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Catch The Future   作者:
88/90

第87話 Killer instinct

Side K.Ishikawa


何とか援護してやりたい裏の攻撃だったが結局俺たちの攻撃はあっさり終わってしまい、真夏の甲子園のグラウンドへ散らばっていった。


健太がベンチから出てきてブルペンで肩を作るためにピッチング練習を始めた直後の清峰の攻撃の時に俺は秋山先生に呼ばれて『次の守りで一人でもランナーを出したら松宮にスイッチする』と言われたが、この試合のベンチに姿を現した時点でこんな事態になるなんて容易に想像できた。


むしろ健太の気の強さからしてみれば病室のベッドの上に寝そべって指をくわえてテレビ観戦している方がおかしい話だ。


渡部も渡部で熱による疲労と横浜総学館打線の重圧が原因でスタミナがガリガリと削られ、今では肩で息をするのがやっとの状態だ。


それなら1球1球間を取りながら投げればいいのだが、イニング間のピッチング練習で投げてきたボールを受けたがボールのキレや威力が著しく落ちていた。


しかもクリーンナップから始まる攻撃……いよいよヤバくなってきたぜ…。



Side out




Side D.Amamiya


ネクストサークルの中でバットを振りながらイニング間のピッチング練習をみていたが、清峰の2年生ピッチャーが投げるボールは試合開始直後に比べて走っておらず、コントロールもバラバラになっていてストライクが取るのがやっとの状態みたいだ。


そしてさっきまで清峰ベンチから少し離れたところでキャッチボールをして肩を作っていた松宮がベンチの中へ引き下がっていた。


『こちらはいつでも松宮を投入できるぞ』という威嚇を狙った横浜総学館ベンチに対するダミーか何かだと思う。


でもそれはあくまでダミーであって松宮はきっと出てこない。


でも欲を言うとするならば高校野球最後の試合でもう一度松宮と勝負したかったな…。


そう思いながら試合を決めに行くためにバッターボックスに向かうが、清峰の監督がベンチから出てきて審判に歩み寄る。


それを受けた審判はタイムを宣告しバックネットに選手交替を伝えに言った。


すると甲子園球場内にアナウンスが流れてきた。







『清峰高校ピッチャーの交代をお知らせ致します。渡部くんに代わりまして松宮くん。ピッチャーは松宮くん。背番号1』



松宮の名を告げると甲子園球場から地鳴りのような大歓声が沸き上がった。




Side out





「渡部。」


オレは内野陣が集まったマウンドへ上がり天を仰ぐ渡部に声をかけると何やらボールを睨み付けるように見つめていた。


「……何やってんだ?」


「俺の気を込めときました。……あとはよろしくお願いします。」


そう言い残して俺のグラブの中にボールを置くと止めどなく流れてくる汗を拭いながらベンチへと退いていき、それを見た清峰高校のアルプススタンドから渡部を讃える拍手が鳴り響いた。







「んで?改めて聞くけどよ……、お前頭大丈夫なのか?」


渡部の後ろ姿を見送り、規定のピッチングを終えたオレはロジンバッグに手を伸ばそうとしたら石川が聞く人によってはバカにしているような質問をオレに向かって飛ばしてきた。


「……まぁな。」


ホントはボールを投げるどころか2、3日安静にしていないとダメらしいんだけどいてもたってもいられなくなったなんて言えねぇ…。


「ボールはいつもと同じくらいキレてるからそこは心配はしてねぇよ。それよりいきなり天宮を迎える訳だけど気ぃ抜いたらスタンドまで持って行かれるぞ?」


「あぁ、そうだな…。」


そんな顔せんでも小手先が通用しない相手だということくらい分かっているさ。


だったら残された方法はただ1つ。


真っ向から力でねじ伏せればいいだけだろ?


石川が定位置に戻ったのを確認したオレは一度目を閉じて2回3回深呼吸をしたあと、天宮を睨み付けるように目を開けた。




Side D.Amamiya



投球練習が終わり、プレーが再開された。


スイッチヒッターである僕は左バッターボックスに入り、目を閉じて深呼吸をしている松宮の投球を待っていた。


ーーーゾクッッッ!!!


こちらを睨み付けるように目を開けた瞬間、とてつもない威圧感と身体の芯が一気に冷え込むような感覚に襲われた。


何なんだ…この異様なまでのプレッシャーは……!?まるで殺し屋のようだ…!!


肌がヒリつくような威圧感を受けて徐々に僕の心拍数が上がり、呼吸が浅くなっていくのが分かる。


威圧感を放つ松宮がセットポジションの体勢からクイックモーションでボールを投げてくるが、ボールが手元でグンッ!とノビてきて捉えることが出来ない。


「何の冗談だ…これは……。」


空振りした後バックスクリーンを見上げて思わず呟いた。


なぜならバックスクリーンのスピードガンには『154km/h』という文字があったからだ。


続く2球目の153km/hのストレートはバットにこそ当てることはできたが、差し込まれファールグラウンドに力の無い打球が転がる。


ヤバい…。今までの松宮なんてまるで女子高生くらいだ…。


この2日で勝負してきたとは思えないくらいの怖さだ…!!



Side out



石川から返ってきたボールをキャッチし、またセットポジションの体勢に入る。


不思議な感覚だ。


今までの野球人生で数えるくらいの回数しか入ったことの無い感覚だ。


暑いはずの甲子園が少しだけ涼しく感じ、うるさいはずの大応援がほとんど耳に入ってこない。


だけど石川のミットだけがとても大きく見える。


これがインターハイ決勝で菜々が見て感じていた世界なのかな……。


天宮に対する3球目。


マウンドと石川のミットの間に見える微かに白く光るラインに静かに乗せるようにボールを投げる。


光るラインに乗ったボールはホームベースの手前で急激に落ち、天宮はスイングするも体勢を崩す。


そしてボールは構えられたミットに微動だにせず吸い込まれた。


よし、まずはアウト1つだ。



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