第65話 縦読みしてみて?
第3Q残り3分。
わたしや彩菜を中心とした外からのロングシュートで相手ディフェンスを外へ外へ展開させ、インサイドの2人が執拗に食らいついてくれたお陰で赤城に4つのファールを取ってくれた。
ならあとはわたしの仕事だ。
「琴美!七海!!マークチェンジお願い!!」
ディフェンスに入る直前琴美と七海にマークの交代をお願いして、赤城にはわたしがマッチアップする。
赤城は琴美と七海のダブルチームにより、肩で息をするほどまでに消耗していた。
「ハッ…ハッ…ハアッ…!」
既に消耗しきっている赤城のパワードリブルにわたしを押し込む力は残されておらず、ボール1回つく度に焦りの感情が現れてくる。
1度ポイントガードへボールを戻そうとするが、彩菜がスティールして溢れたボールを七海に渡る。
スリーポイントライン付近で待ち、その間に熱海第一の5人はディフェンスに戻ってきた。
ボールを貰ったわたしは、目の前のマッチアップ相手を抜いてゴール下を守っている赤城に向かっていく。
「絶対止めるッ!!!」
わたしがミドルシュートを撃とうとした瞬間、赤城が渾身の力を振り絞ってブロックしようとしてきた。
それを見たわたしは、1度ボールを下げる。
「しまっ…………!!」
赤城がわたしの狙いに気づいたが、その時にはもう既に遅し。
降りてきた赤城にぶつかるようにしながら、ミドルを撃つ。
放たれたミドルはリングに当たることなく、2点が追加され…。
「バスケットカウント!ワンスロー!!」
赤城をファールアウトにし、わたしにはバスケットカウントが与えられしっかり沈めて3ポイントプレーを決めることに成功した。
そのあと、赤城という攻守の要を欠いた熱海第一に追撃を許すことなく勝利を収めインターハイベスト16に名乗りを上げた。
清峰 85ー70 熱海第一
続く3回戦埼玉県代表の碧山高校に87ー72で勝ち準々決勝は、お隣の岩手県代表の盛岡西高校を相手に前半はリードを許すものの後半から調子を上げてきた七海のロングシュートと彩菜のミドルを中心に攻め立て最終スコア80ー74と接戦を制し、ベスト4に進出。
そしてすぐに宿舎に戻り、準決勝の相手の対策ミーティングが行われることとなった。
「それでは明日の相手、桜海大付属高校の対策ミーティングを始めます。」
「「「「「お願いします。」」」」」
桜海大付属高校。
ジュニア日本代表の正ポイントガードであり同高校のエースでもありキャプテンでもある蒼井を中心とした強力なチームであり、昨夏のインターハイ王者でもある。
「ポイントガードである蒼井がこのチームで最も警戒しなければならない選手です。ノーモーションからの超高速パス、手元を全く見ないドリブルスキルとそれによって完璧に把握されたコートビジョン。それに加えて自身で決めるシュート力もあり、一言で言えば理想的な司令塔です。」
みんな頷いてノートやルーズリーフ、メモ帳に書き込んでいる。
「蒼井にボールが渡ったら彩菜と七海によるダブルチームに行ってください。」
「「了解。」」
何かを書き込み、ペンを置いた。
「シューティングガードでピュアシューターでもある神野がいて、蒼井との連携が多いので神野には愛美がずっとついていてください。」
「私?」
「うん。愛美なら止められるはずだと思うから…。」
わたしが神野のマッチアップに指名した選手の名は、小林 愛美。
清峰高校の3年であり、ポジションはSG。
ディフェンス力ならチームNo.1で勝負所でのシュートは絶対に決めてきてくれるクラッチシューター。でも、クラッチタイム時は性格がちょこっとだけ変わる子でもある。
「スモールフォワードには三上がいますが、この選手はわたしが抑え込みます。」
三上はロングシュートはあまり打たないスラッシャータイプの選手だし、1対1ならわたしの方が上手だと自覚している。
「あとはセンターともう1人のフォワードですが…。センターには琴美がついてフォワードに関してはリバウンドやスクリーンなどといったサポートタイプの選手なので臨機応変に対応していこうと思います。」
「センターの特徴はどんな感じですか?」
「そうだね…。赤城に比べると少し劣る程度かな?」
「分かった。」
琴美が何やら一生懸命にノートに書き込んでいるので、興味本意で覗いてみると…。
「ねぇ、琴美?」
「はい?なんですか?」
「…………なに?この絵。」
ノートにはメイド服を着ている琴美がゴリラっぽい何かに挑みかかっている絵が描かれていた。
「何って……イメトレですが?」
「何でこの絵の琴美メイド服着てんの!?そしてその琴美が何でゴリラに挑みかかってんの!?」
あー!!もう!!!
どこからツッコんでいいか分かんないよ!!!
「いや、ゴール下ってもはや戦場って言いますし?」
「いや言うけどさ!!」
まさかとは思うけど、何だか嫌な予感がビンッビンに伝わってくるんですけどっ……!!
「七海?」
「よし、こんなもんかな?」
そこにはただでさえ迫力がある『いいからテーピングだ!!!』のシーンがさらに迫力を増した絵が描かれていた。
「なんで!?」
「このシーン好きなんだよ。」
「知らねぇよッ!!!」
思わず言葉遣いが荒くなってしまうくらいどうでもいい情報だった。
今度は愛美を見る。
ちゃんと文字にして明日の対策についてメモを残している。
さすが愛美だ。チーム内の癒し役で入学当初からうちの新聞部が独自調査した彼女にしたい生徒ランキングのトップランカー常連なだけある。
「愛美ぃ…。」
「菜々ちゃん……ごめんね?」
わたしは愛美に抱き着こうとしたが、ばつの悪い顔をしながらノートを見せてくれた。
「縦読みしてみて?」
なになに?
「『おそばたべたい』?お昼食べたばっかだよね!?」
「あれはおそばだなんてミトメラレナイワァ…。」
何でそのタイミングでロシアのクォーターのスクールアイドルさんの物真似をしたの!?
しかもかなり上手いし…。
そしてキャプテンであり、こういうノリでは最も驚異的というか起爆剤になりかねない彩菜を見てみた。
「ヤッベェ…。最高傑作ができちまった…。」
ノートを縦にして見開き1ページにして描かれた平等院鳳凰堂の鳳凰像なんだけど、羽根を広げた状態をイメージした絵が描かれていた。
心が震え立つような絵だけど!!
絵なんだけど!!!関係ないじゃん!!
もういいもんいいもん!!!
健太くんに電話して慰めてもらうんだからっ!




