第62話 南国の激闘、開幕。
今日は待ちに待ったインターハイ初戦。
その初戦の相手は南北海道代表の松陽高校。
試合前のウォーミングアップで身体を動かしながらシュートの指の掛かり具合を始めとした自分の調子を確かめる。
少しロングシュートの精度がよろしくないが、誤差の範囲内なので試合でシュートタッチを掴むしかないだろう。
「集合!!」
彩菜の一声でベンチ前に集まる。
「この試合の戦術の確認だ。ファーストオプションは菜々、セカンドオプションは状況次第であたしか七海に切り替えていけど、たぶん七海になると思うからもし切り替えるときはサインを出すから対応よろしく。」
「はーい。」
七海と呼ばれた娘は、藤谷 七海。
わたしや彩菜と同学年でポジションは4番…、つまりPF。
何でPFやってんの?って聞きたくなるくらいボールハンドリングがよく、ガードのパスセンスもありセンターの素質もある異色のPFだ。
「あたしは今日はアシストやディフェンスに専念しようと思うからフォワードの2人は派手によろしく。」
「「はーい。」」
「よし、じゃあ行こう。……1、2、3!!!」
「「「「Fight!!!」」」」
Side K.Matsumiya
今日からインターハイが始まり、清峰高校女子バスケットボール部は第2試合で登場した。
その時間帯は練習だったので、試合の様子を録画してあるのでテレビをつけた後にリモコンを操作して試合を視聴する。
実はというと菜々の試合を観るのは初めてなので、実のところ楽しみにしていたのである。
ジャンプボールが上がり、ジャンプボールを制した清峰高校のボールで試合が始まった。
確保したのは彩菜ではなく菜々だったので、ゆったりとした足取りでフロントコートへ。
フロントコートに入ったと同時に本職である彩菜へパスする。
彩菜から七海へ。
七海からセンターの井上へ。
それぞれがノールックパスでボールを回し、残り8秒になってからボールが菜々に戻ってきた。
すると菜々のマッチアップ相手がボールを持った瞬間、一気に距離を詰めてきた。
菜々のロングシュートを警戒してのディフェンスだと推測できる。
けど、逆に近付きすぎてドライブでマッチアップ相手をいなす。
1人目を抜いた瞬間、ヘルプがやってきた。
それをスピンムーブでかわし、ゴール下に侵入しダンクに持ち込もうとしてジャンプする。
すると最初に抜かれた菜々のマッチアップ相手が追い付き、片手に持ったボールを叩き落とそうとしていた。
それを見た菜々はフワッと斜め後ろに向かってボールを放す。
後ろから走り込んできた七海がそのボールを左手でキャッチし、そのままリングに叩き込み空中戦を制した清峰高校は2点を先制する。
……こいつら止められる高校生なんているのか?
清峰高校の先制した瞬間でもあったし、何だか早くも清峰高校のワンサイドゲームの予感が露呈してきた瞬間でもあった…。
Side out
第4Qも既に残り1分を切っており、20点以上のリードを保っている。
わたしと彩菜以外のスターターはベンチに下がり、温存している。
かくいうわたしは第1Q途中からロングシュートのタッチが取れたことにより4連続スリーポイントを決めるなどで25点差をつけたあとの第2Qと第3Qをベンチで待機し、彩菜は第1Q途中から第3Q残り1分までベンチにいたのでスタミナは有り余っている。
シックスマンやリザーブと言っても、それぞれがきちんとした技能があるので安心して試合を任せられるくらいの力はある。
きっとこれがラストオフェンスとなるだろう…。
彩菜にボールが渡った瞬間、ハンドサインが出た。
わたしと彩菜のコンビネーションオフェンスのサインだ。
うわー…。彩菜さん、えげつないことするなー…。
彩菜がその場でドリブルしながらチラッとゴールの方向を見た。
それにつられた相手ガードが1歩半彩菜に近付いたと思ったその瞬間、相手の股を抜いてからアウトサイドにいた七海にパスアウト。
七海も1度、2度とフェイクを入れてから逆サイドに走り込んでいた彩菜に再びボールを戻す。
ボールが戻ってきて、相手は今度こそシュートを打つと思い込んでいるのか距離をジリジリと詰めているがそれを鼻で笑いながらあしらうように……ボールをバレーボールのトスのようにリング横目掛けて指先で弾き飛ばす。
そのボールをジャンプしてキャッチしたわたしは…、
「ハッ!!!」
リング目掛けてボールを投げ込んだと同時に、試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
こうしてわたしの最後のインターハイは初戦を白星で飾り、幕を開けた。




