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Catch The Future   作者:
34/90

第33話 交差点

「………これがキミがこの病院に運ばれてきてから今まであった出来事の全てだ。」


「そうですか…。」


オレがこの病院に運ばれた後の経緯を話してくれた。


丸一日眠っていたこと。


昨日の準決勝は大差で勝ち、今日の決勝戦もサヨナラ勝ちというドラマを演出して甲子園出場が決まったこと。


そして昨日の騒動を引き起こした黒幕が新川で、今は警察官立ち合いの元事情収集をしていること。


この件に関して高野連は清峰高校に全権を委ね、清峰高校は新川を退学より重い罰である在籍除名されたことを余すことなく教えてくれた。



別段驚くって言うこともなく、まぁぶっちゃけ言うとするなら『へぇーそうなんだー。』というこれまた小学生並の感想しか出てこない。


「と、そんなとこだ。んじゃ俺は仕事があるから帰るけど、次のお見舞いに来てくれた人の相手にでもなってやってくれ。」


飄々と、だけどどこかこれから起きることを予想して意地の悪い笑顔を浮かべながらオレのいる病室から出ていった。


そして、鳥井さんと入れ替わりで入ってきた人物を見て二度目を丸くせざるを得なかった。


「………菜々?」







すっかり日が傾き、今日も1日青かった空をあかね色に染め上げる一方でカラカラカラと車イスに押されて病院の中庭に連れてこられた。


病室に入ってきて早々に今まで見たこともないような顔付きで、『お散歩に行こ?』なんて言われたら黙ってついていくしかないだろう。


ついていくって言っても車イスに乗せられ、それに車イスの操作の主導権を握られているのでオレに抗うということはできない。


一応ナースステーションにいた看護師の人や今日の夜の回診の担当の若い女の看護師さんに説明して、外の空気を吸ってくると言っておいたので夕食の時間までには戻れる…とは思う。


………それにしても、何だか気まずいなぁ…。


オレ自身甲子園予選が始まってから、ほとんど菜々と話していなかったからだいたい2週間ぶりの会話のはずなのに何をはなしたらいいのかサッパリ分からない。


それに鳥井さんの話だと準決勝の試合中、奈緒ねぇといっしょに人質に取られていて危なく暴漢に性的行為の被害に合いそうだったとか何とか。


「………具合の方は大丈夫なの?」


「おっ!?………当たりどころがよかったから2、3日安静にしてりゃ元気になる…と思う。」


考え事をしていたので不意を突かれてしまい、変な声をあげてしまった。


「そう…。………聞かないの?」


何を?なんて聞く方が野暮ってもんなんじゃないのかそれは。


「別に?それとも何だ?聞いて欲しかったのか?」


オレは車イスに乗り、自分の視界に収まる範囲で会話しているため菜々の声は聞こえてもどんな顔や表情で話しているかなんて分からない。


「………。」


何も言葉を発しず黙ってしまった…。


さっきの言い方が少し強く言い過ぎちまったかな?


「まぁ、なんだ?心配かけてごめんな?」


オレは車イスのブレーキとなるレバーを引いて、立ち上がる。


そしてそのまま後ろのハンドルで車イスを押していた菜々を引き寄せ、そのまま優しく抱き締める。


「…よ…。」


「へ?」


「すごく怖かった…。健太くんが頭にボールをぶつけられて倒れたときわたし…健太くんがもうわたしの目の前からいなくなるんじゃないかって…。怖い男の人に服を切られて、何度も何度も助けを呼んでも誰も来なくて…。」


「………。」


「でも、他の男の人が助けに来てくれて………、健太くんも無事で…。わたし…、わたし………。」


そうか…。


オレは知らず知らずのうちにこの子を追い込んでしまっていたんだな。


オレと出会ってしまったことで。


オレと変に関わってしまったことで。


「なぁ…。」


2年ほど前、一人の幼馴染みをめちゃくちゃにしてしまったことを思い出し目の前にいる大切な友達を目の前にして…言い放つ。





「オレたち、もう顔を合わせない方がいいのかもな。」






Side N.Kamiya



え…?今何て言ったの?


健太くんと………合わない方がいい…?


「ねぇ、なんでそんなことを言うの…?」


なんで?教えてよ………。


「昔、オレは1人の幼馴染みの人生をめちゃくちゃにしてしまったことがあるんだ。それが少なからず今回みたいなことに似ているんだ。だから………。」


健太くんはどこか申し訳なさそうに、言いづらそうに答える。


だけど、わたしがそんな解答で『はい、そうですか』なんて答えられるわけないじゃない!!!


「だから…なに?その幼馴染みの子の二の舞にしたくないから近付くのをやめろって言うのはおかしいでしょ!?」


わたしは健太くんを突き飛ばす。


健太くんは少しだけよろめいたが、何とか両の足で踏ん張ってわたしを見据える。


「それにわたしが言うのも何だけど、わたしがいなければきっと健太くん困るよ?朝練とか部活から帰ってきてからご飯を作ったり洗濯をしたりすると大変でしょ?」


きっとこのままだと壊れちゃうよ…?


「それくらい自分でできるさ。菜々がご近所さんだと知ってから今の今まで心のどこか依存していたのかも知れないし。」


もうダメだ。


わたしこれ以上キミの口から何も聞きたくない。


「そう…。わたしがいなくても大丈夫なんだよね…。」


でも最後の最後、藁にもすがるような思いで振り絞った言葉を口にする。


「ああ。大丈夫だ。」


が、健太くんの返答で何かが壊れた。


「そう…。じゃあわたし帰るね…。お見舞いのお土産看護師さんに渡しといたから。」


もう2度と交わることがないであろう交差点が今、粉々に砕かれた…。



Side out




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