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Catch The Future   作者:
86/90

第85話 戦う意志

Side D.Amamiya


再試合も横浜総学館うちの先攻で試合が始まる。


今グラウンドでは両校のシートノックが終わり、グラウンド整備を行っているところだ。


清峰高校の守備は昨日まで戦い、ここまで勝ち上がってきたとは到底思えないくらい乱れていた。


セカンドやショートを守っている選手は正面のイージーゴロですらグラブを弾いたり送球がバラついていたし、キャッチャーの石川くんですら動きが鈍い。


例えるならチーム全体が御葬式のように重い雰囲気だった。


松宮がいるといないとではここまで変わるとは…。


でも、同情なんかは絶対にしない。


向かってくるというのなら状態が悪いとはいえ全力で潰させてもらうよ…。



Side out





ロッカールームでユニフォームに袖を通し、誰かが持ってきてくれたバッグの中に入っていたスパイクを履く。


そうこうしているうちに試合開始を告げるサイレンが遠くから聞こえてきた。


焦っても仕方ないのでゆっくり準備し、忘れ物はないか確認してからベンチの裏へ向かう。


ベンチの裏につくと、夏の太陽の暑さと試合の熱気が伝わってきた。


オレこんななかで投げていたのか……。


すると最初の守りを終えてきたスタメン9人がベンチに戻ってきた。


ベンチの中の雰囲気は重く、選手一人一人の表情は暗くて固い。


まったく…。こんな雰囲気じゃ勝てるもんも勝てねぇよ…。


「ちーっす。」


オレはベンチ内の重い雰囲気を吹き飛ばすため、至って普通の声色でベンチに入った。






Side K.Ishikawa


初回だけで2点を失った。


相手の先発は昨日に引き続いて沢木がマウンドに上がっている。


昨日15イニングでわずか1点しか取れなかったピッチャーをどうやって打ち崩せばいい……?


仮に打てたとしてもこの重い雰囲気を吹き飛ばすにはやっぱりアイツが必要なんだ。


でも無いもんねだったって仕方ねぇよな…。


「ちーっす。」


誰だよこんなときに能天気な挨拶交わしてんの…。


俺は声が聞こえてきた方向を向いた。


「んだよ?この雰囲気……重すぎね?」


そこには普通ならここにはいるはずの無い健太エースの姿があった。


「「「「「健太(松宮)(さん)!?」」」」」


「うるさっ!?」


監督以外のベンチの中にいた人は健太がベンチに来たことに驚き、健太はその大声に驚き耳を塞いでいた。


「え!?何で!?試合は出られないんじゃ!?」


「病院抜け出して来たんすか!?」


「頭の方は大丈夫なんすか!?」


おい。最後のやつ聞き手によっちゃすっげぇ失礼だぞ。


「だぁぁっ!!一気に聞くなぁっ!!」


質問攻めにされそうになっていたが、何とか振り切って少し距離を置いて説明しだした。


「ホントはこの場にいちゃいけないんだけど、甲子園の決勝戦の再試合っつーことで試合には出ないっていう条件でベンチ入りをすることを許してくれたんだ。っつーわけでベンチからガンガン声出していくんでヨロシク。」


「へぇ~…。つまり試合の行方をマウンドじゃなくてベンチの中で指加えながら見てるってことっすね!?」


「っるせぇ!!!ホラ、さっさと結城の打席応援してやれや!!」


健太がベンチに戻ってきたことによりチームの雰囲気やベンチの中の空気が一変していた。


だけど俺は一抹の不安を感じていた。


口では試合には出ないと言ったが本当にそうだろうか…?


普段は温厚でどこか抜けている部分がある健太だが、野球になると豹変する。


もしかしてドクターストップに歯向かって試合に出る気じゃないだろうか…?


もしそうなったら…。


いや、変なことを考えるのはやめておこう。


それよりもこの回は三者凡退に打ち取られ、早くも2回目の守備に行かないといけなくなった。


俺はスポーツドリンクを一口含んでから、ベンチから灼熱のグラウンドへと出ていった。



Side out



Side D.Amamiya


「あっはっはっは!!!」


「いきなり笑い出してどうした?この暑さでとうとう頭がイっちまったか?」


僕は清峰高校のベンチを見て、目的の男の存在を確認するにつれて笑いが止まらなり、大声で笑ってしまった。


それを見かねた沢木が僕の頭の中を心配しだした。


失礼な。いつだって僕は冷静さ。


「あっちのベンチを見てみなよ。僕が笑い出した理由が分かるから。」


「あん?あっちのベンチ…………はぁ!?なんで松宮アイツがいるんだよ!?確か今日の試合は出られないはずだろ!?」


沢木が声を荒げる。


「さぁ?僕には理由が分からないよ。ただ言えるのは……。」


「言えるのは?」


一旦僕は言葉を切る。


普通なら頭に打球を喰らったらボールに対する恐怖心は拭えない。


負けるのを覚悟してやってきたのか、それとも試合の後半で自ら志願してグラウンドを墓場としてチームを勝利に導くためにやって来たかは定かではないが…。


「この場にいる誰よりも戦う意志は折れなかったということだろうね。」


少なくとも僕が考えるにはこれしか彼が動かす原動力は思い付かなかった。



Side out



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