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Catch The Future   作者:
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第42話 秋の空遠く

鴨川の河川沿いを並んで歩くオレと菜々。


だけど、何を話したらよいのか全く分からない。


自分でも何でなのかは分からないけど、隣に歩いている菜々の横顔を眺める。


ナンパされてるところを助けて初めて会ったときから可愛くキレイになった顔立ち。


黒くツヤのある長い髪をサイドテールにまとめ、止めている水色のリボンが鴨川に吹く秋の夜風によって小さくはためいている。


「………健太くん?」


「っ!?わりいっ!!」


流石に見過ぎたちまったか、それともアスリートとしての第6シックスセンスを感じたのかよく分からんが…。


「ふふっ…。なんで謝るのか分からないんだけど。」


菜々はテンパってしまったオレを見て小さく笑った。


………何だか菜々の笑顔を久し振りに見た気がする。


「それで…オレをここに呼び出した理由は何なんだ?」


外出届を提出したとはいえ、時間に余裕があるというわけではない。


そこで、こんな形で菜々を問い詰める。


けどホントは知っている。というより何となくだけど予想はついている。


「うん…。」


力なく頷いた菜々は、その場に立ち止まってしまった。


「菜々…?おわっ!?」


何かあったのかと心配したオレは、後ろを振り返り菜々の目の前に立ったと同時にオレに向かって抱きついてきた。


「寂しかったよ…。辛かったよ…。」


思っていたよりも小さかった肩を震わせている。


どうやら泣いているようだった。


「健太くんに避けられるようになったあの日から今の今まですごく辛かった。もうこんな辛いのたくさんだよ…。お願い、教えてよ…。わたしは何がダメなの?」


………そこまで思い詰めていたのか。


菜々を傷付けないように遠ざけていたのに、逆に傷付けていた。


オレもとうとう焼きが回ってしまったな…。


泣いている菜々を見ているのは、オレも辛くなっているから空を見上げる。


秋空の遠くに輝いている星が見える。


出会いは一期一会。


よく失恋で落ち込んでいる人に対して、『星の数だけ他の人がいる』だなんて言うけどオレはその言葉が大がつくほど嫌いだ。


星の数だけ人がいるけど、全く同じ星が存在しないように全く同じ性格や人柄の人間だっていないからだ。


目線を秋空から少し遠くに移すと、鴨川公園が見えた。


ここじゃ人通りが少し多すぎる。


「菜々、少しついてきてもらえるか?」


泣いている菜々の右手を握り、鴨川公園に向かって歩き出すオレたち。


「少し長くなるかもしれないし、座りなよ。」


「やだ!早く教えてよ!わたしの何がダメなの!?」


菜々は何時まで経っても話してくれない事に業を煮やし、すごい剣幕で迫ってくる。


「落ち着いてくれよ。その状態でいられると話そうにも話せなくなる。」


「健太くんが話すことに勿体ぶってるからでしょ!?」


「だから今話そうとしてるじゃねぇか。」


「だったら早く話してよ!それともわたしに話せない理由でもあるの!?「いいから、オレの話を聞け!!」っ!!」


少し威圧して言い過ぎてしまったため、息を飲むのがハッキリ分かるくらい菜々はビックリしてしまい、怯えた表情でこちらの様子をうかがっている。


けど、威圧した甲斐があって菜々は静かになった。


オレは1度深呼吸したあと、もう1度大きく息を吸い込み…。






「菜々、オレはキミのことが好きなんだ。」






自分の気持ちに正直になり、思いを目の前の女の子にぶつけた。


菜々は、先程の怯えた表情とはうってかわって驚きの表情を隠せないでいる。


「菜々のことが好きだ。もういなくなったけど、オレのところにいてはキミもオレみたいに傷付いてしまうと思ってあんなことを言ってしまったんだ。」


「それ…、ホント?」


「んなこと嘘で言うかよ。でも、結果的にオレはキミを傷付けてしまった。こんなオレのこと嫌いになったなら遠慮なくフッてくれても構わない。菜々、キミの返事を聞かせてほしい。」


