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Catch The Future   作者:
58/90

第57話 ボロボロだ。

「よし、今日はここまでにしよう。」


「え?もうですか?」


もはや恒例となっている鳥井さんとの極秘特訓。


だが、始まってからまだ1時間ちょっとしか経っていない。


今しがたようやく夕陽が拝めるっていう時間帯だ。


「あと3週間で甲子園予選が始まるんだぞ?ペースを落としていかないと。」


そう言いながらキャッチャーミットを外し、外にある喫煙所にスキップ(しているように見えるだけ)しながら出ていってしまった。


……しゃーない。大人しく従っとくか。


あと3週間で最後の夏が始まる…。


何だか野球はやらない、野球は辞めたと言っていた2年前が懐かしいな。


オレはこの高校に入ったときの事を思い出しながら、クールダウンを始めた。



Side D.Amamiya


この時期の雨はなんとも気分を憂鬱にしてしまうものだ。


梅雨がないと言われる北海道地区が羨ましいくらいだ。


横浜総学館高校野球部の室内練習場でピッチングマシーンを相手に打ち込みをしていたのだが、打ち込んでも打ち込んでも気分がノッてこない。


「……今日はスイングで終わらすか。」


溜め息1つついたあと、一定の間隔でボールを射出するマシーンの電源スイッチを切り、野球部に入部直後に買って今や愛用とかした素振り用の鉛の入った木製バットを手に取る。


高校に入学してから数え切れないほどのスイングをこのバットと共にしてきたので、普段握っているグリップの部分が血糊で黒ずんでいる。


そして連日の打ち込みや振り込みで手のひらはマメだらけ。


指先はスイングの際に力を込めてバットを振るので、指先が切れてタコになっている。


中にはマメが潰れたり指先が切れて、血が滲み出ている物もあった。


「……ボロボロだ。」


おかげで最近の授業でシャーペンもろくに持てやしない。


こんな状態になってしてもまだ完璧に松宮を打ち崩せるという感情が沸いてこない。


春のセンバツの映像を誰が見ても松宮は今年の高校野球界No.1ピッチャーだと口を揃えて言うだろう。


そう言えば最近、桜井監督が僕に「あんな怪物投手がいるなんてお前も不運の星に生まれてしまったな」だなんて事を言ってきたのが記憶に新しい。


だけど僕はそんな風に考えたことは1度足りとも無かった。


逆に彼がいたからこそ僕もここまでこれたと思っている。


他のどんなにいいピッチャーと対峙しても何の感情も沸いてこない。


でも松宮ならきっと…。


手に巻いていた緩んだテーピングを巻き直し、バットを握った。


ーーー今日は立てなくなるくらいまでバットを振ろう。


そう心に決めて、バットを振り始めた。



Side out





「ただいま……って確かオレだけなんだっけか…。」


家に帰ってきて、誰もいないところで菜々がいないことを思い出した。


確か数日前から親戚の家に行ってて、休日となる明日に帰ってくるらしい。


作り置きしてるカレーを暖めてる途中に洗濯を回す。


暖まったカレーを食べて、使った食器をつけ置きにしてその間にシャワーを浴びる。


そこでようやく洗濯が終わったので、パパッと洗濯物を干し終えるともう何もやることがなくなってしまった。


適当にテレビのチャンネルを回しても特に面白くも何ともない芸人が体張って熱湯に落とされたり、数が多すぎてメンバーの顔と名前が全く一致しないアイドルグループの冠番組がやっていたりしていたが興味の微塵も沸いてこないのでテレビの電源を消した。


明日は久々のオフだし、たまには寝て過ごすオフもいいのかもしれない。


そう思ったオレは早めに自分の部屋に上がり、ベッドに入ると同時に部屋の電気を消して布団に入った。


……だが、その時オレは全く気付かなかった。


バッグの中に仕舞いっぱなしにしていたケータイに1件の電話着信とその着信を知らせるイルミネーションがチカチカと光っていたことに。



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