第78話 ファーストラウンド
『2回の表横浜総学館高校の攻撃 4番 ショート 天宮くん』
強打を誇る横浜総学館高校を初回は無失点で抑えることができ、ランナーがいない状態で天宮の第1打席を迎えた。
ランナーがいる打率より、ランナーがいない状態での天宮の打率の差はおよそ1割5分以上開いている。……と言っても今大会かなりの高打率を残しているのであまりあてにはならない。
懐が深くゆったりとした構えだが、発せられる威圧感は突き刺さんばかりの鋭さを誇っている。
その威圧感を感じとったオレは、逆に自分の心の中の本能が目覚めるような感覚に陥る。
サインを確認して首を立てに1度振ったオレは、ボールが握られている右腕を振るった。
Side D.Amamiya
ーーーガギッ!!!
「ファール!!」
松宮の投じた初球はアウトコース高めへのストレート。
唸りを上げて向かってくるボールに対して様子見のようにバットを出してみたが、ボールの下っ面を叩いたためボールはバックネットに突き刺さった。
仕留め損ねたと思っていると何やら甲子園がどよめいていることに気付いた。
何事かと思い、バックスクリーンに表示されていたスピードガンに視線を向ける。
ーーー『152km/h』。
そこにはアクセル全開と言いたげに、春先に記録した松宮の最速が表示されていた。
どうやら昨日のビデオでの違和感の正体の1つは、決勝戦に来るまでの……自惚れてるかもしれないが僕との対決のためにわざわざパワーセーブをしていたみたいだ。
続く2球目はアウトコース低め一杯にしっかりとコントロールされたストレートが投げ込まれ、これを打ったとしてもファールか凡打になると判断したため見送り0ー2と追い込まれる。
アウトコースに2球続けたので、インコースで勝負に来るかボール球1球挟むだろうと思いバッターボックス内で構える。
見ていて惚れ惚れするくらいエネルギー効率のよいバランスの取れた投球モーションから繰り出されたボールはチェックゾーンの段階ではストライクゾーン甘めに入ってきた。
インコースのストレートだと予想した僕は、振り遅れない程度にしっかり手元まで引き付けてスイングしたはずだったが、ボールはほんの少し低めの真ん中からアウトコース低めボールゾーンに落ちていくチェンジアップだった。
腕の振りの鋭さに騙された僕は、タイミングを外されてしまい何とも力の抜けたスイングをしてしまい空振三振。
ベンチに戻り、バッティング手袋を留めているマジックテープをベリベリと外したあと被っていたヘルメットを取る。
なるほど……。おもしろい。
そう思った僕は帽子を被り、チェンジになったと同時に自分が守っているショートの守備位置に向かって駆け出した。
Side out
超強力打線を誇る横浜総学館の最も警戒すべきバッターでもある天宮を三振に打ち取り、流れがこちらに傾きかけているだけにここは先制点を取りに行きたい場面。
この回はこの試合5番に座るオレからだ。
横浜総学館の先発はエースの沢木 大輔。
最速150km/hのストレートに決め球にあげているキレのいいスライダーとカットボール、懐をえぐってくるシュートに日本じゃ相当珍しいシンキングファストボールなどのスピード系の変化球に加えて、投げてくる確率はあまり高くないがバッターを嘲笑うかのようなストレートと全く同じモーションから繰り出される100km/h前後のナックルボールも投げてくる非常にやっかいなピッチャーだ。
こうも上下左右に投げられる球種を持っているピッチャーに対して何のボールを待てばいいのかさっぱり予想できない。
とりあえず打つのが難しそうなナックルとシンキングファストを捨てつつ、インコースの変化球が来たら振り負けないようにしないとな…。
そう思ってオレは左のバッターボックスに入った。
結局オレは追い込まれたあとのアウトコースのストレートをレフト前に運んだものの、後ろが続かずこの回も無失点で2度目の攻撃を終えた。