オレはギュッと目を閉じた。


もしこれで菜々にフラれたとしても、それは完全にオレの自業自得だ。それに、素直な心情を吐露した時点でその業を背負って生きていく覚悟はできている。


だが、菜々がいる方向からは返事が聞こえず、オレの元に歩いてくる音。


あぁ、愛想尽かされてフラれるんだな…。


と思ったオレの予想を遥か上を行くことが起こった。


代わりに帰ってきたのは、何か暖かいものに包まれる感覚。


そして、唇から伝わる柔らかいもの。


目を開けると背伸びしながら、目を閉じた菜々がオレの唇にキスしているところだった。


ほんの数秒だったけど、その数秒がとてつもなく長く感じた。


「健太くん、これがわたしの答えだよ。」


「なんで…?だってオレは…「わたしもどこかの誰かさんのことが好きだからだよ!!」…はい?」


涙目なのに顔はトマトよりも真っ赤にしながら叫ぶ姿がとてつもなくいとおしく見えてしまったのは、オレと君たちだけの秘密だぞ?


「え?いつから?」


「初めて会ったときからわたしはキミのことが好きだったの。」


…………マジっすか?


「つまりオレらは両想いだったってこと…?」


「そういうことになるの…かな?」


オレら2人はそれぞれ顔を見合わせていたけど何だか可笑しくなってしまい、全く同じタイミングで笑い出してしまった。


一通り笑ったあと、菜々がオレの目を見据える。


「ねぇ、もう1回好きって言って…?」


あぁ、もう!何この可愛い生き物!!


上目遣いでオレを見ながら小首を傾げる姿に不覚にもキュンときてしまったオレは思わず菜々を抱き締めてしまった。


「きゃっ…。もう、先に言って「ーーー…。」~~~ッッ!!」


きっと自分も菜々も顔が真っ赤になってると思う。


けど、身体に染みるように伝わる温もりから分かることだってある。


オレはこの人のことが好きなんだって言うことが…。



オレたちはしばらく自分たちの愛の深さを確かめるように、ずっと抱き締め続けた。






「これからどうするの?」


「これからって?」


手を繋いで宿舎へと帰る道中、唐突に菜々が口を開いて聞いてきた事に対し理解できなかったオレはほぼオウム返しのように聞き返した。


「その…、お付き合いとか…。」


菜々は顔を赤くさせながら、もじもじしながら答えた。


「あぁ…。わりぃ。それもうちょっと待ってて貰っていいか?」


「どうして?」


どうしてって聞かれてもなぁ…。


「どうしても借りを返さなきゃいけない相手がいるんだ。」


「横浜総学館の天宮くん………だっけ?」


「あぁ。天宮を…、横浜総学館を抑えて甲子園優勝する。今はそれが中心になって生きているようなものだから。」


同じステージに立つべく人種。


その確固たる答えは未だに見つかってはいない。


だが、朧気ながらその答えが出そうなところまでは近付いて来ているような気がしなくもない。


「ふーん…。じゃあ、わたしのお願い1つ聞いてもらってもいい?」


「何だ?」


「春と夏の甲子園決勝のウィニングボールちょうだい♪」


天宮の課題より難しくねぇ!?


「ふざけ!!どれだけ大変か分かってま「おねがぁい♪」ぐぼぁっ!?」


上目遣い+涙目+制服のブラウスの胸元を少し強調するように引っ張って脳トロボイスでお願いされた。


イメージとしては某アイドルアニメのチュン(・8・)チュンだ。


ダメだ…!!


このコンボによってオレの闘争心のライフはもうとっくに0だ!!!


「分かりました。全身全霊懸けて頑張ります。」


「よし♪楽しみにしてるねっ!」


ぴょんぴょんと跳ねるサイドテールを揺らし、繋がれた手を腕ごとブンブン振りながら歩く菜々を見る。


…………この笑顔を見れただけで約束をした甲斐があったかも知れんな。


いろんな感情が入り交じったオレは、気がつくと溜め息をついてしまっていた。

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