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Catch The Future   作者:
77/90

第76話 決勝戦前夜

「ピッチ打たしてこーぜ!!」


「ツーアウト!!気ぃ楽に行こーぜ!!」


オレの背後バックを守っている仲間たちが相手校のブラスバンドに負けないくらいの大声を張り上げて鼓舞するなか、オレは流れてくる汗と被っている帽子の持ち主だった女の子の存在を感じながらキャッチャーから出されるサインを確認する。


確認して特に異を申し立てるような球種じゃなかったのでオレは頷き、セットポジションの状態からバッターに向かって真っ向勝負に挑んだ。




ベスト4をかけた準々決勝。


北北海道代表の久間大苫小牧高校戦は、秋山先生がこれまでの戦いで貯まってきた疲労を考慮したのかオレはベンチスタートだったが6回を終えて6ー4と少し雲行きが怪しくなってきた。


さすがの秋山先生も不味いと判断したのか、7回の頭からオレをリリーフで指名。


7回をリズムよく三者凡退で切って取り、相手に偏りかけた試合の流れをぶった切った。


援護が欲しかったその裏に1点を返し、8回裏にも2点を加えて逆転に成功した。


そして最後のバッターを緩急でタイミングを崩し、148km/hのストレートをサード上空に打ち上げて試合終了。




今大会から導入された健康管理日と言う名の休養日を挟んだ翌日。


雨が降りしきるなかで行われた準決勝は大阪府代表の大阪桐楊高校との壮絶な乱打戦を制し、危なげながらも決勝戦に進出することができた。


雨で濡れた身体を冷やさないようにして宿舎に帰ったオレたちは、シャワーで汗を流して昼食を食べ終えた後すぐさまテレビにかじりついた。


今大会屈指の好カードとなった準決勝第2試合。


神奈川県代表の横浜総学館高校と春のセンバツ準優勝校である愛媛県代表の風祭学園の一戦。


勝った方がオレたちと夏の頂点を賭けて戦うことになっている。


先に守る風祭学園の先発にオレは少なからずビックリした。……ビックリせざるを得なかった。


何故なら…。


「は?伊丹が……背番号1?」


そこには躍動感溢れるピッチングフォームで投球練習を行っている伊丹 貴弘の姿があったからだ。


「元々コイツの本業はピッチャーなんだとよ。……ホレ、伊丹の記事。」


石川が差し出してきた雑誌の見出しを確認した。


色々書いてあったが見出しをザックリと要約すると元々伊丹は風祭学園の絶対的エースだったらしいのだがセンバツ直前で肘を痛めたらしくファーストを守っていたと言うことだったらしい。


ピッチャーとしての特徴も書いてあって、最速150km/hのスピンが効いたストレートを軸としてスライダーにカーブ、カットボールの他に曲がり幅が大きいシンカーとストレートとさほど変わらないスピードで曲がる超高速シンカーを操るそうだ。


「この試合の勝者が明日の相手。……じっくりゆっくり見させて貰おうじゃないか。」


スコアブックをテーブルの上に広げてシャーペンを握る石川の言葉の通り、この試合の勝者が決勝戦の相手だ。


天宮との清算・再戦を希望とするオレとしては横浜総学館に勝って欲しいが、伊丹を攻略するのは至難の技であろう。


……ここで負けんじゃねぇぞ。天宮。










少し早めの夜メシを食べ終えたオレは、ベッドの上に横たわり天井のシミが無いかどうかをボーッと眺めながら考え事に耽っていた。


準決勝第2試合の内容は結論から言うと、横浜総学館の圧勝で終わった。


伊丹も横浜総学館を5回まで無失点に抑えていたのだが、6回の先頭バッターの打球がピッチャーライナーとなり伊丹は運悪く右肩に当たってしまい、そのまま負傷降板。


エースであり主砲の伊丹というチーム絶対的支柱を失い、動揺を隠せない風祭学園の選手たちは動きと集中力が散漫となり次々にリリーフピッチャーを送り込んだが最後まで横浜総学館打線を止めきれず…。と言った試合内容だった。


