魔王足るもの、有象無象に負けることなどありえんわ!
こんちは、富谷鹿遊です。
7話目ですね。
この暑い夏を雪景色の妄想で涼もうぜ。
ーーーホワイトウッド山脈中腹
辺りは白銀の世界に覆われていた、ふかふかの雪は、まるで粉々に砕いたウエハースのように踏む度にさくさくと鳴った。
「ううぅ、寒いー」
寒さに慣れていないのか、リタは弱音を吐いている。
「黙って歩かんか、麓の街のウエイターによれば、山頂付近に魔王の館があると言っていた。あと半分くらいではないか」
そう言うと、ローランドは山の上手を指差した。
山の斜面は、どんどん厳しくなっている。
「それに、雪を見た直後は『きゃー雪だわ!きれー!』とかなんとかほざいとった癖に」
ローランドの指摘に、リタは苦虫を潰したような顔をした。
「しょうがないじゃない!ヘレンには雪が降らないんだもの!まさか、こんなに冷たくて、歩きにくいとは思わなかったわ!」
リタは防寒具でモコモコの腕と翼を広げて抗議する。
「歩くのが嫌なら、その立派な翼で飛べばよかろう?」
「飛べないわよ」
「何!?」
「え!?でやんす」
リタの言葉にローランドとゴリラは驚いた。
「そんな大きな翼を生やしておきながら、空を飛べないのか!?鳥でも空を飛んでいるというのに!?」
ローランドが、叫び、遠くで雪崩が起きた。
ごごご…という地響きにも動じず、リタが反論する。
「鳥と一緒にしないでよ!鳥は、骨がスカスカなの!私がそんなだったら、ちょっとぶつけただけで骨折しちゃうじゃない!」
「頭はスカスカなのにか?」
ローランドの顔は、いたって真剣である。
「なんですって!?」
その言葉に、リタは激昂した。
「貴方、いつもいつも私につっかかてくるけど、なにか恨みでもあるの!?」
「悪魔召喚かと思ったら天使が出てきたのだぞ!我輩の高鳴った胸が送った血液を返せ!しかも、また白い服を着おって!」
「いいじゃない白でも!そもそもあのローブが魔王っぽくないって理由でメイド服に着替えさせるなんてどうかしてるんじゃないの!?変態!!」
「変態ではない!魔王だ!魔王に仕えるものが、清廉潔白な白いローブではおかしいではないか!」
「いつ貴方が魔王になったのよ!魔王になりたい変態でしょ!?」
「なんだとヒステリー女!」
「なによ変態!」
「まあまあ落ち着くでやんす二人とも、ほら、あれを見るでやんすよ」
ゴリラが話に割って入り、何かを指差した。
二人はゴリラの指し示す方角を見る。
「「ひ!」」
白い毛皮の熊のような生き物が日本足で立っていた。
巨大な体躯に、鋭い爪をもつその生き物が、熊とは決定的に違ったのは、胸と腹が毛皮で覆われていなかったことである。
そして、肌の露出した胸と腹の筋肉は異常に発達していた。
「ちょっと何よあれ!ゴリラさん並にマッチョじゃない!バルヘイムはあれが標準なの!?」
リタがローランドの肩を掴んで揺さぶる。
「やめんかぁー。脳が揺れるぅー。あれは恐らく、イエティだぁー」
ローランドが揺さぶられながらも返事をした。
イエティは、3人の様子を伺っているようにじっと見つめていた。
距離はおよそ、20メートル。
ローランドはリタの手を振り払った。
「離せ!いいか、ともかく、今は距離がある。幸い相手は一匹だけのようだし、迂回して進めばなんの問題もあるまい」
「坊っちゃん、それは無理でやんす」
ローランドの言葉を、ゴリラが否定した。
「何故だ?」
「よく見るでやんす。回りをすっかり囲まれているでやんすよ」
ゴリラが落ち着いた口調で説明する。
目を凝らすと、雪に混じって非常に見えづらいが、確かにイエティ達がローランドの回りを取り囲んでいた。
ざっと数えても、10匹はいる。
「うーむ、これは仕方がないな」
ローランドは非常に落ち着いていた。
「ええ!?何が仕方ないのよ!?大ピンチじゃない!」
リタが、青ざめた顔で叫んだ。
「できれば、魔王の館までは体力を温存したかったがな。戦う他あるまい」
そう言うとローランドは右手を前につきだした。
『フレイムブレイド』
ローランドが呪文を唱えると、手からオレンジ色に燃える剣が出てきた。
メラメラと燃える刀身は、周囲の雪に照り返され、神々しさを感じる。
「凄い…!」
リタはあまりの神々しさに、見とれていた。
「ふふん、この剣は見た目だけではないぞ。お前はそこで見ているがいい」
