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Catch The Future   作者:
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第74話 気合いを入れに?

石川に呼ばれ、ベンチ裏にいくと菜々と野球部の1年生が立っていた。


「……何しにきたんだ?」


「何しにきたって……気合いを入れに?」


「そうか。それなら別にいらねぇ。分かったなら早くアルプスに戻ってくれ。」


とにかく今は菜々の顔はあまりみたくない。


だからわざと突き放すようなことを言ってさっさと帰って欲しかった。


「やだ。」


「……今試合中だってのが分かってんのか?もう一度だけ言う。アルプススタンドに戻れ。」


だが、それはかえって逆効果になってしまった。


いつもなら笑って許せるような我儘だが、今は試合中だ。


こんな我儘を聞いていられるほど今のオレは精神面メンタルは寛容じゃない。


「やだったらやだ。確かに今試合をしているのはわたしだって分かってるよ。でも、今の健太くん全然楽しそうじゃないんだもん。」


菜々の言ってる意味が分からない。


楽しそうじゃない?何を言っているんだコイツは?


「試合前の時まで何があったのかなんてわたしには分からないし、健太くんの口から説明されたとしてもきっと理解しきれないと思う。けど、いつまでもそんな悪い感情で濁り切っている目をしている健太くんは見たくない…。」


話している菜々自身が涙目になるほどの思いの丈をオレにぶつけてきた。


……何故だろう。試合前に絡まれた大場とのやり取りで生まれてきた負の感情が何処か吹っ飛んでいくような感覚だ。


確かにオレが弱くて幼馴染を傷つけてしまったのは変えようのない事実だ。


だが今はどうだ?


今はこんなオレのために涙を流せるほど本気で心配してくれる菜々(こいつ)がいるじゃねぇか…。


オレは1つため息をつきながら頭をガシガシと掻く。


「菜々…、頼みがある。」


「……なに?」











「目ぇ覚めたか?」


菜々を一緒にベンチ裏に来ていた1年生の部員の奴に頼んでアルプススタンドへ戻し、ベンチのなかに戻ると防具をつけた石川が待ってくれていた。


「あぁ。おかげさまでな。」


思いっきりぶっ叩かれてジンジンする頬を擦りながら答える。


鏡では見てないが、きっとオレの頬には菜々がつけてくれた紅葉がキレイに咲いていることだろう。


「この回でみんなが追い付いてくれたんだ。これ以上あいつらに突き放されたらブン殴ってやるからな?」


石川にホラ、と言われ甲子園のバックスクリーンに写し出されている得点の電光を見つめる。


そこにはオレたちの学校名の横に並んでいる数字の最も新しいところに『3』という数字が写し出されていた。


こんなに不甲斐ないピッチングをしていたのにオレが埼玉栄光学院を抑えてくれるということを信じて同点にしてくれた。


ホント、みーんなバカだよなぁ…。


でもそのおかけで今ここにオレがいるんだよな。


グラウンド整備が終わり、再びまっさらとなったマウンドに立ったと同時にアルプススタンドを…そしてバックスクリーンを見つめる。


アルプススタンドはブラスバンドや応援団を始めとした大応援団で埋め尽くされており、バックスクリーン上空は浜風が吹いており大会旗や国旗が心地良さそうに泳いでいる。


身体の向きをマウンド方向へ移し、目を閉じて息をハーッと深く吐き出した後、目を開けながら自分に言い聞かせるように呟く。



「……楽しんで行こーぜ。」



Side K.Ishikawa



この回の先頭は大場だ。


前の打席では左バッターボックスに立っていたが、この打席は右バッターボックスに入ろうとしていた。


こいつスイッチピッチャーの上にスイッチヒッターだったのか…。


まぁでも、んなことぁ関係ねぇか。


「よぉ、そろそろ試合に勝つこと諦めてくんねぇかねぇ?」


右のバッターボックスに入ってから大場は俺に話し掛けてきた。


「……一応理由は聞いておこうか。」


「理由?強いていうなら…、俺様は松宮アイツよりも優れている存在だからだ。」


性格の悪さと傲慢さなら健太よりも圧倒的に優れてはいるな…と心の中で毒を吐きながらマスクを被った。


「1つ言っておく事がある。」


「あ?」


健太がノーワインドアップのモーションに入り、そのモーションがどんどん加速していく中で大場に囁く。








「あんまりうちのエースをナメるなよ?」







直後に放たれた151km/hのボールは大場を仰け反らせるほどの威力を保ちながら、俺のミットにライフル銃の発砲音みたいな爆音を立ててしっかりと収まった。


「……は?」


推測でしかないが大場は前のイニングまでの健太の印象から手を出さずとも何とかなるものだと思っていたのだろうが、今の健太は並のバッターはおろか超高校級レベルのバッターでも打ち崩すのは不可能だろう。


続く2球目もストレートを続けるも、空振り。


遊び球はいらないと判断した俺は、『現段階』の健太のウィニングショットであるアウトコースのボールゾーンへ逃げていく高速スライダーを振らせて空振三振スイングアウト


後続のバッターもそれぞれ3球で片付け、攻守交代。


最初ハナっからそれをやれっ……ての!」


「あだっ…。」


三者連続三振で締め、悠々とベンチへ戻る健太の背中に向かってミットの背でド突いてやった。



Side out





9回表2アウトランナー無し。


試合は打線が7回裏で遂に大場を完全に捕まえて一挙5得点を挙げ、8ー3と突き放した。


その後リードされるどころか相手に2塁すら踏ませない投球で制圧してきて、26個のアウトを積み重ねた最後の打席には因縁の相手『だった』(正確には勝手にそう思い込んでしまっていた)大場。


オレはインコースのカーブとボールゾーンからアウトコースに入ってくるシュートで大場を追い込む。


「……ラァッ!!!」


被っていた帽子が宙に舞うほど思いっきり右腕を振り切ることで放たれたラストボールは、砂塵を巻き上げるかのように地を這って行き石川の構えるミットの中に吸い込まれていった。


「ストライーク!!バッターアウト!!」


審判が高らかにラストボールの判定をしたと同時にオレたち清峰高校は8ー3で埼玉栄光学院を下し、準々決勝進出を決めた。



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