女子グループで引き立て役やってます。
ちょっと長めですが、最後まで見てくれると嬉しいです。
よければ、感想ください。
「鶴美ちゃんって普通だよね」
鶴美という少女は、よくそう言われてきた。
凡庸であり、決して悪いとは言えないが、自分よりワンランク下であり、頭が少し悪くて人畜無害…。
ようは引き立て役にされやすい子なのであった。
「鶴美って、普通だよね」
ある日、4~5人で集まっているグループの中で女子がそういった。
彼女たちは、所謂イケている女子であり、クラスでのカーストは上位である。
「ぇえ~そうかな~?」
派手なグループの中で唯一素朴な鶴美はニコニコと笑った。
「ほんと、普通っていうか~何かちょっとぶりっ子してるのも普通みたいな?」
そういって、周りの女子たちはクスクスと笑った。
「確かに~みんなは~サバサバしてて格好いいよね~」
しかし、そんな嘲笑も只の笑みだと思っている鶴美はニコニコと彼女たちを引き立てる言葉を無意識にいった。
「えぇ?そうかな?」
「まぁ、鶴美みたいにぶりっ子ではない?みたいな?」
彼女たちは満更でもない顔で否定しつつ、教室の中心で自分の魅力を鶴美という少女を踏み台にすることで惹き立てていた。
「鶴美ってマジぶりっ子だよね…ププ…まぁそこがいいんだけどさ」
鶴美を褒めるようで貶しながら、また少女達は笑い話のようにして笑った。
鶴美という存在は自分達を引き立てる為にあった。
顔は自分達のレベルを下げない程度には整っているが驚異にはならない容姿。
性格もよく言えば純粋、悪く言えばバカだ。引き立て役にされてるなど思いもしないだろう。
「鶴美ちゃんは普通のままが一番だよ!男にモテなくても、バカでもさ」
「うんうん、無害で普通なのが一番だよ」
そういった彼女たちの目には明らかな見下しがあった。
「えへへ~そっか~」
しかし鶴美にそれは分からなかった。
単純に褒められたことが嬉しく、モキュモキュとメロンパンを呑気に食べてるのであった。
「……ッププ!!」
「そうそう、それがいいよ」
そういって、彼女たちは今日も鶴美を笑う。
そして鶴美もニコニコとお日様のように微笑むのであった。
ある日、鶴美はもうすぐ試験があるので、ファミレスで幼馴染みと一緒に勉強会をすることとなった。
鶴美は成績があまりよろしい為に、半べそをかきながら参考書へと向かっている。
「どうしよ~赤点取っちゃうよ~」
「授業中ずっとメロンパン食ってるからだろうが……」
呆れながらも、教えるのは幼馴染みの佐吉であった。
彼は鶴美と産まれた頃からよく一緒にいる少年であり、彼女持ちではあるが、頭の弱い鶴美を心配してはよく世話をやいている。
「メロンパンに参考書をペタッと付けて食べれば……」
「どこの猫型ロボットの秘密道具だ」
メロンパンをみつめてそんな事を呟き始めた鶴美の頭をポンと叩いて呆れたようにそういった。
「あ、もうすぐ塾だ……俺はもう行くけどお前は?」
「ん~?ここでご飯食べるよ~」
「おっけ、分かった」
そういって、佐吉は鞄を取り出してテーブルから離れていった。
それを見送った後、鶴美がまったりポヤポヤとポーッとしていると後ろから肩を叩かれた。
「よ!鶴美」
「わ、麗香ちゃん~」
彼女の名前は麗香といい、椿が所属しているグループのリーダー格である。
ピンクアッシュの髪に、少し派手さを加えたメイクが特徴の女の子である。
「さっきの男の子って佐吉だよね……え、付き合ってんの?」
目をスッと尖らせて声を低くした麗香であったが、鶴美は気づいてないらしくポヤポヤと言った。
「ううん~付き合ってないよぉ~」
「ップ!……だよね!鶴美に彼氏とか出来る筈ないよね!あ、こっちは私の彼氏の慎二」
