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Catch The Future   作者:
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第56話 最終チェックだ

Side S.Akiyama


「一体何処に連れていこうって言うんです?」


6月中旬。


全体練習が終わったあと、帰ろうとしている石川を呼び止め俺が運転する車に乗り込ませた。


「松宮が秘密裏で練習している場所だ。」


「こんなところで練習していたんですか?」


「今のあいつをグラウンドで練習させたら回りの視線でストレスが溜まってしまうだろう?」


「そうかも知れないですけど、エースが練習に出ないなんて示しがつかないと思いますが?」


「だからあいつとバッテリーを組む主将であるお前を呼んだんだ。」


石川は意味が分からないという表情で、こちらに目をやった。


「夢野からは聞いていると思うが、今松宮は特別コーチの指導の元で練習をしている。その仕上がりの最終チェックをして貰いたい。」


信号が赤から青に変わり、静かにアクセルを踏む。


石川は溜め息1つつき、目線を俺から窓ガラスの向こう側に移した。


「……時間が足りない。と言うことですか?」


「まぁ、そう言うことだ…。着いたぞ。ここだ。」


俺は駐車場に車を停めて、石川と共に市営の室内練習場に足を踏み入れた。


「翔吾さん。お疲れさまです。」


1つ下の後輩であり、甲子園で優勝したときにバッテリーを組んでいた鳥井がちょうど一服しているところだった。


「松宮は?」


「休憩中ですよ。何やらガールフレンドと電話しているようですけど?」


「ガールフレンド…?まぁいい。石川、あとは頼んだ。」


後ろで待機していた石川に親指で先に入ってろとジェスチャーを送り、鳥井に1度頭を下げてから一足先に室内練習場に足を踏み入れた。


「仕上がりは?」


清峰高校野球部監督として単純かつ最も気になっている質問を鳥井にぶつけてみた。


すると、コーヒーの缶の中にタバコを捩じ込んだあと真剣な目付きで答えた。


「仕上がりはよくて8割くらいですね。課題だったストレートの質は春先とは比べ物にならないくらい向上しています。ただ…。」


「ただ?」


「これさえ聞けば仕上がりは100%になります。翔吾さん…、あなたが現役時代の時の決め球…。彼に教えますよ?」


タバコを吸わない俺は近くの自販機で買った缶コーヒーを開けて、しばらく考えてから…。


「……お前の好きにしろ。」


缶の中身を一気に煽った。



Side out





「うん、じゃあまた家に着く直前になったらまた連絡する。……うん。じゃ。」


菜々からの電話を切り、ボトルの飲み物を飲もうとしたら…、


「おい。」


「ヴぁいっ!?」


いきなり後ろから話し掛けられ、変な声と共に身体がビクッ!!と痙攣させた。


誰だ!?オレの背後をとったやつは!?


後ろを振り向くとそこには石川が立っていた。


「練習は?」


「さっき終わって秋山先生に連れてこられたとこだ。」


何だか少し機嫌が悪いときの話し方だ。


「そういうお前こそ練習はしてたんだろうな?」


「おうさ。センバツが終わってから少したってからほぼ毎日やってたぜ。」


すると石川はエナメルバッグを置いて、その中からキャッチャーミットを取り出しさっきまで投げていたマウンドの方向を無言で指差した。


投げてその言葉が嘘じゃないってとこを証明して見せろってことか…。


「最終チェックだ。1球で証明してみせろ……もし腑抜けたボールや気の抜けたボールを投げ込んだらエースナンバーは返上してもらうぞ。言っとくが異論は認めねぇからな。」


「……防具つけろよ。」


「いらねぇよ。今のお前のボールなんてたかが知れてるからな。」




Side K.Ishikawa



健太はムッとした表情でマウンドに上がった。


ロジンバッグに手をやり、フッと息を吹き付けて指先に付きすぎた粉を粉を吹き飛ばす。


「練習球は?」


「さっきまで投げてたから肩はとっくに出来てる。……行くぞ。」


健太が投球モーションに入った。


さて、甲子園の疲労がどれだけ抜けたかお手並み拝見といこうか。


ゆったりとしたモーションで足を高く上げてしっかりとタメを作ったあと、スッと投げる方向に向かって真っ直ぐにステップを踏み出す。


右腕が身体の幅の中に隠れてギリギリまで姿を現さない、相変わらずタイミングが取り辛くボールの出どころが読めないフォームだ。


そこから骨盤の横回転身体の縦回転が加わったことにより一気に加速。ボールが握られた右腕を力強く振り切った。


室内練習場に敷き詰められた黒土の砂塵を巻いて俺の構えるミット目掛けて唸りを上げてくる。


まさか……、このボールの軌道は!?



Side out



ーーードパァァァァッ!!!


自分が投げたボールは構えられたミットに寸分の狂いなく吸い込まれていき、室内練習場内は梅雨時期特有の湿った空気を吹き飛ばすかのような乾いた捕球音が響き渡った。


それを受けた石川はボールをキャッチしてからしばらく動かなかった。


「……疑ったことは謝るわ。気持ちの乗ったいいボールだ。」


「それはどーも。」


ミットの中に収まっていたボールを右手に握り変え、軽く返球してきたので右手のグラブでキャッチする。


「それにしても今のボールの威力と制球力コントロールは一体…?」


「練習の成果とだけ言っておこう。」


鳥井さんとのマンツーマンで着目してきたフォームの改良を行うことにより、制球力コントロールとボールの威力は飛躍的に伸びた。


今まで全力で投げていたボールが8割の力で投げることができるので、その2割の分のスタミナを抑えることができるって言うわけだ。


それと実は鳥井さんとのマンツーマンはこれだけでは終わらない。


「石川?実はお前にだけ見て貰いたいボールがあるんだ。」


「なんだ?」


「1つはこれで、もう1つは……。」


石川を呼びつけ、グラブの中でその2つの球種の存在を明かした。


全ては天宮との決着と甲子園春夏連覇のために…。



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