第72話 幼馴染と警告
「ゲーム!!!」
「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」
初戦を大差で勝ち上がった後の2回戦。
香川県代表の東讃岐高校を下して3回戦に進出を決めたオレたち清峰高校の次なる相手は、試合後の抽選の結果埼玉県代表の埼玉栄光学院に決まった。
「はぁー…。」
試合が終わり、試合後のインタビューに一通り答えた後思わず溜め息をついた。
今日の試合は第2試合であったため、真夏の太陽に照らされつつ甲子園の黒土から発せられる熱で体力をガリガリ削られた。
左肩には自分の野球道具が入ったエナメルバッグを提げ、右手には渇き切った身体を潤すためのスポーツドリンクが入ったスクイズボトルを持ちながら宿舎の方に引き下がるため歩いていた。
「あのー…、すみません。」
「はい?」
後ろから呼び止める声が聞こえてきたため、振り返ってみるとオレを追って走ってきたのか息を切らした一人の女子学生の姿があった。
「オレに何か御用ですか?」
「御守り…落としませんでしたか?」
そう聞かれ、ふとエナメルバッグを見てみるとインターハイに出発する前に菜々が徹夜で作った手作りの御守りと京都の清水寺の近くにある地主神社の勝守が取れていて女学生の手の上にはその2つの御守りが乗っかっていた。
「あら…。すみません。どうやら落としてしまったみたいですね。どうもありがとうございます。」
「どういたしまし…て…。………健太?」
「ん?どうしてオレの名前を…?」
お礼を言いながら御守りを受け取ると、その女学生はオレの名前を呟いたので若干見下ろす形でその女学生を見た。
女性としては背が高くアイスブルーの瞳とブロンドの髪を持ち、首元にはいつぞやの星を象ったアクセサリーがついているネックレスを身に付けていた。
……まさか!?
「麻生………なのか?」
「だいたい3年振りくらいかな…?そっちでは元気だった?」
オレに話しかけてきた女学生の正体は、3年前に半ば見捨てるように連絡を取ることを止めてしまったオレの幼馴染でありグラビアモデルである小平 麻生だった。
「『この連絡先であってるのかな…?改めて久々だな。』っと…。」
久々に会って積もる話もしたかったのだが、あの後麻生はこれから別の仕事があると言ってオレにプライベートの方のスマホの連絡先が書かれたメモ用紙をバッグのサイドポケットに突っ込んだあと、ウィンク1つした後に仕事の方へ戻っていった。
夜メシの時間が終わってから風呂に入ったりストレッチしたりしてあとは寝るだけっての時間になったとき、麻生に差し障りのないメッセージを飛ばして連絡を入れてみた。
するとすぐにメッセージには『既読』という文字と一緒に返信は戻ってきた。
『ホントにね。春先にやってたスポーツニュース見てたから元気だというのは分かってたんだけど…。』
メッセージとともに涙目でうるうるしているキャラクターのスタンプ付きで返信がやって来た。
これが現役JKによる女子力ってやつなのか…?
オレはすぐに次なるメッセージを飛ばす。
『見捨てるようにして秋田に逃げたオレには麻生と連絡を取る資格なんてないと思ってたから…。……ゴメン。』
『別にいいよ。またこうやってやり取りすることができたんだから。』
オイオイ…。
麻生から送られたメッセージを読んで不覚にも涙が出てきちまったじゃねぇか。
感慨深くなっているところに麻生から追加でメッセージが送られてきた。
『次の試合相手ってもしかして埼玉栄光学院なの?』
『そうだけど?』
そう送ったオレのケータイには予想だにしなかったメッセージが送られてきた。
『わたしと健太を追い込んだアイツがエースになってるチームなんだよ…。何かアクションがあると思うから気を付けて。』
「トイレってこっちだっけ?」
「こっからだとあっちの方が近ぇんじゃねぇのか?」
埼玉栄光学院との3回戦が始まる少し前、オレは石川を連れてトイレで用を足そうとしていた。
他のチームメイトには何も言っていなかったがあの日麻生から送られてきたメッセージが頭から抜け落ちないまま、この日を迎えていた。
「今日の相手ってどこだっけ?」
「春のセンバツ優勝した秋田の清峰だよ。ホラ、松宮がエース張ってるっていう高校だよ。」
「へぇ…。あの『悲運のエース』様がそこでもエースナンバー背負ってんのか…。大したことねぇなぁ!!!秋田県もよぉ!!!」
すると向こう側からやたら大きい話し声が聞こえてきた。
忘れたくても忘れることができない。
あの耳障りのするダミ声。
「おっ!!噂をしてればその『悲運のエース』様がいんじゃねぇかよぉ!!!会えて俺様は死ぬほど嬉しいぜぇ?」
オレを見つけたアイツは、試合前だというのに馴れ馴れしく話しかけてきて肩を組もうとしてきたがオレはその手を払って横を見て呟いた。
「……相変わらずだな。大場。」
Side K.Ishikawa
なんだ?
健太と大場と言った男は知り合いなのか?
それにしては随分と険悪なムードが漂わせていねぇか?
「ハッ!!相変わらず真面目くん過ぎて吐き気がしそうだ。」
「そいつぁどうも。」
「いやぁ、あの時のお前のツラは最ッ高だったなぁ…。俺様がお前の幼馴染の純潔を奪ってやった時は快感だったなぁ…。」
ニタニタと気持ち悪いゲスな顔をしてコイツはいったい何を言っているんだ?
「……。」
「確かお前が高校No.1ピッチャーって言われてるんだっけ?その看板この試合でオレのもんにしてやっから覚悟してるんだな。そこのお前も精々俺様の勝利の御膳立てに付き合ってくれや。ハーッハッハッハ!!!」
言いたいことを言った後、高笑いして取り巻きのやつと一緒に反対側のベンチの入り口に向かって歩いていった。
「おい、健太?大丈「聞くな。」……ッ!!」
そこには今まで見たことのないくらい目付きが鋭く、野性の凶暴な動物と同等のオーラを滲み出していた。
Side out




