私、どんだけ堕ちるのよ!!?
こんちは、富谷鹿遊です。
雪はいいですよねー
見るぶんには。
雪山登山、二日目。
山は、吹雪いていた。
凄まじい風にのって、雪の結晶が弾丸のように木や岩にぶつかり、こびりついた雪の塊を成長させていた。
「何故だあああーーーー!!!」
山の中腹より少し上、崖の下の洞窟の中が、震動する。
ローランド達は、焚き火をして暖をとりながら吹雪をやり過ごしていた。
「うるさーい!もぅ、いったい何が何故なのよ!?」
耳を塞いだリタがしかめっ面で聞き返す。
「さっきまであんなに晴れていたではないか!なのに何故急に吹雪いてくるのだ!?」
ローランドが嘆く。
それもそのはずである。
ローランド達が山の斜面を登っていたとき、急に曇が出てきて、あっという間に吹雪いたのだ。
「坊っちゃん、山の天気は変わりやすいでやんすよ」
ゴリラが諭す。
「そんな子供のじみた理由で、いちいち大声ださないでよね」
リタが呆れた。
「ええい、うるさいわ!!我輩はすんなりと目的地にたどり着けない事が大っ嫌いなのだ!」
ローランドがまた、洞窟を震動させリタが耳を塞いだ。
ごうごうとなる風の音も、ローランドが叫ぶ時は、まるで風など吹いてないように音が聞こえなくなる。
「はぁ、なんでこんなワガママな人と生死を共にしなくちゃいけないんだろ…」
リタは、小さくため息をついた。
「なんにしても、この洞窟を見つけられたのはラッキーでやんすね」
ゴリラが呟いた。
「そうね。偶然、吹雪き始めてすぐにみつけられたしね」
リタとゴリラが運の良さを喜んでいる中、ローランドだけは、何かを考えていた。
「?どうしたんでやんすか?坊っちゃん?」
ゴリラが尋ねる。
「いや、あまりにも出来すぎた偶然だと思ったのだ」
ローランドは落ち着いた口調で答えた。
「洞窟を見つけたことが?」
「それもそうなのだが、山頂に近づいたとたん吹雪いてきたこともだ。もっと言えば、ここに来るまでの間、野生のイエティくらいにしか襲われなかった」
ローランドの眉間にシワがよった。
「考えてもみろ、ここはつい数日前まで魔王の領土だったのだぞ?しかも、ここには魔王の拠点がある。なのに何故、魔王軍の者がいないのだ」
ローランドが人差し指を額に当てながら疑問を投げ掛けた。
「魔王が倒されて、みんな実家に帰ったんじゃないでやんすか?」
ゴリラが答える。
「バカな、まだ一月もたっていないのだぞ?万の軍勢が一斉に里帰りしたら、それこそパニックになるだろう。それに、魔王がやられたのなら、暴徒とかして街を襲っていてもおかしくないだろうに、そういった話はいっさい聞かないしな」
「そういえば、麓の街も平和そのものだったわね」
リタが、街で始めて食べた肉を思い出しながら言った。
「そうだろう、もともと魔王による被害はほとんどなかったとはいえ、いくらなんでも普通過ぎだ」
ローランドは、焚き火で暖めたミルクを飲み干した。
「でも、街のウエイターの話では、魔王の館には魔王軍の幹部が今も住んでいるって話でやんしたよ?それなら、館にはまだ、魔王軍が残っているってことじゃないでやんすか?」
「しかし、こんな雪山の館に一月も引きこもれるのか?食料は一体どうしているというのだ、軍隊というくらいなのだから、けして少ない人数ではなかろう」
「あー、もうやめやめ!ここで考えても仕方がないじゃない!とりあえず、館にいってみて、それから考えればいいでしょう?」
リタは、答えの出ない問いにイライラしてしまったようだ。
「それもそうか…。まずは館に向かうことが最優先だな」
「そうそう、それに私は、魔王がどうとかよりヘレンに帰る方法のほうが議論したいわ」
「その方法だがな…」
ローランドの金色の瞳が、リタの蒼い瞳を真っ直ぐに見つめる。
リタは少し顔を赤くしながら、ローランドに尋ねた。
「なにか、心当たりがあるの!?」
「ない!!!」
即答である。
リタは、開いた口が塞がらなかった。
「さぁ、今日はもう寝るぞ、洞窟の奥は明日調査する」
