第61話 初戦には間に合うよ
Side N.Kamiya
今年のインターハイは本州や九州地方を越え、沖縄で開催される。
47都道府県持ち回りで開催される夏季インターハイのなかで、最後の開催地となった事で話題になっている。
でも沖縄県には登山競技が出来るくらい標高の高い山はないので、登山競技だけは鹿児島県での開催となっているらしい。
朝早くに秋田の空港を旅立ち、東京の空港を経由して那覇の空港に着陸したのはいいんだけど…。
「……暑い。」
隣にいる彩菜が暑さで汗がダラダラと流れ、ヘロヘロになっている。
さっきチラッと現在の気温を知らせるメーターを見たけど、30℃後半を回っていた。
そりゃ暑がりの彩菜じゃなくても、確かに暑い。
「ホラ、彩菜?キャプテンなんだからシャキッとしてよ。そんなところでアイスみたいに溶けてないで早く宿の方に行こ?」
「無ー理ー。引っ張ってってー。」
いつまでもここにいるわけにもいかないし、仕方ないので彩菜を引っ張って少し離れて歩いていた仲間のもとに向かった。
……彩菜が着ているチームの名前が入っているポロシャツの首根っこを掴んで。
「殺す気かッ!!!」
宿舎についてから決めた割り振りの結果、同じ部屋となった彩菜をきちんとベッドに着弾するように向かってともえ投げで部屋に入れた。
ともえ投げした意味は特にないけど、強いてあげるとするならばいつまでも引き摺るのは疲れるからである。
エアコンの冷房の風を浴びて、元気を取り戻した彩菜が猫みたいにフシャーッと威嚇しながらわたしに飛び付こうとしていた。
「いやだって、いつまでも引き摺るの疲れるし…。彩菜なら大丈夫かなーって。」
「全ッ然大丈夫じゃねぇから!!そう言うのは健太に向かってやれよ!!!」
「ところで引き摺ってるとき彩菜の背中見られてたって知ってた?」
「知らねぇよッ!!!っつーか知ってたんならおぶるなりなんなりしてくれよ!!」
「ホラ、落ち着いてよ。牛乳飲む?胸おっきくなるかもよ?」
「やかましいっ!!!!!」
とか言いながらしっかりと1リットルパックの牛乳を受けとるあたり理性はあるようだ。
ちなみに彩菜は胸がないことをすっごく気にしてます。
わたし?Dくらいあるから特には。
「あ。彩菜?」
「んぐっんぐっ……。プハッ…。何だ?」
牛乳を飲んで口の回りに白い髭を作りながら振り向いた。
「さっきみんなに伝えたんだけど、日が沈んで気温が下がってから体育館に移動して軽く練習するけど大丈夫?」
「ああ。ちょうどあたしも考えてたところだ。場所は?」
「この向かいの体育館。ちょうどここがわたしたちの練習会場になってるみたいだから。」
「りょーかい。」
夕方になり、練習に必要最低限なものと財布とケータイと言った貴重品を持って軽めの調整を兼ねた練習の時間となった。
それぞれが思い思いの練習をしたら、連携の意味合いで6分ハーフのミニゲームをやる流れだ。
新チームになってからは本来のスモールフォワードのポジションに加え、彩菜のサポートとしてガードの役割もこなすイメージ的にはレブロン・ジェームズのような立ち位置になった。
ので、シューティングをそこそこに切り上げコーンを置いてジグザグにドリブルしていく練習などで汗を流す。
「よし!!そろそろミニゲームやるぞ!!!」
彩菜の張りのある声が体育館に響き渡るとコート上に散らばっていたチームメイトたちは彩菜の元に集まり、ビブスが渡る。
まずわたしや彩菜と言ったスターターの5人とシックスマンとリザーブの5人とのミニゲーム。
スターターチームがビブスを着用し、リザーブチームはそのままの格好でミニゲームはスタートした。
センターがジャンプボールを弾き、彩菜が弾かれたボールをキャッチしスルスルスルッと滑らかなドリブルでフロントコートへ進入する。
「菜々さんチェック!!」
「菜々さんオッケー!!」
インターハイ初戦で戦うチームの特徴を模倣し、ディフェンスをしているリザーブチーム。
トライアングルツーを基本とし、エースとなる選手にはすぐにダブルチームに出来るように厳しいチェックをしてくるチームらしい。
わたしが彩菜からパスを貰ったと同時にドライブでペネトレイト。
するとすぐヘルプが来て、ダブルチームで囲まれかける。
そこでわたしは……、
ーーーキュッッ!!!
一旦ボールをつきながらその場でストップし…、
ーーーダンッ!!!
チェンジ・オブ・ペース。
再び最高速でディフェンスを強引に振り切り、ボールをリングに叩き込んだ。
「調子よさそうじゃん。」
「長旅でまだ環境に対応してないけど、初戦には間に合うよ。」
これでまだ上がるのかよ…。と苦笑いでディフェンスしにバックコートへ戻っていく彩菜の後ろ姿を見ながらわたしも倣ってバックコートへ走っていった。




