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Catch The Future   作者:
82/90

第81話 やっぱすげぇよ…

Side K.Ishikawa




ーーーーキィィィィン!!!!




痛烈な打球音が甲子園に響いた。


打球を前に飛ばした天宮はフォロースルーを取り、ポーンとバットを空中に放り投げて走り出す。


オイ……ウソだろ……!?


俺の願いとは裏腹に打球が伸びていく。


センターを守る東條が快速を飛ばして必死に打球を追う。


が、センター最奥のフェンスに到達した東條が上空を見上げてフェンスによじ登ろうと試みたが打球は遥か上をいった。


痛恨の同点単独本塁打ソロホームランを被弾してしまった。


鼓膜を突き刺すようにうるさい大歓声の中、俺は打球を運ばれたバックスクリーンの方向を呆然と見ていた。


ツーストライクと追い込んで、完全に決めにいった健太の渾身のストレートが打たれた。


ウソだろ……、ありえねぇ。


スイングを開始するタイミングは完全に振り遅れのタイミングだった。


コースもボールの威力も最高のボールだったのに……。


「健太……。」


健太はもちろん俺も一旦間を取るためにマウンドへ行ったが、なんて声をかけてやればいいのか分からず名前を呟くことしかできなかった。


「……ハハハッ。」


健太は俺の方ではなく、横浜総学館ベンチの方向に向いて笑っていた。


「やっぱすげぇよ…。天宮アイツ。あれを打たれちゃ仕方ない…、バッターが一枚上手だと思うしかないな!」


健太……。


笑っているには笑っているが、無理に笑っているように見える。


「あ…ああ、点を取られたとはいえまだ同点だ。大事なのはこの後だからな。それにツーアウトなんだから初球大事にいこう!」


「分かってる!」


それっきり俺と話すことはないと言わんばかりにクルッと背を向けてロジンバッグを弄りだしたので、ホームベースの後ろの位置に戻った。


……悔しくないわけがない。


むしろあの表情は……。


いや、今はそれよりもこの嫌な空気を断ち切るのが先だ。


俺は次のバッターの様子を観察して、スライダーのサインを出した。


モーションに入り、投げ出されたボールは…、


(…!?思ったよりも曲がらねぇ!!)


ーーーキィィィン!!


「ショート!!」


綺麗に捉えられた打球はショートの頭上を飛んでいる。


それを結城がジャンプ一番したあと、グラウンドに向かって背中から転落する。


痛みで顔を歪ませながらグラブの先っぽでキャッチしたことをアピールし、これでスリーアウト。


だが、清峰高校にとって重すぎる1点がのし掛かることとなった。


その証拠に……。


「クソッ!クソッッ!!クソがぁぁぁあッッッ!!!!!」


ベンチに戻ると、すぐさまベンチ裏に引っ込んだと思ったらバサッとタオルを叩き付ける音が聞こえたと思ったら健太の怒りの咆哮が聞こえてきた。



Side out





今まで投げてきた様々なボールのなかで一番指にかかり、一番スピンの効いたベストボールだった。


そのストレートで決着ケリをつけるはずが、相手の息を吹き返すバックスクリーンへの同点ホームランにされた。


結城の守備に助けられたものの、天宮の後に打つバッターにも曲がり切らなかったスライダーを痛打された。


近くの水道で頭を冷やすため水を思いっきり被ったあと、タオルでガシガシと水気を拭き取ってから自陣のベンチに戻る。


「……頭は冷えたか?」


ベンチから戻ると秋山先生がオレの方向を見ず、グラウンドをみたまま問いかけてきた。


「……えぇ、まぁ。」


頭は冷えたには冷えたが、冷えきったという訳じゃないので曖昧は返事しかすることができない。


「そうか…、ならいい。」


そう言ったきり試合の采配に専念するためグラウンドへ意識を置く監督を横目に、ベンチの上に置いた帽子を左手で掴んで座る。


そう言えばこの帽子って菜々から半ば取り上げるような形で交換したんだっけ……。


『甲子園優勝』と大きく書かれた文字をぼんやり眺める。


そうか…、この試合に限らずどの試合でもみんなの応援や支えがあってこの場に立ててるんだよな…。


ならホームラン打たれたからと言って、同点にされたからっていってこのまま腐るのは応援してくれる人に対して失礼に当たるよな…。


そうだよな…。その証拠にまだ同点だ。


ならどうすればいい?


ーーーこれ以上点をやらなければいい。


決意を新たに固めたところでグラウンドを見るとちょうどバッターが引っ掛けて、サードからファーストへ矢のような送球を送りファーストが身体一杯伸ばしてキャッチしてスリーアウトとなった。


この試合は延長戦に突入し、両校ともいよいよ死力を尽くして戦わなければならなくなったのだが何故かオレはワクワクしてきてしょうがない。


「うっし…。延長戦、楽しんでこーぜ…。」


オレは一人静かに気合いを入れたあと、マウンドへ向かった。



Side D.Amamiya



「延長戦になったわけだけど、相手エースはさっきの大輝のホームランが効いてるからすぐに決着がつきそうだなー。」


ベンチでは延長戦は早めに決着がつくという声がちらほら聞こえている。


「って言ってるけど実際問題どうなのよ?」


僕の横に座り首の裏に氷が入った袋を当てながら、マネージャーが作ってくれたハチミツ漬けのレモンを食べて少しでも疲労軽減に勤めている沢木が聞いてきた。


「すぐに決着はつく。」


「あら、以外に辛ら「と言うのはあくまで春までの松宮の話だよ。」……ほう?」


「彼はきっとそんなに柔じゃないし、何より春のセンバツや夏までの練習を通じて飛躍的に成長してるはず。油断していると…。」


「油断してると?」


「痛い目を見るのは横浜総学館うちかもしれない。」




Side out




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