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Catch The Future   作者:
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第80話 運命の9イニングス

Side K.Ishikawa


健太のフォークボール解禁とチャンスに滅法強い天宮の空振三振スイングアウトという事実は、横浜総学館に重くのしかかっている。


その重苦しい空気は直後の守備や、沢木の何事にも揺るがないピッチングに影響した。


そこを攻め立て、結城のセンターオーバーのスリーベースが飛び出した直後に東條がライトへ特大のフライが犠牲フライとなり、待望の先取点をもぎ取ってなおも1アウト3塁とこちらに先制のチャンスが回ってきたところで俺の打順が回ってきた。


バッターボックスに入ろうとしたところで、横浜総学館ベンチから伝令がグラウンドに入る前に一礼してからマウンドに向かって駆け出した。






Side D.Amamiya



「すまん。」


マウンドに集まってすぐに沢木が帽子を取って謝った。


「いや、僕達バックにも責任があるんだ。お互い様だろ?」


すぐに僕が沢木の背中をポンポンと叩きながら声を掛ける。


「監督は何て?」


「『悪い流れはここで断ち切ってこい』だそうです。」


「なら話は早いな。」


スタメンマスクを被っている藍沢が確認してきた。


「「「「4番と5番で勝負しよう。」」」」


意志疎通を終えた僕たちは目を閉じて、軽くジャンプしあったあとそれぞれの守備位置に戻る。


プレイが再開すると同時に、一旦肩に担いでいたバットを耳より少し前に構える石川くんに対峙する沢木。


何回か首を振ったあとに投じた初球は……、



ーーーガギィッ!!!



石川くんの膝下に向かって沈んでいくシンキングファスト。


それを3塁側のファールグラウンドに打った石川くんの顔は打ち損じたという表情とバットの根っこで打ったことで手が痺れ、苦悶の表情で歪んでいる。


2球目はインコース高めに147km/hのストレートを投げて、身体をのけ反らせるが判定はストライク。


アウトコースへ逃げていくスライダーと際どいコースに投げ込んだストレートを見極められ、とどめの98km/hのナックルに石川くんはタイミングが合わずに三振。


石川くんの後に打つ松宮も、初球のナックルを引っ掛けサードゴロ。


何とか最小失点に留める粘りのピッチングをした沢木をバシバシ叩きながらベンチへと引き下がる。


どう転んでも僕の打順が回ってくる。


監督に断りを入れて、ベンチの日の当たらない場所で目を閉じて深く息を吸ったり吐いたりして極限の集中状態への扉を抉じ開けるタイミングを計る。



ーーーーーそして運命の9回が始まった…。




side out





9回もポンポンと2つのアウトを重ね、いよいよあとアウトカウント1つと言うところまでやってきた。


だが…、


『4番 ショート 天宮くん』


ここで天宮を迎えた。


天宮を抑えれば試合に勝ち、深紅の大優勝旗を手にすることが出来る。


逆に天宮に打たれれば形勢逆転。


横浜総学館の停滞した空気が一変し、瞬く間に清峰高校うちが追い込まれてしまうだろう。


だからここはこの試合で最も慎重に攻めなければならない場面となった。


だというのに逆に燃えてしまっている自分がいる。


さて、行ってみようか!!!


オレは手の中に握られていたロジンバッグを足元に置き、投げるためのモーションに入った。



Side N.Kamiya



あと1人と迫った健太くんの初球は151km/hのストレート。


スピードの表示以上に威力があるであろうボールを、天宮くんは難なくバットに当てた打球はバックネットに突き刺さった。


こういうシチュエーションに対して力を発揮する健太くんはまだ気付いていないかも知れないが、天宮くんが纏う威圧感は今までの比じゃない。


追い込まれているというのに、いやに落ち着いているようにも見える。


わたしも1度あの領域に踏み入れたからこそ分かる。


隣で一緒に応援している愛美も口をキュッと閉じて、天宮くんと健太くんを見つめている。


天宮くんは今『ゾーン』状態に突入している。


それは健太くんと天宮くんのそれぞれ大きすぎる才能がこの甲子園決勝という場を通じてミックスアップされ、先に天宮くんの才能が開花したということと同義だ。


きっと天宮くんは何回かゾーン状態を経験しているが、『意図的にゾーン状態に入る』のはおそらく初めてだろう。


ゾーン状態に入っている天宮くんに対して、ゾーン状態に入っていない健太くんでは贔屓目で見ても分が悪すぎる。


お願い健太くん……、彼の異変に気付いて!!!



Side out




ーーーガッ!!!


「ファール!!」


外から内側に入ってくるスライダーや内から外へ逃げていく軌道のチェンジアップも見せた。


あとは投げるボールはただ1つ…。


今自分が持っている最高のストレートでこの因縁に決着ケリをつける。


そう意気込んで石川のミットに叩き込む気持ちで腕を振るった。








ーーーーキィィィィン!!!!




……は?



オレの耳の中にはボールがミットに収まった音ではなく、痛烈な打球音がいつまでも響き渡っていた。



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