第35話 いきなりかよ…
初戦から5日後となった2回戦。
朝から本降りではないものの、ポツポツと雨が降りしきっている。
まるでいつぞやの試合のようだ。
そう感慨深くなるのはきっとこの天気だけじゃないと思う。
横浜総学館高校の絶対的4番である天宮 大輝。
2年振りの対戦となるだけあって、懐かしさとともに緊張なのか武者震いなのか心なしかではあるが身体が震えてもいる。
でも、今日の天宮は予選の時とは違って4番に座っていない。
「いきなり直接対決かよ…。」
恨めしそうに呟きながら、バックスクリーンに写し出されているお互いの高校のスターティングラインナップのところに目をやる。
横浜総学館高校の一番左のところに天宮という文字が写し出されている。
やれやれ…。いきなり前途多難な試合になりそうな気がする。
Side D.Amamiya
松宮…、多分だけど彼がこの試合が特別だと思っているように僕もこの試合は特別だ。
何せ2年振りに甲子園球場という高校野球の聖地でこうやって合間見える事が出来たのだから…。
監督とは前日に話して、この試合だけ打順を1番に回して欲しいと頼み込んだくらいこの試合を待ちわびていたのだから。
おっと、考え事をしているうちにもう整列か。
バットとヘルメットをネクストサークルに置いて、ベンチ前に整列した直後に審判団が出てきたので両チームホームベースを挟んで整列する。
「では、これより清峰高校対横浜総学館高校の試合を始めます!」
Side out
マウンドに上がったオレは規定の球数を投げ終える。
内野陣がボールを回している間に、ユニフォームのポケットに入っているロジンバッグに手をやる。
ポケットから手を引っこ抜くと同時にファーストを守る先輩から適度にこねられたボールを受け取る。
そしてホームベースの方向に目を向ける。
『1番ショート 天宮くん サード天宮くん』
両打である天宮は左バッターボックスに入っている。
甲子園のアナウンスが打順と選手の名前を告げ、審判がプレー開始を告げると甲子園球場内はサイレンが鳴り響く。
そして、第1球目となるストレートを投げ込んだ。
ーーーガキィィィン!!!
………はい?
サイレンが鳴り響いているにも関わらず、オレの耳の中には痛烈な金属音が残っている。
ゆっくりと後ろを振り返ってみると、すぐにボールは見つかった。
だが、そのボールの在処はバックスクリーン右横の階段に当たり高く弾ませているところだった。
Side D.Amamiya
この試合は十中八九と言っても言いくらい横浜総学館高校のペースで進んだ。
初回僕の先頭打者初球ホームランという(少し大人げないような気もするけど…、)先制パンチを喰らった松宮はその後何とか立ち直ったものの試合中盤でうちの打者一巡の猛攻を受けて8失点ノックアウト。そのままベンチへと退いた。
その後出てきたピッチャーでもうちに流れてきた試合の流れを引き留めることはできず、9回表を終えて12ー0と試合を優位に進めることができている。
でも、正直肩透かしを食らったような感覚だ。
あの時の松宮のボールは何か生き物というか得体の知れない迫力があったし、今の松宮のボールは確かに速さと制球力はあの時とは段違いだ。
だが、得体の知れない迫力はすっかり消え失せていて、僕の目には同学年にしては少し速いだけのストレートにしか見えなかった。
まぁ、なんだ?
何が言いたいかって言うと、松宮に対して少なからず失望したってことかな?
最後のバッターとなったキャッチャーの石川くんが打ち上げ、僕の頭上目掛けて飛んできた。
それを難なくキャッチして、この試合を終わらせた。
それと同時に僕たち横浜総学館高校の3回戦進出を決め、清峰高校の夏の頂を目指す挑戦権を失った。
Side out