それでも伊丹の右肩の骨や関節、筋肉に大きな異常は見当たらず打撲で済んだことが不幸中の幸いというやつだろう…。


とは言え明日はいよいよ決勝戦。


明日の事を考えただけでも気持ちの昂りを抑えることが出来ず、武者震いなのかそれとも恐怖から来るものなのか定かではないがとにかく手の震えと鳥肌が止まらない。


このままじゃいけない、飲み込まれてしまうと思ったオレは枕元に置いてあるケータイの電源を入れてとある人物に着信を入れた。


ワンコール、ツーコールと相手が電話に出るまでの呼び出し音が今までの呼び出しの中で物凄く長く感じた。そして…。


『もしもし?健太くん?』


繋がった。


何度も何度も呼ばれた自分の名前。


聞いていて心地よくなるような高くて透き通った声。


「わりぃ、今時間大丈夫だったか?……菜々。」


決勝戦前夜。


甲子園優勝を目指す上では、これほどいいシチュエーションはほとんど無いだろうってくらい整った状態で菜々に電話を掛けた。


『別に大したことはやってなかったから大丈夫だよ。』


「そうか…。」


『うん。』


「……。」


『……。』


「『……。』」


我ながら情けない話だけど、電話を掛けたのはいいが何を話したらいいのか分からない…。


あと1つ勝てば春夏連覇。


昨秋のあの日、菜々と誓いあった約束が果たされることになる。


相手は高校野球史上最高のバッターとも謳われる天宮 大輝を擁する横浜総学館高校。


相手にとって不足はない。


けど期待や不安などのいろんな感情が渦巻いて、ミキサーみたいにぐっちゃぐちゃにかき混ぜられて何をどう口にすればいいのか分からない。


『フフフッ……そう言えばわたしのインターハイの時もこんな感じだったよね。』


「え?」


『大会を通じて一番強いところと対戦する日の前の夜、私が健太くんに電話かけたことあったじゃん。』


そう言えばそんなことあったっけ…。


『でね?わたしが健太くんに緊張し過ぎてどうしよう……。って話したら健太くん『キミは思い詰めすぎだ。ただ自分が持っている実力ちから全て出し切ってこい』って言ってくれたよね。そのおかげでわたしはインターハイ優勝することが出来たんだよ?だから健太くんも……ね?』


あとは誰からも言われなくとも理解することができた。


その瞬間、さっきまで何とも言えない感情でオーバーヒートしそうだった頭が一気に冷やされていくような感じだ。


……まさか自分が菜々に励ました言葉に励まされるなんて思ってもいなかった。


「……そうだな。ありがとな。」


『どういたしまして。明日も暑くなるみたいだから早く寝なさい。』


「はーい。おやすみー。」


『おやすみなさーい。』


それぞれ寝る前の最後挨拶を交わしたところで通話が切れた。


やれることはすべてやった。


あとは明日を待つだけだ。


熟睡できるように、と冷房をおやすみモードに切り替えて部屋の電気を真っ暗に消して布団を被った。




ーーー甲子園決勝戦開始まで残り15時間。






Side D.Amamiya



準決勝の試合を録画していたビデオを見て、松宮のクセを見つけたり清峰バッテリーの配球傾向を確認しながら明日の打席に立つイメージを徐々に固めていく。


春のセンバツに比べて制球力コントロールとボールの威力共に格段に上がっているし、変化球のキレもより一層鋭くなっている。


だが、何だか妙だ。


まだ何か隠し持っている状態でピッチングをしているようにも見える。


春先に記録した最速152km/hのストレートは、今大会で150km/hを超えたのは1度しかなく平均球速は約146km/hと本来の松宮に比べると何だか物足りないという感じは否めない。


きっと化けの皮を剥がして刃向かってくるとするならきっと明日の……それも試合のターニングポイントとなる場所で何か仕掛けてくるつもりだろう。


何で来るかは僕には理解できないが、僕はただそれを打ち崩すだけだ。


準決勝第1試合のビデオが最後のバッターを仕留めたところで、テレビの電源を消して自分が寝る部屋に戻ることにした。



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