、最後に優しく抱きしめる。別に可愛い物に目がなく、自室にぬいぐるみを集める乙女な趣味がある訳ではない。ただ何となく、一時の気の迷いで抱きしめただけで深い意味は特にない。

 言い訳もこの辺にして、胸の中で暴れるスノーを解放する。もう少し堪能したかったが、夢とはいえ無理強いはよくないからね。それに口ばしが胸に食い込んで痛い(・・)し。


「……ん? 夢なのに痛覚があるのか? ん? んん?」


 今までに感じた事のない出来事に困惑するが、痛い事実は覆らない。それならそれを受け入れる他ないだろう。『夢だから仕方がない』そんな魔法みたいな言葉で取り敢えずは納得する。それに夢を深く考えても仕方ないしね。


 このままボケーっと座っているより、せっかくの夢なのだから行動あるのみ。そう思うと行動は早かった。

 再びスノーを捕まえ――今回は向きに気を付けて顔を前に向かせて、両腕をお椀のようにしてスノーを包む。


「ま、魔王様! 我らの話を聞いて下さい!」

「はいはい、後でね」

「魔王様!」


 軽い返事にスノーが声を荒げるが、それを無視して椅子から立ち上がる。

 それはそうと、いつまで向かいの五体は平伏(ひれふ)しているのだろうか? 駄目もとで「えっと……楽にしてね?」と伝えてみたところ、その言葉が正解だったようで一堂に「は!」と声をそろえて立ち上がる。

 人間に近いエルフが喋れるのは当たり前として、それ以外のカマキリとグリフォンとサンショウウオが普通に話せる事に違和感を覚えたが、ここは魔法の言葉『夢だから仕方がない』で片づける。


 スノーを抱きかかえたまま取り敢えず、外の景色を見るために窓に近寄る。そこからの景色に俺は「へぇ~」と自然に声が漏れた。

 そもそも現在俺がいる場所――ここは城であった。その証拠に窓から見える景色の中には、張り出し櫓(はりだしやぐら)や跳ね橋型のゲートハウスが見えた。城自体が高台に建てられているのか、その奥に広がる城下町は緩い下り坂の元に造られていた。


 そんな時だった。

 何かが城下町に降り注ぐ。遠目なため降り注ぐ何かがはっきりとは分からないが、それでも一つや二つではない事は確かだ。あまりにもあっという間の出来事に認識はできないが、ざっくりと数十はあるだろう。


 ――そのような事を思っている刹那、城下町は一瞬として地獄となった。


 轟音(ごうおん)と共に爆発が起き、それを皮切りに次々に降り注いだ何かが爆発を起こす。

 城壁が崩れ、町並みは破壊され、辺りから火災が灯され、そして衝撃から城が揺れる。数秒前までの城下町が瞬く間に見るも無残な姿に変わり、その光景に俺は何も言葉を発する事ができず、ただただ硬直してその光景を見ていた。


 遠くの方で「魔王様!」と聞こえるが、俺の思考はそれどころではなかった。目の前の光景に脳が麻痺し、そして城に近づく何かをただジッと見つめていた。

 そして理解し俺は呟く「あぁ、ミサイルか」と。


 次の瞬間にはミサイルが目と鼻の先にある張り出し櫓(はりだしやぐら)に直撃し、轟音と共に砕け散る。爆風と砕け散った破片が俺の――この部屋を襲った。

 ガラスを破り、それに続いて生暖かい風が衝撃波として全身に襲い、数メートル先の椅子まで俺は飛ばされた。


 そこで魔王となった俺――前田健太郎(まえだけんたろう)意識(・・)を失った。

ここまで見ていただきありがとうございました。

甘口から辛口の感想やご意見、お気軽に下さると嬉しいです。


以前の執筆した作品なので当分は毎日投稿となります。

予約間違いがなければ21時に更新となります。

よろしくお願いします。

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