第70話 光の放物線の先には…
Side A.Fukushima
そして最終第4Qが始まった。
笑っても泣いても残り10分。
桜海大附属高校ボールから試合は動き出す。
あちらは始めから蒼井がボールを持っていた。
よく見ると蒼井も今の菜々と同じような目をしていた。
……来る!!!
ドライブの体勢に入ったと思った蒼井がスリーポイントラインのさらに後ろから無造作にロングシュートを放つ。
放たれたシュートはリングの奥のボードに当たって、反射してそのまま沈んだ。
「さあ!落ち着いていこう!!」
「「「「しゃあ!!!!」」」」
得点はこれで9点差。
10分で9点差を引っくり返して、さらにリードを作らないといけないって訳ね。
1分1ゴールでも相手には勝つことができない。
かなりのプレッシャーがかかるな…。
それでも勝つためには攻めるしかないな!!
Side out
第4Qも残りわずか。
「ハァ…ハァッ…!!」
ボールはわたしが持っている。
もはやガードもわたしがやるようになっていた。
桜海大附属も強かった。
特にゾーンに入った蒼井は物凄く強かった。
それでもまだツキには見捨てられてはいなかった。
こちらが24秒フルに使って決めて、桜海大附属高校も24秒フルに使ったとしてもこちらはもう1度オフェンスすることができる。
わたしはボールをつきながらスリーポイントラインまで近づく。
右サイドには彩菜と琴美がいて、左サイドには愛美と七海がいる。
そしてわたしの目の前には高校バスケ最高峰のポイントガードがいて、その様子をうかがいながら思う。
ここでこの試合まだほとんどシュートを落としていない愛美や彩菜にパスを出しても、決めてくれると思う。
だけど、ここでパスを出すのは申し訳ないと思う。
わたしを信頼してボールを預けてくれたチームメイトに…。
この試合で何度もエース対決をしてくれた蒼井に…。
そしてなにより、インターハイと言うこの大舞台でこの緊迫した状況を作ってくれたバスケの神様に…。
105ー107。
バスケの神様はここはわたしと蒼井の直接対決が御所望のようだね…。
いいだろう、やってやろうじゃないか。
「……。」
「……。」
「「…………。」」
ボールをつく。
徐々にわたしのつくボールのスピードを上げていく過程で、わたし独自のタイミングにするために不規則なリズムを入れ込んでいく。
一瞬、ほんの一瞬だけど蒼井の呼吸が浅くなるのを感じた。
それを見逃すほど勝負に関しては甘くない。
わたしはステップフェイクを入れてドライブに飛び出すフリをしてから、全身のバネを使って真上に飛び上がる。
「はあぁぁぁぁっ!!!」
肺の中の空気を全部吐き出すかのように叫びながら、シュートを放つ。
放ったシュートは数々の選択肢の中でスリーポイントを選んだ。
ジャンプの落下中にシュートの軌道を確認する。
……入ったか!?
「ナイッシュー!!!」
七海の声で放ったシュートがリングを撃ち抜いたことを知らせてくれた。
これで逆転……だっ!!!
「しゃあ!!!!」
「菜々ちゃん、ナイッシュ!!!」
「流石だ、菜々!!」
ここで桜海大附属は最後のタイムアウトを取った。
Side A.Fukushima
「ここ気ぃ引き締めていくぞ!相手は死ぬ気でスリーポイントを狙いに来るぞ!!ドライブで中に切り込んで来たら無理に止めに行こうとせずに決めさせろ!!」
「「「「「っしゃあ!!!」」」」」
「ファールによるバスカンだけは避けて行こう!!」
「「「「「しゃあ!!!!!!」」」」」
Side Aoi
「やっこさんはスリーポイントシュートやスリーポイントプレーに警戒してくるだろうな。」
「その中で何としても3点を取らなきゃいけない訳なんだけど……、ここはわたしに任せて。」
「まぁ、どう考えてもそうなるわな。」
「蒼井さん、託しましたよ。」
「お願いしますキャプテン。清峰高校を倒してベンチに戻ってきてください。」
「……任せて。」
Side out
桜海大附属ボールにより、残り35秒のタイムクロックが動き出した。
神野がコートへボールを投げ入れられた。
そのボールを受け取り、保持するのはもちろんエースの蒼井だ。
わたしはスリーポイントライン付近でボールをつく蒼井にスリーポイントを撃たせないようなディフェンスをする。
するとここで蒼井はとんでもない行動に出た。
なんとこの場面でボールをつくのを止め、ボールをキャッチしたのだ。
え!?ここでボールを持つなんて何を考えてるの!?
まさかパス!?誰に!?
「ねぇ、大丈夫?……そんなに遠くて。」
すると蒼井の身体はいきなりわたしの目の前から後ろにスライドし、そのままスリーポイントシュートを放った。
「~~~~ッッッ!!!」
声にならない咆哮が体育館中に響き渡り、そしてそのシュートは無情にもリングのど真ん中を撃ち抜いた。
108ー110。
ここに来てあまりにも重すぎる3点が加わった。
残り15秒。
もう時間がない。
14。
わたしは投げ入れられたボールを持つ愛美にボールを要求する。
すると愛美はわたしピンポイント目掛けてボールを投げた。
そのお陰でわずか数秒だが、考える時間をくれた。
そしてカウントダウンが始まる。
13。
「敵ながらいいシュートだね。」
12。
「ありがと。わたしのとっておきなんだ。」
「へぇ…。今度それわたしにも教えてよ。」
11。
「いつか……な。じゃあ、最後の1対1と行こうじゃないか。」
10。
「そうだね。これに勝った方が勝ちの恨みっこなしね。」
スペースが見当たらない。
だったら作るしかない。
わたしはステップフェイクを入れるが、蒼井は動じない。
「行かせない……よっ!!」
しまった……!!
これじゃシュートが撃てない…?
え…?ちょっと待って?
わたしはいつもより若干だが膝が深く入っている。
もしかしてこれは行けるかもしれないんじゃ…?
「貰った!!」
「まだだ…よっ!!」
わたしは膝を深く曲げた状態でシュートモーションに入った。
蒼井はそれも読んでいた。
「今度こそ!!」
わたしと蒼井は同時にジャンプした……つもりだった。
だけど、蒼井はわたしがジャンプする直前に膝が伸び切ってしまい反応することができなかった。
開けた視界にはリングとわたしの間には光の放物線の様なものが見えた。
わたしはその光の放物線に乗せるようにシュートを放った。
試合終了のブザーが鳴り響いているなか、会場全体はわたしが放ったボールの行く末を見ていた。
そしてボールは光の放物線に沿って落下を始めた。
わたしはリリースした瞬間の状態から、返した右手をギュッと握りしめて体育館の天井に向かって突き上げる。
「っしゃぁぁぁぁあ!!!」
わたしの大きな咆哮と共に右腕を振り下ろし切った。
清峰111ー110桜海大附属
その翌日、桜海大附属高校を破ったわたしたちは準決勝で力を使い果たしてボロ負け……何てことはなく、無事春と冬の2冠を成し遂げMVPもわたしが貰った。
健太くん……。わたしはあの約束、果たしたよ。
と言うわけで今回で菜々ちゃんのインターハイ編が終わりました。(ほぼやっつけですけど……。)
次回から健太メインに戻ります。