そう言うと、ローランドは寝袋をさっさと準備して横になってしまった。
「リタちゃんも、はやく寝ないと明日に響くでやんすよ」
いつのまにかゴリラも、サイズの合っていない寝袋をパンパンに膨張させながら横になっていた。
リタは、ゆっくりと寝袋を広げた。
洞窟の外では、ごうごうと風と雪が泣いていた。
深夜。
ゴリラは、物音に気づいて目が覚めた。
武術家故か、彼女は些細な空気の変化に敏感であった。
カチリと、小さな音が聞こえた。
洞窟の奥から聞こえてきているようである。
ゴリラは、二人を起こさないように、ゆっくりと洞窟の奥へと進んでいった…
ーーー翌日
リタが目覚めたとき、ゴリラの姿がなかった。
昨日ゴリラの寝ていた所には、伸びきってしまった寝袋だけが無造作に置かれていた。
リタは、不審に思ったが、トイレにでも行っているのだろうと、それほど気にしなかった。
一時間後。
「ローランド。ローランド起きて」
リタがローランドを揺さぶる。
「我輩はぁー。魔王だぞぉー。後、5分」
行方不明のゴリラを心配する気持ちで焦っていたリタには、ローランドの言葉は非常に腹がたった。
『アクアボール(極小)』
リタの指先からゆっくりと水滴が垂れる。
その、水滴はあろうことかローランドの鼻の穴へと吸い込まれていった。
「ぐおっほ!?なんだこれは!?」
ローランドは、昔、自宅の風呂で溺れかけた事を思い出した。
「おはよう、ローランド」
リタは、とても清々しい顔をしていた。
「お前なんて事をするのだ!?トラウマが蘇ったぞ!!」
ローランドが朝から元気に吠える。
しかしリタは、動じない。
「そんなことより、ゴリラさんがいないの!」
「なに…?トイレではないのか?」
「もう、一時間くらい帰ってこないのよ。ううん、私が起きたときにはもういなかったから、もっと前からかも」
ローランドは、顎に手を当てながら考えていた。
「荷物はそのままのようだ、そしてアイツが我輩に黙ってどこかへ行くなど考えづらい…」
その時、洞窟の奥で、カチリと、なにかが鳴った。
「今、なにか聞こえなかった?」
「ああ、聞こえたな。洞窟の奥からのようだ、行ってみるか」
ローランドがそう言うと、二人は立ち上がり、洞窟の奥へと進んでいった。
右へ左へ、ぐにゃぐにゃと曲がりくねった道を200メートル程歩くと、道よりも少しだけ広い空間へと出た。
空間の上は、小さな吹き抜けになっており、雪がふわふわと降りてきていた。
「どうやらここで行き止まりのようだな」
空間の真ん中には、天秤が置いてあり、下がっている方の器に少しずつ水が流れ、雪を溶かす造りになっているようだ。
「これが、動いてカチカチいってたのね」
リタが、天秤に近づく。
「!よせ!近づくな!!」
ローランドが叫んだと同時に、リタの足に細いワイヤーが引っ掛かった。
「え…」
リタが足を押し返される感覚を感じたと同時に、空間の床はバタンと音をたてて無くなった。
突然、さっきまで踏んでいた床が無くなってしまった二人は、重力に引き寄せられ、地下へと落ちていった。
「きゃあああああ!!?」
「うおおおおおお!!?」
二人の絶叫が、洞窟の中にこだまする。
二人が落ちていった後、床はゆっくりと、もとに戻った。
そして、天秤がカチリと、堕天使の罪の重さを量っていた。
こんちは、富谷鹿遊です。
雪山編も序盤が終わり始めましたー。
なんというか、物語のイメージがすっごいでてくるんですけど、なんだか言葉にしづらい感じです。
こう、例えるなら、普段はガソリン入れるとき窓も拭いてくれるスタンドで、何故か今日だけは拭いてくれなかった時のようなもどかしさといいますか。
動物園でゴリラがバナナじゃなくてリンゴばっかり食べてるときのようなやるせなさというか。
そこはバナナ食べろと。
なんの為のゴリラだと。
君がバナナを食べる、その姿を何人のお客さんが期待していると思っているのか。
しかし食べない。
絶対手をつけない。
リンゴばかりもちゃもちゃもちゃもちゃかじってる。
そんなゴリラが、私は好きです。
あれ、これなんの話だっけ?