そういって紹介したのは、金髪に青いピアスをつけた端整な顔立ちの美青年であり、雑誌とかでよく見かける人物であった。
「あぁ~モデルの~」
そう鶴美が指摘すると、麗香なニヤァッと嬉しそうな笑みを浮かべた。
「あ、分かっちゃった?そう、私の彼氏ってモデルやってんだよね~……あ、こっちは鶴美。私の友達」
「へ~可愛いね」
慎二は思わず鶴美を見てそう評したが、麗華はえぇ~?と反応を示し、自分の友達として紹介したのだから、お世辞だろうと解釈した。
「まぁね!普通に可愛いよね~ちょっとブスだけどさ……ップ!」
麗香は吹き出すように鶴美を見て笑った。
麗香のグループでは鶴美は唯一垢抜けていないタイプの子であり、少し地味である。決して容姿が悪くないので、麗香にとってはいい引き立て役となるのであった。
「そうかな~?私結構モテるから可愛い方だと思ってたのにな~」
「ほら!聞いた!?超自意識過剰!!めっちゃ過剰!!よくある思春期!!まぁ冗談だとは思うけど、それを引き抜いても超痛いよね~。」
「お前……」
鶴美を嘲笑する麗香を慎二は少し引いた目で見るが、麗香はそれに気づかずに鶴美を見ては、また吹き出すように笑った。
「まぁ、私は自分でモテるって思わないけどね」
「麗香ちゃんは~意識しないでもモテるもんね~」
お世辞やおべっかではなく、純粋に麗香が可愛いと思っている鶴美はニコニコとそういった。
「えぇ~?そんなことないよ」
と、いいながらも麗香の表情は『よく言った。もっと誉めろ』と訴えている。
「ってか、ファミレスで何やってたの?」
「ん~?勉強会ぃ~」
その言葉を聞いてまた麗香は吹き出した。
「ップハ!勉強……ッププ……鶴美ってバカだもんね~?地味なのにバカだったら……本当に取り柄無いし……アハハ」
「おい、やめとけよ」
見かねた慎二が止めに入るが、鶴美は何も気にしてない為にニコニコと笑い、麗香もそんな鶴美をみて大丈夫だと確信していた。
「あぁ、ごめんね私って毒舌キャラだからさ。正直なんだよ」
「そういう所~格好いいよね~何もしなくても頭いいし~」
その言葉にまた麗華はキャハハッと気分よく笑って、それでも否定のポーズだけはとろうとする。
「ええ?そんなことないしぃ……って、笑いすぎてアイメイク落ちちゃったや。ちょっとトイレ言ってくる。」
そういって、麗華はトイレの方へと行った。
残ったのは、慎二と鶴美だけである。
「なんか、ごめん、あんな嫌な性格だと思わなかった」
気まずそうに慎二はそういったが、何も気にしていない鶴美はニコニコとお日様のように微笑む。
「え~?そうですか~?私みたいなのにもよくしてくれる、綺麗な人ですよぉ~」
「おまえ…いい子なんだな」
「それよりも~慎二さん隈が酷いですけど大丈夫ですか~ちゃんと寝れてますか~?モデルの仕事は大変そうですね~」
よしよしと、鶴美はポヤポヤとした笑顔を出しながら慎二の頭を撫でた。
「…!?」
その笑みは心癒されるものであり、ゆったりとした言葉も合間って、疲れきって固まった心を溶かしていく。
お日様のような笑み、暖かく優しい言葉、素でおっとりとした性格は人を惹きつけるのに充分すぎた。
「これ、俺の連絡先…よかったら…何か奢るし、今度一緒に食わねえ?」
「いいですよ~ありがとうございます~」
スマホの機能を使い、連絡先を送ってもらいながら鶴美はポヤポヤ笑顔を出しながら思った。
「……(今回で4人目~)」
鶴美はよくグループの子らに彼氏を紹介される。
勿論、鶴美はその彼氏に色目を使ったことはないし、寧ろ彼女たちを無自覚ながらも持ち上げているし、彼女たちは鶴美というワンランク下の女子を使い、踏み台にしたり引き立て役にして自分の魅力を出している。
