第34話 冗談キツいぜ………
「あっちぃ………。関西の夏ってこんなに暑かったなんて知らなかったわ…。」
キャプテンが宿舎の中にある会議室の机に突っ伏して項垂れているのを横目に、明日いよいよ清峰高校の甲子園初戦を迎えるため相手チームの対策をメモをしたノートを読んでいる。
オレは元々関東出身の人だし、関東圏の暑さには慣れているのでさほどは気にならないが、暑いのが苦手なキャプテンやキャッチャーというポジションの性質上動きが阻害されてしまう防具を身につけて試合で最も頭を使う石川は今でもペットボトルを片手にバッテリーミーティングを行っている。
えっと…、相手打線のほとんどがストレートに強い代わりにツーシームなどのムービング系統のボールにはめっきり弱い傾向アリでコースに関係無くストレートなら初球からフルスイングしてくる可能性大…。か。
基本的にストレートを軸に攻めるタイプなので、ストレートに対してブンブン振ってくるチームとは相性はよろしくない。
「となると、明日はスライダーとシュートによる左右の揺さぶりといかにパワーカーブをストレートと誤認させるか………だな。」
ペットボトルの水を飲み干した石川が、簡単ながら明日の配球傾向を口にした。
「そうだな。オレはツーシームやカットボールとかいったムービング系統のボールは投げらんないから自ずとそうなるしかないな…。」
「んじゃ、主体はそれであとは試合の中で臨機応変に対応していこう。」
「おう。」
甲子園初戦8回表
スコア 0ー0。
ーーードパッ!!!
「ットライック!!」
今投げたボールで球数が120球を越えた。
やはりというか、データ通りというかスライダーとシュートによる左右の揺さぶりで徹底的に芯を外したり、カーブで空振りを取ったりしてカウントを整えたあと、最後はストレートで振り遅れを誘って打ち取ってきた。
でも、流石は甲子園代表校だけあって投げ損なったりコースが甘くはいると速い打球がポンポン飛んだけど、後ろを守ってくれている仲間に助けられ何とか無失点に抑え込んでいる。
そしてこの間にもシュートとスライダーとボール球を駆使してバッターを追い込む。
「ぉぉらぁっ!!!」
渾身の力を込めたせいか高めのボールゾーンに浮いてしまった146km/hのストレートをバッターは空振り…、
「ットライック!バッターアウト!!」
「タイム!!」
三振に取ったところで、秋山先生がタイムを取ったあとベンチからグラウンドに出てきた。
どうやらピッチャー交代で、オレはお役御免ってところだろう。
ブルペンから走ってきた1年生ピッチャーにボールを手渡し、オレはベンチへと退いた。
「松宮ナイスピッチ!!」
「あとは俺たちに任せてゆっくり休んでろ!」
ベンチに戻ると、まだ試合に出ていないメンバーが今日のピッチングに対して労いの言葉をかけてくれた。
「健太さん、ダウン付き合いますよ。」
間髪入れずブルペンで他のピッチャーのボールを受けていたキャッチャーがダウンに付き合ってくれるみたいだ。
「おう。よろしく頼む。」
その後試合はその裏に4番に座る東條のライトへのホームランと5番に座るキャプテンの2者連続となる左中間へのホームランが決定打となり、2回戦進出を決めた。
今日の第4試合で行われた横浜総学館高校の初戦。
オレたち2年生とマネージャーの夢野を含めた6人はオレと東條が寝泊まりしている部屋のテレビで試合を見ている。
「さて、昨夏の王者がどんな試合を見せてくれるか…だな。」
石川がスコアブックとボールペン片手にイスに座り込んだ。
どうやらこの試合のスコアをつけて役立てようとしているみたいだ。
オレもテレビ越しとはいえ、天宮の復活したところをまともに見るのは初めてなので少し楽しみなところもある。
が、その甘い考えは直ぐ様引っくり返ることとなった。
「「「………………。」」」
「冗談キツいぜ………。」
スコアブックをつけ終えた石川のぼやきがハッキリ聞こえるほど、静まり返った部屋の中にいるみんなは開いた口が塞がらない。
それもそのはず。
相手も厳しい予選を勝ち抜いてきた学校で、それも甲子園の本戦だというのに14ー0という大差で2回戦進出を果たしたからである。
圧倒的。
これ以外の言葉が見つからない。
どんなピッチャーにも対応するだけでなく、マウンド上にいるピッチャーのプライドをもへし折らんばかりの破壊力を持った攻撃力に、堅実であり難攻不落ともとれる守備力。
そして何より不運とも神様の気紛れとも言うべきか………。
『圧倒的大差を付け、2回戦進出を果たした神奈川県代表横浜総学館高校の次の相手は抽選の結果、秋田県代表の清峰高校に決定いたしました!!』
この現在の高校野球最強ともとれる横浜総学館高校が2回戦の相手となった。




