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Catch The Future   作者:
48/90

第47話 後悔しない道?

「『伊丹いたみ 貴弘たかひろ』…ねぇ。」


準決勝を戦った次の日、昨日とはうってかわって雲一つない青空が広がっている春の午後。


午前中に行われた準決勝第2試合の様子を録画していたらしく、今ビデオで確認している。


「風祭学園打線の中核を担っていて、見た目とは裏腹に柔らかいバッティングもある一方で、狙い球はストレートだろうが変化球だろうが捉えられたら力で運んでくぞ。甘く入ったら間違いなくスタンドへ運ばれると思え。」


この試合のスコアブックをつけながら、そう言ってくる石川。


テレビの画面には、伊丹の3打席目を迎えており同じ高校生同い年とは思えないくらい鍛えられた身体を揺らして打席に向かっている。


1打席目はツーシームを詰まらせながらも外野まで運んでいて、2打席目はタイミングを外しにきたチェンジアップを上手く拾ってライトオーバーの長打を放っている。


3打席目は…、あ。今打った。


打った瞬間にホームランだと分かるようなアーチを描いて、そのままレフトスタンドに叩き込んでいた。


「力で捩じ伏せようとは思わず、タイミングを上手く外してかわしつつ四球フォアボール覚悟で厳しく攻めていくしかないな。」


そう言い残して石川はリモコンを操作して伊丹だけじゃなく、他のバッターの癖を見つけるために映像を何回も巻き戻しては再生させたりスロー再生したりし始めたのでミーティングルームから出る。


確かにここまでこうもフルスイングされちゃあなぁ…。


うーん…。どうしたもんかなぁ…。


伊丹を抑えるビジョンがどうしても浮かんで来ず、どうしたらよいのか分からないオレは少し伸びてきた頭をガシガシ掻きながら部屋に戻る。


「あ。秋山先生お疲れさまです。」


「……松宮か。」


部屋に戻る途中のエレベーターに乗ると、ちょうどそこには秋山先生も乗り合わせていた。


オレは秋山先生と同じ階の部屋なので、先にエレベーターに乗っていた秋山先生がエレベーターのボタンを押していたのでやることがない。


「肩肘の疲労はどうだ?」


「石川が疲労を考えたリードしてくれてますし、今日はノースロー調整を取らせて貰ったので明日は大丈夫だと思います。」


「そうか。石川もああ見えて心配性だからな…。」


この人も現役時代ピッチャーとして、甲子園優勝してるんだよなぁ…。


さらにこの人とバッテリー組んでいたのが鳥井さんだというのは信じがたいけど、本人たちがそう言っているのだから本当なんだろうな。


「秋山先生?少しお聞きしたいことがあるんですけどよろしいですか?」


「なんだ?」


オレは一人の高校野球を見てきている指導者として、一人の野球人として清峰高校の監督である秋山 翔吾という人にどうしても聞きたいことがあった。


「現段階のオレと横浜総学館高校と試合をしたとしたらどうなりますか?」


まさかこんな事を聞かれるとは思っていなかったであろう秋山先生は、少しだけ目を見開いたがすぐさま鋭い目付きになった。


「それは清峰高校の監督としてか?それとも一人の野球人としてか?」


「秋山 翔吾という一人の野球人として率直な意見が聞きたいです。」


そう答えると同時にエレベーターの扉が開く。


「他のバッターなら抑えられるかもしれないが、天宮くんを抑え込むのは不可能だ。」













『健太くん?聞いてる?』


電話越しから拗ねたような声が聞こえてきた。


「……わりぃ。聞いてなかった。何だったっけ?」


『もう…。甲子園から帰ってきてから何が食べたいかって言う話でしょ?』


夜の寝る前の僅かな時間に、菜々から電話がかかってきた。


けど、秋山先生に言われたことがどうしても気になってしまいせっかくの菜々との電話に集中しきれていない自分がいる。


『天宮くんを抑え込むのは不可能』…。


今大会を通してそれなりに自信がついてきたものの、まだ天宮がいる領域に足を踏み入れていないことを感じたオレは少しムッとしてしまった。


「なぁ、1つ変なこと聞いてもいいか?」


『なぁに?』


「もしさ、自分の全力を出したとしても勝てるか勝てないか分からないような相手と戦わなきゃいけないってなったらどうする?」


我ながら脈絡もなければなんでいきなりこんな事を聞いたのかと首を傾げたくなるような変な質問だ。


『わたしだったら……後悔しない道を選ぶ…かな?』


電話越しに聞こえてきたのは、またなんともアッサリとした

答えだった。


「後悔しない道?」


『うん。そんな凄い人との勝負を避けてチームが勝っても、わたしならきっと何処かで後悔しちゃうと思うの。それよりだったら思い切ってぶつかって負けた方がいいと思ってる。だってそれを機にまた強くなればいいんだもん。後になって悔やむなら最初からぶつかっていった方が楽しいと思うよ?』


そうか…。そういう考え方もあったのか。


実際その時になってみないと分からないけど、きっといつものオレなら少しでも安全にと言うことで勝負そのものの楽しさというよりもチームの勝利を選んでいたはすだ。


「そっか…。ありがとな。」


『どういたしまして。明日も頑張ってね。おやすみ。』


「おやすみ。」


電話を切って、握っていた左手に力がこもる。


よし…、腹は決まった。


負ければ即引退の夏の甲子園ではなく、負けてもまだラストチャンスが残っている春の甲子園でしかも決勝だ。


これ以上にいいシチュエーションはそうはないであろう。


オレはとある決意を秘め、明日になるのを今か今かとソワソワしてたけど今からソワソワしててもどうにもならないので寝ることにした。




……早く明日にならねぇかなぁ。





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