嘘と本音
4月1日23時40分。
大学の入学式を2日前に控えた夜。特にやることもなく、かと言って眠気も特になかった俺は自分の部屋で何をする訳でもなくボーっとしていた。
そんな無意味な時間を過ごして既に30分ほど経った頃、携帯に着信が入った。
『ハロハロ~』
着信画面に出た名前を見た時から予想は出来ていたが、電話に出た瞬間に発せられた言葉は予想通りではあったものの溜息しか出てこなかった。
「ハロハロー……何の用だよ」
『なにそのはんのー、冷たいなー』
携帯に出てからの2度目の溜息。
電話の相手はいわゆる幼馴染。幼馴染とは言っても、家が隣同士って訳でもないし親が昔からの知り合いって訳でもない。こいつを幼馴染と言う分類に分けた場合俺の異性の幼馴染は6人いる。同性も含めれば10人を超える。
近所に住んでるご近所さん。近所であるんだから幼稚園だって一緒だし小学校も一緒。そこまで行けば、だいたいの奴とも中学も一緒。
それで、高校まで一緒と言ったら色々言われるかもしれないが、別に高校まで一緒なんてそんな主人公補正は俺にはかかってない。
「用がないなら切るぞ……」
『ちょっ!待って待って!』
まぁ、高校が違うと言っても幼馴染グループで集まる事はよくあるし家が近いんだから最寄り駅だって同じだし、酷い時は一週間毎日顔を合わす事だってある。
だから、電話の向こうの相手の声を聞くのが懐かしと感傷に浸ることもないし、今俺の中にあるのは『こいつはめんどくさい』と言う一点のみだったりする。
「また集まろうっていう話しか?ならメールとかで……」
『違う違う!えーっとね……なんと言いましょうか……』
「切るぞ」
いつもははっきりと物を言うこいつが珍しいな、と思いながら通話のボタンに指を置く瞬間携帯の向こうから予想外の言葉が聞こえた。
『あのね……ずっと好きでした!付き合ってくれませんか!』
「……は?」
こいつは……何を言ってるんだ?
いつもの意味不明発言にわずかな頭痛を感じながら口を開く。
「えーっと……はっ?」
ボキャブラリーの少なさはこんな時に響いてくるのかもしれない。
そんな現実逃避な思考を頭の隅においやり改めて口を開く。
「お前、本気で言ってんの?」
俺はどんな答えを期待していたのだろうか。
彼女が欲しいと聞かれたら欲しいとも欲しくないとも言えないのが本音だか、こいつなら良いかもしれないと思っていた俺がいたかもしれない。
「で、さっきのは……」
『あーもう!なんでそんなに初々しいのよ!こっちが恥ずかしいじゃない!』
「いや、だって……」
『違うの!エイプなの!』
「……エイプ?」
『だーかーらー!今日は4月1日でしょ!エイプリルフール!嘘なの嘘!』
「嘘……?」
俺は混乱した頭でゆっくりと言葉の意味を理解していく。
「つまり、エイプリルフールの嘘をつくために俺に電話をし、その嘘の内容が今の告白だと……?」
『うん、まぁー……そーゆこと』
「……そうか」
俺は最後にそう呟き電話を切った。
そのまま寝てしまおうかと思い横になると、携帯にまたもや着信が入った。
『謝るから怒らないで下さい!』
着信の主は俺が出ると同時に、かなり慌てた様子で俺にそう言ってきた。
「……もう、切るぞ」
『えっ⁉︎もしかして、まだ怒ってたりする?』
2度目の着信から数分。俺は唐突に会話の終わりを告げる。
「いや、もう怒ってない。ただ、ちょっと眠くなっただけだ」
エイプリルフールの嘘に対して、腹が立ったのは事実だ。でもそれ以上に恥ずかしいと言う気持ちもあるし、なにより本気で謝ってるようだったので、俺の中にある怒りという物は既になくなっていたりする。
『あーそっか。ごめんね、突然電話しちゃって』
「そうだな……当分、着信拒否という手を打つのも良いかもしれないな」
そんな冗談を言いながら、部屋の電気を消し布団に潜る。
向こうも寝るつもりなのか、携帯の向こうでゴソゴソと音が聞こえる。
「そろそろ切るな」
『うん。おやすみ』
「あぁ、おやすみ」
今度こそ電話の終わりだと、通話ボタンに指を起き、指先に力を入れる。通話が切れるその直前、小さな、でもはっきりとした声でそいつは言った。
『好きだよ』
最後の最後にわざわざエイプリルフールの嘘をつくなよ……と思いながら、携帯を枕元に置き目を閉じる。
その時何を思ったのか自分でもよく分からないが、俺はすぐに目を開け時計へと視線を向けた。
日付けは変わり、長針は既に10分を示す2を指していた──。
日付け変わって、エイプリルフール終わってからの投稿(苦笑)
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