第32話 Out Cast
Side S.Akiyama
あのあと松宮は救急車に乗せられて病院に直行した。
みんなはこのプレーで動揺するかと思いきや、怒りをバットに乗せてそれぞれが鋭い打球を飛ばす。
その結果、この回だけで打者三巡一挙15得点を挙げた。
特にキャプテンと石川はピッチャーに当たるか当たらないかの瀬戸際をライナーで狙って打っていたように見えたけど、当たらなかっただけ安心した。
「お前ら、よく繋ぎに繋いだな。」
守備に着く前に円陣を組み直す。
試合に出ているメンバーだけじゃなく、ベンチで出番を待っているメンバーみながギラギラと目の奥を輝かせている。
「松宮が戻ってくるまで、みなでカバーしていこう。」
「「「おうっ!!!」」」
大きく返事をした選手たちはベンチに、自分の守備位置に向かった。
外のことは外にいる人間に任せて、俺たちは俺たちの仕事をするだけだ。
Side out
Side Y.Torii
「さっさと吐けやゴルァ!!!」
「分かった!言います!言いますから!!」
自白するように脅し始めてから数分後に、執行していないもう一人のチンピラの首元を締め上げるようにしてからようやく自白する気になった。
話を聞くとこの騒動を引き起こした黒幕は今現在秋田一高のスタンドの上段にいて、私服姿でいるそうだ。
「そうか。じゃあ、お前は寝てろ!!」
用件を聞き出し、用済みとなったもう一人のチンピラの鳩尾に膝蹴りをお見舞いさせる。
っと、その前に…。
「ちょいとそこのお嬢さん?」
俺はいったん自分の車のなかに置いておいた紙袋に入った私服を襲われていた女性2人の下着を極力見ないようにして渡す。
「え…?」
私服姿の女の子の方が心底ビックリした顔でこちらを見る。
さすがにいつまでもボロボロのままでいられても困るし、ここに性犯罪者がいないとも限らないからな。
「紙袋んなかに名刺が入ってるから、落ち着いた頃に返しに来るか名刺の住所に送ってくれ。」
「あ………あのっ!ありがとうございましたっ!!」
清峰高校の制服の女の子にお礼を言われたが、俺はただ手を上げるだけにして元凶がいるスタンドのところまで歩いていった。
Side out
Side 元凶
松宮の頭部直撃により退場し、それに絶望した女2人を脅して欲望のままに犯すというのがプランDのはずなんだがいつまで経っても連絡が来ない。
何が起きたのかこちらからは行動できないので、電話を待っているのだが…。
「あー…。ちょっとそこのお兄さん。」
「あ?」
俺様の目の前に現れたのは、スーツの下にワイシャツを着た30代くらいの男とクールビズ仕様の服装の男の2人組だ。
「キミ、清峰高校の生徒さんでしょ?こっちは秋田一高の方のスタンドのはずじゃ………?」
何で俺が清峰高校の生徒だって分かるんだ?
「いやいや、お………僕はこの試合を見に来た一般の高校野球ファンですよ?」
「そう?ところでさっき左中間スタンド辺りから何か光ったんだけど、何だったんだろうね?」
「刃物か何か持ってたんじゃないですかね?ハハハッ…。」
「………何で刃物って分かった?」
………え?
「あの角度なら車のフロントガラスやボデーとか銀マットと言った様々な要素があるにも関わらず、なぜキミは刃物と答えたんだい?
………清峰高校3年硬式野球部の新川 恭介くん?」
スーツを着た男が俺様の名前を言い切った。
なっ!?なぜ俺様の名前を知っている!?
はっ!?もしかしてこの人は月刊高校野球の秋田県支部の人かッ…!!
クソッ!かくなる上は………!!!
俺様はポケットに忍ばせていたスタンガンを手を伸ばそうとしたが、手首を捻られながら捕まれた。
「警察だ。キミを脅迫、拉致監禁及び危険物所持の疑いで現行犯逮捕をさせてもらうよ?」
クールビズ仕様の服装の男の手には警察手帳が握られており、俺様は両手首を合わせるように手錠をかけられ私服警察官の後ろについていくこととなった。
Side out
薬品独特の臭いが鼻の奥に突き刺さり、その違和感が気になってしまい目を覚ます。
まず視界に飛び込んできたのは真っ白い天井。
横を見てみるとカーテンで四方を囲っていた。
ここって………病院か?
あ!そうだ!試合はどうなったんだ!?
「………っつぅ…。」
すると鈍い痛みが頭から神経を伝い、オレの身体を支配する。
どうやら身体は今は寝ておけって言っているみたいだ。
「お。起きたか。」
オレは以外な来客者の登場に目を丸くせざるを得なかった。
「と………、鳥井…さん?」