ローランドが構えをとる。
気がつけば、イエティ達は、10メートルもないほどに近づいて来ていた。
「!坊っちゃん!」
ゴリラが叫ぶ。
一番近くにいたイエティがローランドに襲いかかる。
イエティは跳躍しそのまま鋭い爪をローランドに降り下ろした。
しかし、ローランドにその爪は届かない。
イエティの腕は、まるで始めからそこにはなかったように、消えていた。
「ぐ、ぐるおおおお!」
イエティの悲痛の叫びが辺りに響く。
リタのすぐ後方に、イエティの腕がどすっと落下した。
イエティの叫びを合図にしたのか、他イエティ達も一斉に襲いかかってきた。
「きゃぁ!」
思わず、かがみこんでしまうリタ。
「ゴリラ!リタを守れ!!」
ローランドが叫ぶ。
「あいさっさー」
ゴリラが気の抜けた返事をした。
「さぁ、久々に我が剣を奮う時がきた!覚悟しろ蛮族共よ!この雪原に腐ることない礎となるが良い!」
ローランドの言葉など理解できるはずもないイエティ達は、次々とローランドに襲いかかり、そして崩れ落ちていった。
「ゴリラさんはともかく、ローランドってあんなに強かったのね…。てっきりお坊ちゃんだと思ってたわ…」
リタが驚きを隠せない顔で言った。
ゴリラは、イエティにパロスペシャルをかけていた。
その時、リタの背後から、雪に擬態していたイエティが襲いかかる。
「リタちゃん!後ろ!!」
ゴリラがイエティの上から叫ぶ。
『アクアバースト!』
リタが呪文を唱えると、掌から高水圧の水が発射された。
イエティの発達した胸筋にたやすく風穴を開けてしまった。
「私だって、戦えるんだからね!」
その様子を、ローランドはしっかりと見ていた。
(ふん、やるではないか)
そうして、8匹程倒したところで、イエティの群れは山奥へと逃げていった。
辺りには黒こげになったイエティ立ったものが散乱している。
「ふぅ…、ひとまずは安心だな」
ローランドが炎の剣を消した。
「貴方、けっこう強かったのね」
リタがローランドに駆け寄る。
「当然だ、我輩を誰だと思っている」
「変態?」
「なんだと!?」
「冗談よ、冗談。少し見直したわ」
リタがフフっと微笑んだ。
ローランドは少しだけどきりとしたが、ふん…と言ってすぐにそっぽを向いた。
「あら、肩を怪我してるじゃない」
リタが襲われそうになったとき、そちらに意識がいってしまいイエティの攻撃をかわしきれなかったのだ。
「こんなもの、たいした傷ではない」
ローランドはなおもそっぽを向いていた。
「ダメよ!バイ菌が入ったらどうするの?私に任せてなさい」
そう言うと、リタはローランドの肩に手をかざした。
「お前、まさか」
『ヒーリングエアー』
リタの掌から風が青い光が出てきた。
傷口が、光に触れるとあっという間に治ってしまった。
「光属性の魔法が使えるのか?」
ローランドが驚いた顔をする。
その表情が嬉しかったのか、リタは楽しそうに返事をした。
「当然よ、天使だもの!」
リタはふふんと、腰に両手をあてた。
「ふん、ヒステリー女にしてはやるじゃないか」
「もー、素直に感謝できないの貴方は!?」
「…ありがとう」
「え?今なんて言ったの?」
「なんでもないわ!!さあ、さっさと館へ向かうぞ!!」
ローランドの相変わらずの大声が響く。
不意を突かれたリタは不機嫌そうな顔になる。
「わかったわよ!わかったからそんな大声ださないで!」
「坊っちゃんそんな大声出したらまたイエティがやって来るでやんすよ」
「ふん、その時はまた、返り討ちにしてくれるわ」
こうして、難を逃れた一向は、魔王の館を目指し、山を登るのであった。
(…今晩のお夕飯はイエティ鍋にするでやんす)
こんちは、富谷鹿遊です。
今回ようやくローランドが戦いましたね。
そして、ローランドの大声がちょこっと出せましたね。
ただ、あまりにも大声過ぎると、雪崩が起きちゃうので(起きましたが)ローランドも少し抑え気味ですね。
そんな事より、いいですよね、雪。
雪ってだけで幻想的ですよね。
なぜかゲレンデにいる女性って美人に見えますよね。
ゲレンデマジックですね。
ゲレンデってなんか怪人みたいな名前ですよね。
醜悪怪人ゲレンデーみたいな。
ゲレンデでお持ち帰りしたら、実はゲレンデーだった、みたいな。
食べちゃうつもりが食べられちゃったーみたいな。
なんの話ですかねこれ。
ぼく、こどもだからわかんなーい。