第71話 コケるなよ?
菜々がインターハイを制し、満場一致でMVPに選ばれた事を知ってから4日後に行われた今日は甲子園……正式には全国高等学校野球選手権大会の開会式が盛大に行われた。
開会式の前に先立って行われた組み合わせ抽選では、どうやっても横浜総学館高校とは準々決勝以降じゃないと当たらないグループに入った。
開会式が終わってから、何故なのかよくわからないがオレと天宮が月刊高校野球の雑誌の取材に呼ばれてしまい2人で取材の受け答えをしている。
……どうしてこうなったんだ?
「松宮くん、今大会の抱負を聞かせてください。」
「そうですね…目標は春夏連覇。って言いたいですけど何処のチームも研究してきていると思いますので、チーム一丸となって一戦一戦きちんと戦っていきたいと思います。」
「天宮くんはどうですか?」
「松宮くんと同じでチームが同じ目標に向かって一戦一戦戦っていきたいですね。」
「では最後にツーショットをお願いします。」
「きちんと僕が出した課題はこなしているようだね。」
取材陣が捌けた後、天宮がオレにしか聞こえないような声でオレに話しかけてきた。
そういえば昨年の夏に課題がどうだのだなんて言ってたなぁ…。春のセンバツが終わってから特訓特訓&特訓って感じだったからすっかり頭から抜け落ちていたわ。
「そうなのか?」
「キミの予選のピッチングを見る限りだとね。……僕らと当たる前にコケるなよ?」
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。」
「ハハッ…。そうだな。……じゃあ次はグラウンドで会おうか。」
天宮は笑いながら片手をヒラヒラと振って何処かへ行ってしまった。
オレもチームに合流しないとな…。
オレはチームのみんなに合流するべく天宮が歩み去っていった方向とは別の方向へ歩いていった。
Side D.Amamiya
大会2日目の第4試合。
春の甲子園を制した秋田県代表の清峰高校の初戦だ。
僕らの出番は当分先なので、練習は調整ということになっている。
夜ご飯まで時間があり、日が傾きかけているとはいえ外もまだまだ暑いのでゆっくり身体を休めるため宿舎のテレビの電源をつけて甲子園の試合中継を見ることにした。
相手は確か鳥取県の代表で春夏通じて初の甲子園出場を決めたらしいところだった。
試合前のシートノックやキャッチボールを見ても、選手個人の動きのキレは贔屓目で見ても清峰高校の選手たちの方が上回っている。
両校のスターティングオーダーや予選の試合成績などのデータを紹介しているうちにこの試合の審判団が出てきて、それぞれがホームベースに向かって一斉に駆け出していった。
どうやら清峰高校は後攻で、疲労がほとんどないフレッシュな状態の松宮のピッチングがこの目で見られるなんて運がいいなぁ…。と思ってたら試合前の投球練習が終わったようだ。
Side out
試合は終始清峰高校が主導権を握っていた。
まず結城と武田がヒットと四球で出塁し、ランナー1・3塁とすると頼れるキャプテンである石川がファーストストライクを取りに来たスライダーを逆らわずライト方向へ運び、1点を先制。
続く東條はアウトコースのストレートを技ありの逆打ち。
スピンがかかった打球は甲子園特有の浜風を切り裂き、ライトスタンドへ叩き込むスリーランホームラン。
これで勢いに乗ったオレたちは追撃の手を緩めず、8回が終わった時点で15得点と大量の援護を貰った。
そして、9回のマウンドにもオレが立ち相手打線に立ち塞がった。
先頭バッターを147km/hのストレートで三振、続くバッターは初球のスライダーを打ち損じてセカンドゴロに仕留める。
最後のバッターをスライダーとチェンジアップで追い込み、ボールゾーンにカーブを投げ込み打ち気を逸らしたところで…、
「ラッ!!!!」
ーーードパァァァッ!!!
「ストライーク!!バッターアウト!!」
インコース低め厳しめのところにこの日最速の148km/hのストレートで見逃し三振を奪ったところで試合終了。
春夏連覇に挑む最後の甲子園は15ー0と大差をつけて勝利し、2回戦へと駒を進めることができた。




