第30話 断罪
Side K.Ishikawa
「大丈夫か!?松宮!!」
ぶつけられたということもあって、痛みを和らげるためのコールドスプレーを持ってベンチから飛び出した。
利き腕の右肘にぶつけられた松宮は、言葉こそ発しなかったが脂汗と冷や汗を額に浮かべながら痛みを堪えていた。
「大丈夫だ………。サンキューな、石川。」
右肘をコールドスプレーで冷やしながら1塁に向かう松宮は無理矢理笑顔を作っていた。
やせ我慢が下手なやっちゃなー…。
でも、松宮が大丈夫ってんなら大丈夫なんだろう。
俺はコールドスプレーをユニフォームのケツポケットに突っ込んで、ベンチに戻った。
Side out
Side ???
いやあ愉快愉快。
痛みに顔を歪ませるも、チームメイトが自分のところに来たら何ともねぇよ。と言わんばかりに振る舞うその姿があまりにも滑稽過ぎて顔がにやけてしまう。
だけど、貴様への仕打ちはまだまだこんなもんじゃ終わらせないよ?
破滅への道をゆっくりと味わいながら堕ちろ、松宮 健太…。
Side out
Side Y.Torii
ピッチャーが投じたボールがキャッチャーのミットに収まるが、ボールの勢いに押されてミットが動いてしまった。
「ボール!!」
キャッチャーは審判の判定を聞く間もなくピッチャーのボールをキャッチした瞬間、ファーストへ牽制球を投げた。
ここまでなら、足もある松宮くんへの牽制に見えるだろう。
だが、ここからが問題なのだ。
タッチの場所がさっきから先程の打席でぶつけられた松宮くんの右肘付近に集中しているのだ。
この行為は松宮くんをツブすための故意な行動だというのは野球の関係者はおろか、試合を見に来ている両校の応援団の目でも明らかに故意だという行動だ。
それにファーストのベースコーチが抗議しても、1塁の塁審は辞めさせるどころか聞く耳も持っちゃいない。
最初はポーカーフェイスを装い何とか痛みを堪えていた松宮くんの顔がどんどん歪んでいき、今では痛みを歯を食い縛る事で堪えている。
観客もなかなか試合が進まないことに腹を立てている人もいるが、いくら外野が騒いだところで試合にはあまり影響が出ないのでもうお手上げ状態に近い。
俺ができることと言えば、松宮くんの右肘を始めとした身体がこれ以上傷付かないことを祈るだけだ。
その願いが通じたのか、4番に座る東條くんがライトスタンドへ先制となる三点本塁打を叩き込んだ。
あとは何事もなく試合が終わってくれればいいのだが…。
Side out
右肘にボールをぶつけられてから、相手チームは攻め方を変えてきた。
今までは打てると思ったコースはどんな球種でもスイングしてきていたが、甘いコースに投げ込んでも追い込まれるまではとにかくボールを見続けるスタンスに変えてきた。
追い込んでからは狙い球を絞って、狙い球が来るまでひたすらカットし続けるようになった。
そのお陰で7回が終わって球数がどんどん嵩んでいっていた。
さすがにネチネチと攻められ続けたので、ベンチに戻ると立つ気力を失いベンチに倒れこむように座りたかったが生憎この回の攻撃はオレからの打順から始まる。
つまりだ、直ぐ様バッターボックスに向かわなければならないのである。
疲れで足が棒になってはいるが、弱音を漏らさずのバッターボックスに向かった。
Side ???
チッ!!!
なかなかしぶとい野郎だ!!
俺は目の前の男の姿を見て、苛立ちを隠せなかった。
俺の計算なら今ごろ松宮の身体はポンコツになっているはずなのだが、疲れの表情を見せているだけでバッターボックスに向かっていた。
だが、松宮もここで終わりだ。
俺は着ている制服のズボンのポケットからケータイを取り出し、とある番号を押した。
ワンコール、ツーコールと鳴った電話の向こう側から応答があった。
『はい?………さん?』
「俺だ!!プランDの用意だ!!今すぐに!!!」
それだけを伝えた俺は通話を切り、乱雑にケータイをポケットに戻した。
お前なんかが背番号1をつけて試合に出てんじゃねぇよ。
貴様がいなければ今ごろそこに立っていたのは俺様の筈だったのに…。
俺様から背番号1と野球を奪った罪を、この場で裁かれろ………!!!
Side out
「ボール!!スリー!!!」
アウトコースに大きく外れて、ボールカウント3ー0。
どうやら秋田一高バッテリーはオレとの勝負を避けるようにアウトコースに大きく外したところにしか投げ込んでこない。
敬遠するような状況じゃないのに…、もしかしてこの試合捨てる気か?
一旦左肩にバットを乗せ、ピッチャーがモーションに入る前にバッターボックス内にて構える。
3ー0だし、ストライクが来たところで無理に打ちにいってアウトカウント1つあげるつもりはさらさらないのでこのボールを見送ろうとした。
すると、そこには信じられないものが目に飛び込んできてしまった。
左中間の方角から、黒ずくめの男たちに服をナイフか何かで切り刻まれ素肌が剥き出しになり、首筋に光るナイフのようなものを当てられている奈緒ねぇと菜々の姿を見てしまった。
太陽の日光がナイフで反射され、反射された俺の両目に突き刺さり思わず両目をキツく閉じた。
その直後………、
ーーーバギャッッッ!!!!
何かが割れる音と共に今まで生きてきた中で経験したことの無いような衝撃がヘルメットを通じて頭の中を強烈に揺らした。
いっ………た…い、な………………に………が?




