第29話 異様な雰囲気と…
何やら球場内が異様な雰囲気に包まれている。
球場に不審者が来たっていう事もなければ爆破テロの予告もされていないはずなのに…。
「何だか空気がピリピリしてるな。」
キャッチャーだが、うちの不動のリードオフマンというか清峰高校の核弾頭として居座る石川がヘルメットを被りながら呟く。
「気のせいじゃないかな…って言いたいけど、ここまで露骨に張り詰められてるとかえって気が滅入るよね。」
2番に座る結城もどうやらこの空気に対して、違和感を感じているようだ。
「…俺たちは俺たちのプレー、するだけ。」
「そうだな。俺たちには直接関係しないんだから、気にせずにプレーしよう。」
不動の4番である東條(走攻守に長打力を兼ね備え、さらにチャンスにも強い6番の武田がいつも通りのプレーをしようとチームにとってもオレにとっても心強い発言をした。
「だな。松宮、今日も頼んだぞ。」
3番に座るキャプテンが背中をバシッと叩いた。
根拠の無い何気ない会話なのに不思議と安心感が湧いてくる。
「そうですね。今日も打球が飛んだときはよろしくお願いします。」
「「「おう!!!」」」
Side ???
俺はとある女子生徒をプリベイトケータイを使ってとある場所に呼び出すメッセージを飛ばしたところでグラウンドへ目を向ける。
くっくっく…。
くだらない友情ごっこを見てしまい、思わず笑ってしまった。
俺はこの試合の様子を見守るため、球場に足を運んでいる。
3塁側である清峰高校のベンチでは試合直前に、忌々しい憎き松宮や無能なキャプテンが中心になってチームの士気を上げていた。
見ていると、ムカつきすぎてへどが出そうだ。
『これから準決勝第一試合を行います。』
さぁ、松宮よ…。
今日このグラウンドが貴様の墓場となるのだ…。
ハッハッハ…。
「ハァーッハッハッハ!!!」
Side out
Side D.Amamiya
「天宮くん!3季連続で甲子園に出場するに当たって何か一言を!」
「そうですね。先輩たちと掴んだ大舞台にまた立てるんだというのが率直な気持ちですね。」
「ところで月刊高校野球の記事を読ませてもらったけど、対戦したいピッチャーのところだけよく分からなかったんだけど天宮くんから見てそんなにいいピッチャーなのかな?」
「はい。すごくいいピッチャーですよ。僕自身すごく楽しみにしているくらいですから。」
松宮、僕は一足先に甲子園という舞台でキミを待っているよ?
球場から学校へと帰るバスに揺られながら、秋田県の甲子園予選の速報を見る。
だが、高速道路のトンネルの中と言うだけあって電波が安定しない。
みんな甲子園出場が決まっただけあって、少しだけバスの中が騒がしい。
けど僕はイヤホンを耳に挿し、音楽を聴いているため自分の世界に入ることができている。
ようやく高速道路特有の妙に直線距離が長いトンネルを抜けたところでケータイの電波が安定した。
えーっと…。秋田一高と清峰高校の試合っと…。
ようやくアクセスされ、準決勝第一試合をタップ。
試合は中盤の5回裏、0対0と画面越しからでも緊迫とした投手戦の様子が伝わってきた。
Side out
「はぁ…。」
いやぁ、さすが準決勝だけあってバッター1人抑えるのにも神経を使う。
そろそろ球数も80球に差し掛かろうとしており、制球も徐々に利かなくなってきて真ん中に集まり始めている。
「おい、松宮?」
「っ!!はい、なんでしょう?」
「ネクストお前じゃねぇのか?」
キャプテンに唆されて息つく暇もなく、ヘルメットを被りバットとバッティング手袋を持ってネクストサークルに入った。
ネクストサークルに入って間もなく、前の打順の結城が左中間を破ると快足飛ばして2塁に滑り込んだ。
ノーアウト2塁と一打先制の場面で…、
『3番ピッチャー 松宮くん』
オレに打順が回ってきた。
左バッターボックスに迎い、スパイクで足場を均してからガツガツと自分のスタンスに合わせてスパイクで土を掘る。
トン、トントントンとバットのヘッドで4回ホームベースを叩いてからリストを使ってバットを2回転させるというルーティーンをし終えてから打席内で構える。
マウンド上にいるピッチャーが、一瞬だけどこか試合とは全く関係ない場所を見てからセットポジジョンに入った。
そして投げられたボールは…、
ーーーガッ!!!
「い゛っ………!?」
身体スレスレに投げ込まれたボールを避けようとしたが、まるで獲物を追いかける蛇のように迫ってくるボールがオレの肘関節にぶつけられた。




