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Catch The Future   作者:
50/90

第49話 待っていたぜ

なんてこった。


この回さっきのバッターを抑えることが出来れば、ランナーがいない状態で伊丹を迎えることができたっていうのに初回から割りと飛ばして投げてきたツケが今ここで回ってきてしまい、レフト線ギリギリにヒットを打たれてしまった。


そしてここで、伊丹が右のバッターボックスに入る。


厳つい風貌も相まって並大抵ではない威圧感が甲子園の空気を支配する。


0ー0の8回裏、ツーアウト2塁。


先程のヒットにより試合の流れがわずかだが、風祭学園の方に傾きかけている。


この嫌な空気を断ち切り、流れを引き寄せるためにはここを無失点に切り抜けるのは絶対条件である。


さらに理想を言えば集中力を高めている伊丹を三振に切って取るのがこのシチュエーションで考えられる最高の結末であろう。


春の甲子園決勝戦の終盤戦だけあって、観客のボルテージは最高潮まで高まっている。


観客の地鳴りのような歓声は空気を揺らし、その振動バイブレーションが身体の芯の奥底まで振動する。


心臓の鼓動と回りの大歓声が混じり、今まで数えるほどしか感じたことのない気持ちの昂りが沸いてきた。


試合が決まりかねないような大ピンチからくる極限の緊張感がこれだけ気持ちが昂ってくるなんて、思わず癖になってしまいそうだ。


「楽しんでこーぜ…。」


自分に言い聞かせながら、サインを覗き込んだ。


初球はスライダーというサインだったが、オレは首を横に振る。


2度、3度と首を横に振り続けてようやく投げたいボールのサインが出された。


セットポジションを取ってから、首だけをセカンド方向へ向けたがセカンドランナーは動く気配は無い。


チームの4番にこの勝負を委ねたと言うことだろうか…。


とどのつまり伊丹対清峰高校バッテリーの一騎打ちと言うことだ。


セカンドランナーが動かないと言うことで通常よりも足を高く上げて、軸足にしっかりと乗る。


この場面では制球力コントロールよりもボールの球威、スピードを優先させたかったからだ。


オレが投じた初球、ストレートがミットが構えられたインコース膝元より少し高めに浮いた。


ーーーキィィィィン!!!


ヤバイ!少し甘く入っちまった!!!


芯で捉えられた打球はレフトポールに向かってグングン伸びていく。


頼む…。キレてくれ…!!!



『ファール!!!』


ポール際で僅かにキレたお陰で、ファールとなり甲子園からは盛大な溜め息が漏れていた。


た……助かった…。




Side K Ishikawa


あっぶねぇ…。


続く2球目は外角へ急激に逃げていきながら曲がるスライダーをライト線に運ばれ、結果的にはファールとなったが思わず冷や汗が出てくるくらい焦った。


伊丹は完全に健太のボールにタイミングがあっている。


今の伊丹なら多少のボール球なら強引に打ってくるだろう。


となると、出し惜しみをしている場合じゃないな。


ホントはこのボールを使わないで勝てればよかったけど、事情も事情だ。


健太、例のボールここで使うぞ。




Side out




石川がこの試合で始めてみるサインを出した。


待っていたぜ。この瞬間を。


思わず反語を使ってしまうほど待ちに待ち焦がれたボールだ。


サインを受け取ったオレは一旦右腕を上げて降ろしてからセットポジションの体制から足を上げて、投球モーションに入った。


石川はオレが投げるべき場所にミットを構える。


真ん中低め。もし投げ損って甘いコースに投げ込めば絶好のホームランボールになりかねない。


失投が許されない勝負の1球、オレは構えられたミット目掛けて全力で腕を振り切った。




Side T.Itami


松宮が俺に対して投じた3球目、真ん中の甘いコースに投げられた。


勝負を急ぎすぎ、投げ急ぎすぎててしまったか?


何はともあれこのボールは貰った!!


俺は終盤だというのに未だに球威ある松宮のストレートに押されないようにスイングしようとした。


だが、松宮のストレートは途中でブレーキがかかったかのように失速する。


慌ててスイングを修正しようとしても間に合わず、俺がスイングし終わったと同時にキャッチャーのミットに収まった。


あー…。チェンジアップだったか、これ。



Side out




「ストライク!バッターアウト!!」


「おっしゃぁぁぁあ!!!」


今日最大のピンチを三振に切ったオレは両手を握り締め、大声を張り上げる。


いつもならすぐにベンチに引き下がるのだが、少しでも試合の流れを引き寄せ相手にプレッシャーを与えるためこのように叫んでいるのである。


「「ナイスピッチ!!」」


「「「バッター点取ってこうぜ!!」」」


「この回で決めんぞ!!」


「「「っしゃぁぁぁぁあ!!!」」」


まるで水面に落ちた水滴のように波紋は広がっていき、チーム全体でこの試合に追い風が吹くように盛り上げていく。



両チームの力が均衡している春の甲子園決勝戦は観客・選手ともに最高潮のボルテージを保ったまま、大詰めの9回に入ろうとしていた。




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