にも、関わらず。
鶴美はよくその彼氏に連絡先を渡されたり、その後一緒にご飯や遊びに誘われることが常なのであった。
「おまたせぇ~」
メイク直しをすませた麗華が戻って来てまたお喋りを始めた。
鶴美はポヤポヤと笑いながら、例の如く麗華を持ち上げ惹きたてさせる。
しかしながら慎二は既に麗華ではなく鶴美だけを見ていた。
そんな感じで鶴美は日々を過ごしていた。
何も変わらずに、女子グループは鶴美を引き立て役、もしくは笑いのネタにし、鶴美も気にすることなくニコニコと笑っていた。
しかし、そんな日々はすぐに消え去ったのであった。
「どういうこと!?」
ある日、教室でポヤポヤとメロンパンを食べていた鶴美に麗華を中心とした女子グループが大声を張った。
「なになにぃ~?どうしたのぉ?」
危機感のない鶴美はニコニコとメロンパンを食べながら聞き返したが、それに苛立った麗華がバシン!とメロンパンをはたき落とす。
「ふざけないで…アンタ、慎二と浮気してたでしょ?」
「ふぇ?」
何を言われたのか分からず首をかしげるが、女子たちが追撃をする。
「ふぇ?…じゃねーし」
「寒いしキモいし」
「っつーか可愛いとか思ってんの?」
女子たちの声は物凄く冷たい。
「慎二に昨日言われたの!『お前みたいな奴とはやってけない。俺は鶴美が好きだ』…って!何したのよ!?」
「私は単にご飯食べたり愚痴を聞いたりしてただけだよ?ぶっちゃけ彼のことなんてどうでもいいし、彼が勝手に私を好きになっただけでしょ?私は自分からってしたことないし」
鶴美は本気でそれだけだと考えている。
鶴美にとっては、麗華や自分がいる女子グループ、自分を好きになった男、慎二、全て平等にどうでもいいと思っており、相手が勝手に好意なり悪意なりもっているだけだと思っているのだ。
「は!?アンタ異常だよ!調子に乗んな!」
「…………」
鶴美は黙った。頭に浮かぶのは疑問だらけである。
「(…だから、前から言ったのにな~なんで今更なんだろ~?)」
鶴美は何回か疑問を投げ掛けのだ。自分は意外とモテるんじゃないかと。
自分はそれなりに性格悪いんじゃないかと。
彼氏を紹介したら、多分自分を好きになるじゃないかと…そう何度も問うたのだ。
『自意識過剰だし!ッププ……そういう所も普通の女の子だよね~』
『嫌々w鶴美ちゃんのはバカだから性格悪くはないよ。普通普通』
『ってか……ップ……私の彼氏以前にイケメンがアンタ好きになるやついないよ……キャハハ!!マジ痛いし!』
しかし、彼女たちは鶴美の問いを笑いのネタにするだけであり、否定した。
故に鶴美はそれを信じ、ありのままで居続けただけなのである。
本当に、それだけなのだ。
「ねえ、私の何が悪かったの~?」
コテン……と、鶴美は首をかしげた。
するとふざけたと受け取ったのか、彼女は苛立ちの境地のような顔をする。
「言わなくたって分かるでしょ!?」
言われなかったから分からなかったのである。
それ故に、今回何故怒られたのかもいまいち分かっていない。怒っている内容は分かるが、鶴美には自分の何が悪いのかが皆目つかないのだ。
「…っグスン…」
鶴美はギュウッと裾を握って下を向き……泣いた。
それはさながら、いじめられている女子のようだが、彼女たちからすれば自業自得なのである。
しかしその時、クラスの空気が変わった。
「ねえ、やめなよ……みっともないよ?」
最初にそういったのは、デコを出している委員長系の女の子であった。
「は?なにそれ……つーか、私たちが被害者なんですけど!」
勿論、彼女たちはひるまない。
