第38話 独りよがりの御説教
「今日女バスは練習試合だったのか…。」
「そうなんだよ。新チームが始動してから2週間くらいしか経ってないこんな時期に練習試合組んだりして、うちの監督の考えがサッパリ分っかんねぇんだよなぁ…。」
雨が降っているのに気付いてから15分くらいだろうか。
オレと彩菜はこのスーパーの中にあるパン屋で雨を止むのを待っているところだ。
オレはこれから夜メシだということを考慮し、ホットのエスプレッソコーヒーだけ注文したが彩菜はというとカツサンドにベーコンレタスサンド略してBLTサンド2つにアイスコーヒーを注文してきたので何があったのか聞いてみたらなんと練習試合帰りだったのだそうだ。
腹減ってるのにこんな雨だから仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれない。
「んで?健太はなんでここに?」
「今日の夜メシの買い出し。最近肉料理食べてないなぁと思って肉買いに来たんだ。」
オレが座っている座席の隣のイスに置いてある買い物袋を指差す。
「そう言えば料理できるんだっけか。…顔に似合わず。」
いやいや、人としての必須スキルでしょ。
「そう言えばここ最近さ、気になることがあるんだけど聞いてもいいか?」
なんだ?という前に彩菜が手に持っていたカツサンドを紙ナプキンの上に置いて、一旦アイスコーヒーで口のなかを湿らせてから彩菜の口が開いた。
「あんた、菜々との間になんかあったのか?」
Side A.Fukushima
「………………いや?別に?」
嘘だ。
目の前の男は嘘をついている。
嘘ついたときの癖がどうとか、目線がどうとかという問題じゃない。
それに健太はピッチャーだ。
ピンチの時ほどポーカーフェイスを駆使して動揺などのマイナスの感情を読み取らせないことに長けている。
だが、その健太ほどの男が一瞬、ほんの一瞬だが動揺を見せた。それに、この問いかけに対してかなり間があったからこれはもう確定的だろう。
この男と菜々との間に何かしらの動きがあった。
「最近っつーか、インターハイ直前辺りからあいつの様子がおかしいんだ。そうだな…確か甲子園予選決勝戦の次の日辺りからだったかな?」
「………………はぁ。」
観念したのか、健太は溜め息をひとつついた。
「分かった分かった…。何があったか話す。だけど、これはオフレコで頼む。」
「分かった。」
健太は飲み終えたホットコーヒーのおかわりを注文し、2杯目のホットコーヒーを少し口にしてから話し出した。
「………と言うわけだ。」
話を全部聞いてからあたしが思ったことは………、
「あんたバカだね。」
「なっ………………!!!」
何てバカで不器用な男なんだと思った。
確かに辛い過去があったのは分かった。だけど、それはあくまで過去でしかない。
どう足掻いたって変えることはできない不変の事実だ。
「何度でも言ってあげるよ。あんたはどうしようもないくらいバカだよ。」
だからって菜々を突き放す理由には全くと言っていいほど当てはまらない。
「なに?昔のことを思い出して菜々を傷付けたくないからって言って突き放す?バカも休み休み言いなよ。あんたが頭にボール喰らって病院に運ばれたって知った時菜々はどんな反応示したと思う?」
「いや…、知らない。」
そりゃそうだ。あたしだって全校応援としてバスに乗ったときに知ったんだもの。
「むちゃくちゃ泣いてたよ。これでもかってくらいにね…。あの時は試合中に変なところに連れ去られたってのも知らなかったけど、それを差し引いても純粋な気持ちで心配してくれてたんだぞ?それなのにあんたはあの子の純粋で無垢な純情を踏みにじった。………違う?」
「………。」
何も答えられず………か。
まぁきっかけは作ったし、あとは自分たちで何とかするだろう。
「あたしの独りよがりの御説教はこれで終わり。雨も上がったし、そろそろ帰ろうか?」
「………そうだな。」
健太がイスから立ち上がり、買い物袋を持ち上げている間にあたしはトレイの上に2人分のカップとソーサーを乗せ、カウンターまで返しに行く。
「彩菜。」
「ん?」
律儀に出口で待っててくれた健太があたしの名を呼んだ。
「………ありがとな。」
「礼は事が全て終わったあとにしてくれ。」
あたしは自分で言ったことを思い出し、少し恥ずかしく思いながら健太に背を向けた。
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