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Catch The Future   作者:
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第36話 同じステージに立つべく人種

試合が終わり、横浜総学館高校が一列に整列して校歌を歌っているのを横目に甲子園上空に広がるどん雲りの空を仰ぎ見た。


何だか悔しさを通り越して、情けなくて涙すら出てこない。


アルプススタンドに応援してくれた学校のみんなに挨拶しても、全く涙が出てこなかった。


キャプテンも石川も武田や結城、さらには感情をあまり表だって出さない東條でさえも泣き崩れているなか涙が出てこなかった。


他者から見れば『全力でやっていないから悔しくないのだ』とか批判的な意見が集中するんだろうな…。


それでも泣けなかった。


自分の力が足りてないから…。







ダグアウトから引き上げてくると、監督ともに取材陣に囲まれた。


負けたチームの取材は勝ったチームに比べて短いものなので

監督のインタビューが終わるまで監督の目に入る範囲で、時間を潰していた。


脳裏から離れられない初回先頭打者ホームランが脳を介してビジョン化された。


甲子園に入ってからは調整を繰り返してきて、かなりいい調子だったんだけどなぁ…。


「何で初球で打たれちまったんだろうなぁ…。」


「分からないのかい?」


渋い男性のような落ち着いた声色がオレの耳に聞こえてきた。


振り返ると天宮がそこに立っていた。


「天宮…。」


「やあ。こうやって話すのは初めてだな、松宮。」


いったい何しに来たんだよ。


勝負の世界で勝者が敗者にかけよって話し掛けるのはNGだろうが…。


「残念だけど今のキミのままならいつまでたっても僕を打ち取ることは出来ないと思うよ?」


おうおう。随分とハッキリとモノを言ってくれるじゃねぇの。


「そうか?万が一って可能性もあると思うけど?」


「あり得ないね。」


「どうしてそう言いきれる?」


「さぁ?自分で考えてみなよ…。って他の人だったらそう言うけど特別にヒントを教えてあげよう。」


「?………ヒント?」


「僕とキミは同じステージに立つべく人種だ。とだけ言っておこうかな?」


同じステージに立つべく………人種?


「それがキミの課題さ。次対戦するときまでのね?」


「………………。」


「じゃあ、僕はそろそろ行くね?松宮、僕を失望させないでね。」


言いたいことを言い残してそのままオレの元から立ち去った。


あの口振りからすると技術的な問題や体力的な問題では無いだろうな…。


いったい何なんだ?


オレが負けた理由って………?







翌日、横浜総学館高校の試合に負けたオレたちは学校のバスで兵庫から秋田に向かってバスに揺られていた。


みんな昨日の敗戦から立ち直り、3年生を中心に高校野球の思い出話を後輩たちに聞かせたり思い思い過ごしている。


オレはそんな話の輪の中に入れず、ただただ流れ行く景色を注意深く見ようとせずぼーっとしていた。


(同じステージに立つべく人種って何なんだろう…?)


昨日の試合後、天宮が教えてくれたとんちのようなヒントが頭ん中でぐるぐると渦巻いており昨日の夜は全く眠れなかった。


「松宮、そんなに黄昏てどうしたんだ?」


「キャプテン?」


隣、失礼するなって呟いたキャプテンはオレが座っていたバスの座席の隣にどっかりと座った。


「秋からの約1年ありがとうな。」


「いえ…。」


「歯切れがわりぃなぁ…。なんだ?まさか昨日の試合のことを考えていたのか?」


「まぁ、そんなとこっす…。」


まさか試合直後のことじゃなく、その後の天宮との会話のことで悩んでいるなんて言えねぇしなぁ…。


「俺の高校野球はもう終わっちまったけど、こうして憧れの舞台に立つことが出来たから悔いはない。だから何時までも悩んでないで、悩む暇あったら身体動かせ…。ってな。」


だよな。


野球しか頭ん中が無いオレにとって考えるなんて愚の骨頂だったな。


ありがとうございます。キャプテン。


「ところでキャプテン、進路は?」


「俺か?頭で大学行って野球やるぞ?」


頭で?もしかして一般入試で現役合格目指すのか?


「大丈夫なんすか?色々と。」


学力とか学力とか学力とか。


「ん?前期末2ケタ前半の順位だったし、夏休み勉強できないのは仕方ないけど今年はみんながみんな同じような状態だしな。」


「みんな?」


オレは疑問を口にする。


「何時もならインターハイに行くのは精々2部会くらいだけど、今年は何故か多くてさ…、バド部に陸上部に水泳部に男バレに女バス、柔道にラグビーがインターハイなんだよ。」


え?そうだったの?


自分の事が精一杯だったから他の部会の事情がサッパリ分からなかった。


「まぁそういうこった。」


いつの間にか3年生の先輩方数人がオレの近くの座席に座っていた。


何時からいたんだろう?


「ところでお前ら?家帰ったら何する?」


「家に帰ってからエロゲ。」


「そう言えばキャプテン?お前推薦のエロゲ買って攻略してんのはいいんだけどさ、あの幼馴染なんなの?」


何か目の前でエロゲトークが始まってるし…。


「あー。やっぱりおまえもそう思うか?」


「当然だろ!?何!?『あんたは私の所有物なんだから』って何様じゃゴルァ!!!って感じなんだけど?」


「そこがまたいいじゃねぇか。なんつーか、一途でよぉ。」


「………ちなみにお前ら攻略対象ヒロインで誰か一番好み?」


「ハッ!!愚問だな。そりゃやっぱり………。」


「「クローバーのキーホルダーを大切にしている健気で可愛い後輩。」」


「そりゃやっぱりメインヒロインさんですよ!メインヒロインさん!!」


「「あ!?なに?お前『ち』なんとかさんが好きなの!?バカなの!?死ぬの!?」」


「幼馴染みって言う響きやっぱいいよね…。」


「「ダメだこいつ…。早くなんとかしないと…。」」


何とかしないといけないのは先輩方のエロゲ脳だと思います。


あ。


女バスとか聞いて思い出した。


菜々のやつ元気かな…?



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