クラスで一番イケているグループであることや、被害者は自分達だという自負があるのだ。
しかし、周囲にしてみれば…また見方が変わる。
「でもさ……普通に考えて、お前らより鶴美の方が好かれるだろ」
「うんうん、自然の摂理だし……ってか、アンタら性格醜いよ」
「鶴美ちゃん、おいで。麗香のグループでいじめられることないよ」
「お前ら……最低」
クラス中は鶴美を擁護した。
クラスにとっては、人畜無害でか弱そうな普通の女子である鶴美をいじめているように見えている麗華たちにいい感情は持っていなかった。
今まで表立って注意しようとするものが居なかったのは、鶴美本人が気にしてないようにニコニコと笑い『あ、これは普通なのかもしれない』と思っていたからである。
しかし、鶴美が泣いているという普通ではない事態に周りは動いたのであった。
「はぁ!?そもそもコイツが…」
更に鶴美を貶そうとする麗華の言葉を被せるようにして鶴美は言った。
「私……悪いの?」
「鶴美ちゃんは悪くないよ!」
鶴美の問いに、クラス中がそう答えた、
その言葉を聴いて、鶴美はパァッと嬉しそうに笑った。
それを見て周りは微笑ましげに鶴美に笑いかけ、優しく迎えたのであった。
「はぁ!?っちょ、何この雰囲気…」
「大体悪いのは…」
空気を換えようとした麗華たちだが、周りは冷め切った目を彼女たちに向ける。
「…あ…っう…」
そこでようやく彼女達は…自分達がクラスで居場所がないことを悟った。
その日の放課後、普段は麗華の女子グループと食べていたのだが、流石に無理であった。
クラスの人たちに『一緒に食べよ?』と誘われたものの、鶴美はそれらを断り屋上でメロンパンを食べていたのである。
「おいしいね~」
少し冷たい空気
「っよ、一人寂しく昼飯か?」
「あ、佐吉くん~メロンパン食べる?」
「おう、くれ」
佐吉は千切って渡してきたメロンパンをたべながら、鶴美の横へと座った。
「彼女さんはいいの~?」
「ん?友達と食べさせてる」
「そっか~」
間延びした返事をして、鶴美はメロンパンを食べながら佐吉は焼き傍パンと雑誌を見ながらポヤポヤとのんびりした。
「恋愛とか友情って…上手くいかないね~」
「お前の場合、人間平等に全員どうでもいいって思ってるからだろ」
「佐吉くんのことは特別に愛してるよ~」
「俺もお前のことはを愛してるよ」
「そっか~」
メロンパンを食べ終わった鶴美はポヤポヤとお茶をすすりながら、ふと佐吉が見ていた雑誌に目をやった。
「薬王寺リアンか~この人って女好きでハーレム作ってるんだよね~?」
その記事に載っているのは、薬王寺リアンという、世界的に有名な俳優であった。
ネグリジェを着た沢山の美女の真ん中に半裸のリアンというなんとも艶かしい写真も載っている。
「だな、雑誌の記事によると女は平等に扱うらしいぜ」
「この人となら~いい恋愛できそうだね~」
薬王寺リアンなら自分を本気で愛することなんてないし、気楽なハーレム要員なんて最高かもしれない。
男の人に誘われる時も彼のハーレム要員だからと言い訳が出来る。
芸能世界にいるから結構な愚痴を零されたり癒しを求められるかもしれないが、それは苦痛の範囲ではない。
互いに本気にせず、どうでもいいと扱われる…
「うん~この人と恋愛したい~」
そんな、楽観的でバカなことをバカなりに鶴美はポヤポヤと考えながら新しいメロンパンを食べ始めた。
「何をアホなことを」
佐吉は乾いた笑みを浮かべながら、鶴美のメロンパンを少しもらい…。
二人は老夫婦が縁側で日向ぼっこするかのごとく、ポヤポヤと時間を過ごすのであった。
鶴美のバカな言葉がちょっと違った方向で現実になるのは……もう少し後の話。