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Catch The Future   作者:
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第66話 わたしならやれる

Side A.Fukushima


「うわーん!!ナナーチカお部屋に帰るー!!」


菜々が手早くミーティングを締めた後、マジ泣きの全力疾走で部屋に戻っていった。


あたしはふーっと溜め息1つついた後、ミーティングルームに取り残された他のメンバーを見るために振り向き…、


「……すまねぇな。みんな。」


みんなに向かって謝り、頭を下げた。


「ホントだよ……。『菜々ちゃんの緊張を解くために全力でふざけろ』ってハンドサインが出たときは本気なの?って思ったんだから。」


「まぁ彩菜さんが本気で鳳凰像の絵を描き始めてから方針が固まり始めましたからね…。」


愛美がジト目であたしを見てきて、琴美が呆れるようなトーンで話す。


実はインターハイの本戦に入ってから、菜々の調子がいまひとつ上がりきっていなかったのだ。


本来の菜々は無邪気に遊ぶ子どものように楽しそうな笑顔を浮かべながらプレーするのだが、全くと言ってもいいほど笑っていなかったのだ。


バスケを心から愛し、心の底から楽しんでいる菜々がインターハイでは勝ちにいっていた。


でもまさか笑えだなんて言うわけにもいかねぇし。


あたしらのやれることはここまでで、ここから先は菜々が愛してやまない野球部のエース様の出番だ。


…彼女の目の前でカッコ悪いとこ、見せんなよ?



Side out



Side K.Matsumiya



「よし!こんなもんだろう!!」


オレは額から出てくる汗を拭って、ホコリ1つもないピッカピカにした家のフローリングの廊下に向かっていた。


今日の練習は午前中で終わり明日から甲子園に乗り込む。


その間しばらく家には誰も来ないため荷造りが終わってから家中の掃除を今しかたやり終えたところだった。


インターハイ1回戦が終わった夜以降、菜々からの着信は無い。


元気ならそれはそれでいいのだが、もしこれが悩みに悩み抜いていたら何て声を掛けてあげたらいいのだろうか…。


さてこれから夜メシの準備でもしようかなと思った矢先だった。


「…ん?」


ケータイが鳴っている。


誰からだ?と思い、確認してみると菜々からの電話だった。


『もしもし?健太くん…?』


ケータイのスピーカー越しに聞こえてくる菜々の声は、何やら思い詰めているのか、はたまた別な理由なのか定かではないが沈んでいた。


「どうした?何か嫌なことでもあったのか?」


『ううん。わたしさ、もしかしたら緊張してたのかも。』


緊張……か。


そりゃしないわけないよな…。


菜々にとって最後のインターハイで…。


負けても次があるリーグ戦とは違って、負けたら終わりのトーナメント戦で明日の相手は夏2連覇を狙う昨夏のインターハイ王者で…。


ウィンターカップを制し、2冠を狙う清峰高校うちのエースとなると緊張するなと言う方が土台無理な話だ。


もしかしたらあと2週間か3週間後くらいにはこうなってるのかもな…。


「菜々…。緊張しない人なんていないと思うぞ?」


『うん…。でも、わたしはいつもと違ったらダメなんだよ。わたしは清峰のエースなんだから。』


菜々は時折何かを強いるように自分で自分を追い込んでしまうときがあるが、不器用なオレと違って器用だから並大抵のことはほとんど苦労なく処理してしまう。


その菜々でも今回のことは負荷が大きすぎたようだ。


オレは台所に立っていたが、テーブルに移動してイスを引いて座る。


「菜々…。」


『なに?』


「キミは少し思い詰めすぎなのかも知れないな。」


『でも……、わたしはウィンターカップとインターハイで…。約束が…。』


ああ。分かってるさ。


でも、オレが言いたいのはそう言うことじゃないんだよ。


「確かに2冠を達成することはバスケにそれほど詳しくはないオレでも難しいことくらいは分かる。それに2冠を達成するとオレも『よし!頑張ろう!!』って勇気を貰えるかもしれない。でもよ…。」


オレは言葉を選ぶため一旦話すことを途切ってからまた口を開いた。


「負けてもいい試合なんて無いけど、自分の全ての力を出しきって負けたとしても誰も責めはしない。だから自分が持ってる力全て出し切ってこい。もし全力を出しても負けたんなら気が済むまで慰めてやるから……な?」


普段のオレなら絶対に言わないであろう台詞が電話越しだとこうもペラペラと出てくるものなのか……と客観的に見てもそう思うような言葉を並べた。


だが、今の菜々には並べなれた言葉の効果は覿面だった。


スピーカー越しにきっと流れてきた涙を拭く衣擦れの音と鼻を啜る音が聞こえてきた。


『うん…。ありが…とう。健太くん。』


「……おう。」


自分らしくない言葉を並べ、少し恥ずかしくなってきたオレには我ながら素っ気ない返事をすることしか出来なかった。


その後、いつも通り(?)の他愛のない世間話などを話し、通話を切った。


世間話をしているうちにすっかり泣き止み、最後には笑いながら話していたので明日は大丈夫だろう。



Side out



電話が切れ、無機質な機械音がケータイのスピーカーから漏れている。


電話をする前は何だか…こう…わーっとした気持ちだったんだけど、健太くんの声を聞いてからは明日が事実上の決勝戦だというのに不思議と落ち着いていられるくらいまでのメンタルが戻ってきた。


うん、大丈夫。わたしならやれる。


沸き出てくる自信を胸に秘め、わたしは夜ご飯を食べに食堂へと歩を進めた。



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